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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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男爵

(よくもまあ、こんな天幕張ったもんだ)


避難所前の村の広場に白い天幕が三つ。

その中で一番小さい天幕に案内された。


(なんともまあ、手間と金のかかった・・・)


俺は思わず感心してしまった。

天幕の内側には控えめではあるが強力な魔法陣が描いてある。詳細は・・読めん。矢や火に対する耐性以外にも、なんかややこしい記述がある。こういうとこで学の無さがでるな。魔法の勉強したい。


天幕内にはさっきの黒華の代表と側近であろう2人、今入ってきたバックストンと女騎士殿、俺、そして、隅の方に・・・ギオニス。なんか居心地悪げに、ちっさくなってるな。顔色悪いし、メシちゃんと食ったか?


「お初にお目にかかる。“紅の旗”傭兵団のアトル・ラインレッド」


真ん中のおっさんが、奥の見えない良く分からない笑顔で、話しかけてきた。


「私は黒華騎士団副団長ヴァルダンド・マスキム。後ろの二人は私の副官オディムとルージャだ。以後お見知りおきを」


無難な紹介だけなんだが、このおっさんなかなか食えないヤツ臭がすごい。鼻が曲がって花が咲きそうだ。


「お初にお目にかかります。マスキム卿。御承知でしょうが、私はアトル・ラインレッド。“紅の旗”傭兵団の予備隊に所属しております」


と、形式ばって返してみると、おっさんはさも楽しそうに、


「これはこれは・・流石はラインレッド子爵のご子息。貴族の振る舞いも堂に行ってなさる」


「いいえ、マスキム男爵。同姓ではありますが、私はラインレッド子爵の血縁ではありませんよ。身内か?と問われれば是ではありますが」


「おお、それは申し訳ない。私の早とちりだったようだ。てっきり2年前のアルダベルを墜とした“ラインレッドの隠し剣”とは貴殿の事だとばかり。例の件とは無関係であられるかな?」


「男爵もお人が悪い。黒華の副騎士団長ともあろうお方が、その程度の情報ご存じでないということがありますまいに」


「いやいや、王華だ騎士団だと世間では大層な言われようですがな、所詮は剣しか能のない者たちの集まり・・情報収集などはとんと不得手でしてな」


「なにを仰いますか、“マデリーンの反乱”情報戦だけで上手く鎮めて見せたと聞き及んでおりますよ」


ウンヌンカンヌン。


・・・何のやり取りだよ、これ。

初手を間違えたか。子供然としとけばよかったか?


このおっさん、子供相手の話題じゃなかろうよ、ギスボン産出の金相場なんてしらんよ。この場と何の関係があんだよ。先週終値でキュロ21ヴェラと170ゼルだよ。何で知ってんだよ俺。


今、俺の脳内は、過去聞いた話やなんやを大急ぎで掘り起こしている。


このおっさん、初めて見るが結構な有名人だった。


アルザントの鷹・・・だか獅子だか虎だかと呼ばれてるおっさんだ。

無領の男爵。300年以上も代々当主が騎士となる血統騎士マスキム男爵家。

その男爵家の今代の当主は、男爵家の長い歴史の中でも最も優れた最高の騎士と伝え聞く。四色王華の団長職が王族や上級貴族の受け皿でなければ・・・と常々囁かれる人物だ。


「閣下、そろそろ本題を・・・」


おっさんの後ろにいたちょび髭が助け船を出してくれた。ありがとう。


「おおそうだな、世間話は後でもできる」


したくないよ。


「遅くなって申し訳ない、傭兵団の戦士がアルダイルの御許に召されたとか。お悔やみ申し上げる」


「ありがとうございます。今頃、かの神と杯でも交わしている頃かもしれません」


おっさんは肯くと、

「とりあえず、ここに来てからの事を聞かせてもらえるだろうか?」


やっと本題か。


かくかくしかじか。(ついにこの表現を使う日が来ようとは・・・!


「なるほど、そのクモの主が、今回の一件の主犯という事か・・」


「なんという奴だっ!、理想も理念もなくただクモを操って殺戮するだけのために村を襲うとは・・っ!」


女騎士殿、お冠である。


奴の目的については、不明とだけ言ってある。神獣だなんだの予想は、あくまでも予想で証拠があるわけじゃない。


「ふむ。アトル殿は奴の目的に・・なにか思うところはないか?」


「さぁ、今言ったこと以上は、皆目」すっとぼける。


「会話や行動の内容からすると、クモの主はどうもこの地で何か探しているか待ってるかのような気がしますね」とちょび髭の反対に立っている若い騎士。たしかルージャ。


「しかし、もうこの地には我々100人近い騎士や戦士がいる。逃亡してしまっているのでは」と女騎士殿。


そんな会話の間中、おっさんは俺を見てる。


妙に熱のこもった視線だ。


・・・まじか。まさかそっちの人か?

やめてくれよ。おれはノーマルだ。

もう少し背が高くなったら可愛い彼女作るんだ。

結婚したらアザレアの郊外にでも一軒家たてて、可愛い嫁と一緒に住むんだ。

フォッサのようなかわいい使い魔飼うんだ。

どうせフラウバンはフォッサくれないし。


「アトル殿」


俺が妄想に浸っていると、急におっさんが声をかけていた。


「なんでしょう」


「我が騎士団にこんかね?」


「ご遠慮申し上げます」


「・・・」


「・・・」


「そうか」


ほんと、なんなんだこのおっさん!

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