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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
32/87

変更

「よし、お前をクーと名付けよう」


コグマを・・クーをタカイタカイしながら名付けてみた。


「ぐぅわー」


実に表現が難しい鳴き声で答えてくれた。外見からは「モフー」とか似合うんだけど。さすがにそれは無いか。


翌朝、避難所前の焚火の周りには、傭兵団連中の姿とギオニスと女騎士殿の姿があった。

夜番のザイケン班とソロ組の何人かは寝ている。ギルド組は騎士団と共に出掛けた。


クーは大分元気になり、好奇心旺盛なのか、そこかしこに歩き回って鼻先をつっこんでいる。

でも、俺が「クー」と呼ぶと嬉しそうに駆け寄ってくるのを見ると、何とも言えない気分になる。よしよし。


「クー・・・ですか?」


「なんで、クー?」


クリュネとギオニスが疑問を投げかけてきた。


「クマだから」


「クマ?クマってなんだ?」団員から声が上がる。


こっちの世界ではクマはクマと言わない。


「ホーラ、クーちゃん~ おいしいよ~」


ダナが干し肉でクーを釣ろうとして・・・釣れた!

クーは器用に後ろ足で立ち上がると、前脚で干し肉を欲しがるようにわたわたする。まだしっかり立てないのか、すぐ後ろにころんと転がった。ダナがニマニマしながらクーを撫でて、干し肉を与えた。

コグマに干し肉与えていいのだろうか?でも美味そうにカミカミしてるしなぁ・・。


「若、このコグマ、クモにやられたんですかね?」バウロが尋ねてきた。


まだ相当数クモがいると仮定した場合、付近の生態系が狂うほどの食料の乱獲が繰り広げられているかもしれない。その中の一つの例と考えているのだろう。

しかし、まだ足腰の座って無さそうなこのコグマが、あのクモ共から逃げ切っているというのが気にかかっている、というところか。


「半分正解」


「半分、ですか」


村の中にはアザレア騎士団も黒華騎士団もほとんどいない。朝早くにもクモの掃討と死骸処分に行った。

現在この村にいるのは傭兵団の面々とギルドの3人、村人、騎士団ズの従者や交代要員だけだ。


「おそらく、クモの目的はこのクーだ」



「「「「「はい?」」」」」



皆してギョロ目すんな。口を開けんな。


「えーっと、なんでというか、根拠とかは・・・?」


「勘だ」


「えぇー・・・」バウロが言葉に詰まる。


みんなも同様だな。まあ仕方ないか。


「ふむ。なら、仮定の話をしようか。お前達は【神獣】を知っているか?」


「大森林のエルフィムが祀る【神使】の別名だよね?」


流石腐っても殿下、ギオニスが答える。殿下関係ないけど。


「私も聞いたことがある。森ごとのエルフィム、各部族が一柱づつ神の使いたる【獣】を中心に纏まっていると」フェルニもなかなか知ってるな。


傭兵連中は・・・うん、お前らが知らないことを俺は知ってる知ってた。


「このクーはその【神獣】だな。おそらく」俺にとっては確信だが。


「ええっ!?」ギオニスは反応が大きいな。


「若。ということは、あのクモは・・・」


流石バウロ、ただの脳筋とは違うか。


「これもおそらくだが、あれも【神獣】だろうな」


「ではこれら一連の厄介ごとは・・【神喰いの儀】ってやつですか・・?」


「多分な」


バウロは「まじでか・・・」と呟いている。


ギオニスは「えー・・・えぇー・・」と唸っている。


「話し中申し訳ないが、教えてもらえないだろうか?【神喰いの儀】とはなんだ?」


フェルニがすまなそうに聞いてきた。

クリュネも知らないらしい。ラインレッド領に接するオンデルの森にはエルフィムの氏族はいないからな。噂にも聞いたことがなくても仕方ない。ココは田舎なのだ。


【神喰いの儀】


神獣が神獣を食べる事をいう。

大森林に存在するエルフィムの氏族による国家群、通称【エルフィム国家群】(そのまんま)、50以上の氏族が【国家群】としてまとまり外敵に備えつつ、群内では不戦の約定を結んでいる。連邦制などではないのは、氏族は全く別物としての考え方があるそうだ。


