聴取
「オイッ、ギオニス!ギオニス・フィレーヴンッ!!」
ギオニスと同じ黒い鎧を着た騎士が、肩を怒らせて俺たちの輪に近づいてきた。
「ギオニス・フィレーヴン!いくら独行権(単独行動権)を持っていても勝手は困るっ!」
でたっ!
女騎士!!
容易に俺を動揺させた手練れ(?)の女騎士殿は、バウロをチラリとみると「傭兵団ともギルドとも、もう話はついた。ギオニス、貴様にも副団長から命令が下る。早く来いっ!」
随分高圧的な女騎士殿だなぁ。
「あっ!すいません、フェルニ殿っ!直ぐ行きますっ!」
ギオニスは飛び上がるように反応すると、「ごめん、また後でねっ」と女騎士殿と自陣に帰っていった。
「若若、結局、なんで殿下って呼んでるんですか?ほんとに王子なんですか?」
とクリュネが服の裾を引っ張ってきた。
それには深い事情があるけど。説明するのもめんどくさい。
「説明がめんどくさい」
「えぇー」と抗議の声を挙げられたが、まあ無視。
「バウロ」
「ええっと、はい・・・」とさっきまでの会議の内容を説明し始めた。
「振り分けは・・・とりあえず周辺のクモの掃討は黒華がやるそうです」
まあ、そうだろうな。3個小隊60人以上もいるもんな。
「クモの死骸掃除はアザレア騎士団の魔術士が。ウチは、村の警備を現場依頼されました」
なるほど。騎士団が居るのに傭兵団にしゃしゃり出られては困るから、正式な依頼で釘を打ってきたか。
「ンだよ。オレらは村で寝てろってことかよっ!」猛るザイケン。
「あの・・村人を、村の外に避難させたりはしないんでしょうか?」
「「「ダメだ(ですよ)」」」
ポーレさんの質問に、俺以外の傭兵3人が答える。3人一斉に即答されたのでポーレさんも吃驚した様だ。
「えっと・・理由を聞いても・・?」
「まず100人以上の人間の移動を守り切れねぇ。その余裕もねぇ。受け入れられる町もねぇ。難民生活はある意味ここより酷くなる」
ザイケンが即答した。言葉に色んなものが染みついている。身をもって知ってるからな。黙ってしまったザイケンの後をバウロが続けた。
「それもある。周辺の探査や掃討もしないうちに移動すれば、魔物に後をつけられる可能性がある。そうなれば二次三次の被害がでるんだ」
クモの主がいることを知っていれば、その可能性はそこそこ低いが。
「そ、そうなんですか、すいません・・・」と肩を落としたポーレさんを、
「いいえ、村人の安全を考えれば当然の発想です」とバウロがフォローする。
「んで、若。どうすんですかい?」ザイケンが俺を見た。
「バウロ、黒幕の事は・・・」
「監査官殿が」即答。
言っちゃったか。釘刺しても・・・まあダメだっただろうな。仕方ない。
「黒幕は黒華騎士団が追うと主張してます」
「ポッと出がしゃしゃりやがってっ」ザイケンが悪態をつく。
クリュネも不満そうだ。
「別に俺らがやることに変わりがあるわけじゃない」
騎士団には精々働いてもらうさ。
「クリュネ、ハッジとダナ、使い魔組を呼んで来い、悪だくみ、するぞ」
皆でこそこそ悪だくみした後、アザレア騎士団第2騎士隊長バックストンと黒華の騎士が連れ立ってやってきた。ん?さっきの女騎士殿か。
「遅かったな」と俺が言うと、
「バウロ。お前たちは未だ子供頼ってて恥ずかしくないのか?」と無視してくれた。やんのかこの石頭。
「ウチは能力重視だからな、バックストン。あんたのトコとは違う」
「フン。己の力不足を自慢するな。情けない」
「ケッ!若に一度も勝てやしないくせにっ」とザイケンが揶揄る。
「力量の上ではそうだろう。だが、お前たちの様に子供に頼る軟弱ではないわっ!」
憮然と返すバックストンに、バウロが冷ややかに笑って返す。
「認識の違いだな。俺らは若の剣であり盾だ。若が征く道をついていくだけさ」
え?
俺、どんな道行くの?不穏なこと言うなよ。日々平穏がいいよ?
「そういう応酬はいいから、バックストン、事情聴取に来たんだろ?」
言い合いさせれば時間が掛かるので、俺が釘を打った。
さっきウザン氏が黒幕の事言っちゃった、って言ってたからな。
「・・・そうだ。黒華騎士団の天幕で事情を聴きたい」
「黒華の?」
俺が女騎士殿を見やると、
「バックストン殿、彼は・・・子供ではないか・・」
でた。この反応。お馴染みの。
「この子が、先の話の・・・傭兵、なのか?」
「左様。フェルニ殿、信じられないでしょうが」
女騎士殿がマジマジ見てくるので、
「よくある反応、ありがとう」と微笑みかけてやった。