そのややこしいエルフィム氏族は、ある一つの象徴を中心に纏まっている。

それが【神使】や【神獣】と言われる【獣】


【神獣】は一見、ただの獣にみえるが、エルフィムにしか分からない【森神の加護】を持っているらしい。

ゆえに神獣は各氏族内で厳重に“保護”されている。“管理”されている訳ではないらしいが詳しいことは知らない。


そんな森の【神獣】様だが、稀に【神獣】を【神獣】が襲うことがあるらしい。

それは【神喰いの儀】と呼ばれ、いつそれが起こるかは不明。森神様の思し召しと捉えられ、【神獣】氏族同士の戦争になるらしい。守り切れれば勝ち。食われれば負け。


【神獣】を食われた氏族は、滅びるか次の神獣が生まれるまで耐え忍び、【神獣】を食った【神獣】はその力を増し、氏族は栄えるという事らしい。


神の意志【神災】の一種なので、遺恨は残せないそうだ。そんな上手くはいかんと思うが。


「今回の一件を、その【神喰いの儀】の一環であると仮定すると、まあこの状況にある程度の合理性が生まれる」


・・のだが、いくつかの不審な点はある。


なぜクモが森から出て氏族ではない人を襲っているのか、とか。


神獣は基本、成獣が長年生きて成るものと聞いたのに、クーはなぜコグマなのか、とか。


「可能性の話になるが。確認されているだけで500以上もの眷属を統率出来る魔物は【神獣】以外に考えづらい。そのクモがなぜかこの付近に居座っている。そんで【神喰いの儀】の存在がある以上、クモが優先して狙う可能性が高いのは同じ【神獣】だ」


「そのコグマが【神獣】であるというのは?」


「そこが、勘だ」


「な・・るほど」


「これも勘だが、クーは【神獣】の血統、子供ではないかという気はする。【神獣】は個体ではなく森ごとの守護種族とも聞いたことがある。親と離れて迷子になったところをクモに狙われたのかもしれん」


俺がクーを見てると、視線に気づいたのか俺の足元に寄ってきて、体に登り始める。

イタイイタイ。

背中を一つ撫でてやると、抱き上げて胡坐の上に載せる。寝始めた。かぁいいなぁ。


クリュネが羨ましそうに見てるが・・ムシムシ。


「・・・じゃあ、アトル。この状況はちょっとマズいんじゃ・・・?」


さすがギオニス。


「そうだな。作戦を変える必要がある」


「どういうことですか?若」クリュネ。


「クモの目的がクーである場合、非常にマズいことになる」


「クモが・・・来ますか」バウロ。


「来る。俺がクモの主なら、クーの存在を知ったら、即座に大群をもってここを包囲する。混戦の中でクーを奪取する」


混戦じゃ俺も周りをフォローしきれない。犠牲が出すぎる。


「じゃあ・・・そのコグマ・・クーを囮に?」


言いにくそうにバウロが。


「この村に置いておけないことは間違いない。なら俺が連れて村をでる」


「・・・危険ですっ、若!」クリュネが慌てるが、これが最もベターな方法であることは、この場にいるほとんどの人間にも解っているのだ。俺一人ならまず死なない。


「問題ない。クーを連れて、狙ってきたところを返り討ちにする」


「でも・・・」


クリュネは、理解できるが納得はできないようだ。


「・・・少しいいか?」


今まで沈黙を保っていた女騎士殿が声をあげた。


「その・・意味が分からない。そなたらは大人だろう。傭兵だろう。なぜ子供が一人で行く話になるのだ?」


至極もっともな意見。


「その子がとても強いということは私も聞いている。しかしクモの大群を相手に一人で勝てるわけではないだろう?敵の首魁を狙うにも、敵は大多数だ。ならばなぜ、仲間を頼らない?数が足りないなら我が騎士団を頼らない?それは傲慢以上の無謀ではないのか?」


おぅ、耳が痛い。


「違うんだよ。女騎士さん」


バウロが苦い顔をしながら応えた。


「信じては貰えないだろうが・・・。若はそういう・・なんていうか・・数とかじゃないんだよ」


「・・それはどういう」訝しむ女騎士殿。


「認めたくはないが。俺らよってたかって“足手まとい”なんだよ」


「足手まとい・・?」


「・・・情けなさ過ぎていいたかないんだが、俺ら傭兵団全部まとめてでも、若一人に及ばない。一緒に行けば若に“庇われ”ちまうんだ」


そう自分を髭すんな。違う、卑下。髭もすんな。約束だ。


「そんな、それほど、」女騎士殿、言葉が詰まっちゃった。


「あ、でも僕はついてくよ?」


ギオニスが手をあげた。


「ん。ギオニスか・・まあ来たいならいいか。前みたいにヘマすんなよ?」


「わ、わかってるよっ!」ギオニスは顔を真っ赤にして言い返してきた。


「なんで、そなたがっ!?」と女騎士殿。


ギオニスに対しては過剰反応する人だなぁ。


「だって、付いていけって命令だし。防衛と対集団戦得意だし。僕は自分の身は自分で守れるしね」


「わ、私も命令を受けている。ついていくぞ、私もっ!」


ああ、言っちゃった。


「えぇ。フェルニ殿も守れるかな・・」


「そなたに守ってもらうつもりなどないっ!」


今にも剣を抜きそうだ。

仲いいなぁ。


「痴話喧嘩か?」と俺が茶化すと、

「・・・ッ!?」

女騎士殿は真っ赤になって固まってしまった。


(え?まさか図星なの?)


ギオニスを見ると、「へへへ」と言いながら恥ずかしそうに頭を掻いている。

・・・その反応は・・それはそれで信用ならん。


「ふむ、二人も来るのか・・」


ギオニスがいれば、まあ死にはしないだろう。しかしそうなると1班作った方がいいかもしれんな。一人二人ついてくるなら班の方が使い良い。


「私も・・・」


「ダメ」


クリュネが手をあげようとしたが即座に却下。


「うぅ~」と唸っている。


「・・俺も、連れてってもらえませんか、若!」


バウロが真剣な顔で言ってきた。


「ふむ。まあ、いいだろ」


「い、いいんですかっ!?」


言った本人がなぜ驚く?


「どうせ一人二人くっついてくるなら、班で行った方がいいだろ。お前は探査もできるし、そこそこ強くなってる。ギオニスがいるなら、とりあえず包囲で圧死はなくなるだろ」


「ありがとうございますっ!」バウロ超いい笑顔。そんなうれしがらんでも。

それから俺も俺もとみんなが手を挙げるが、ダメだっつの。ここの防衛どうすんだ。


「ハッジ、ここの指揮は任した。ダナも居残り。そんな顔してもダメ。ここにだって戦力はいるんだからな。行くのはバウロとギオニスと女騎士殿と・・・」


クリュネがまだ手を挙げてるが、無視。ダメだっての!


「後はオレか」


何時のまにやら、ザイケンが座っていた。寝てたんじゃないのか。


「若が行くのに俺が行かんでどうするよっ!」と豪快に笑っているが、みんなにBOOと言われている。言ってきくような奴ではない、か。


「まあ、別にいいけど」


とりあえず、5人とクマ1頭。


「ワフォン!」


「若、フォッサも行きたいって」フラウバンがフォッサを撫でながら言った。


そうか。


俺は、クーと傍に来たフォッサを交互に撫でながら、至福を味わう。

じゃあ、5人と2匹で行こうかね。


クモ退治に。

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