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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
26/87

指令

「らしい、とは?」


「僕も詳しいことは知らないよ。どうも長老会から国政委員会に箝口令が敷かれたらしい。今は宰相預かりさ」


王宮の政治体制と権力構造は複雑怪奇だ。

実際の政は、王を頂点に宰相と国政委員つまり10人の大臣が担う。

しかしその権力とは別に、長老会という良く分からない集団もあるのだという。表向きは各界の賢者・識者を集めたシンクタンクだとなっているが。それにしてはただならぬ権力を保有している。オブザーバーどころの話ではない。


「連絡は今から、10日以上前にあったらしい。アトルはアイルゼン領フィトチカを知ってるかい?」


アイルゼン?

隣の領だ。北、地図上で言えば上に当たる西の盟主アイルゼン辺境伯の大領地。ラインレッド領の6倍ほどもある領地で地方領主の取りまとめもしている。

アイルゼン領の領都ヴィンガーデンドは、アザレアとは比べるべくもない大都会で、王営空路網の第一路としても選出され開発された。南西アルザントで唯一飛空艇空港のある領だ。


「フィトチカは知らない。町か?」


「ああ、フィトチカはアイルゼン領の最西端にある町。黒華が年一回の演習に訪れる町でもある」


「大森林の間近、ということか」


「うん。そのフィトチカがね、2週間以上前、半壊の憂き目にあったらしい」


この世界の暦は1週間8日で、創神オリアスの8人の妻の名がついている。

春夏秋冬4つの季節に各祝節なるものがあり、前の世界で言う月間という物がない。

つまり8日を祝節の12の分繰り返して96日。それを4つの季節分で384日で1年だ。

ちなみに祝節は神がもたらした福音の数だそうだが、それが何なのかは知らない。協会には行くが教会にはいかないもので。


神式歴を正式な暦の名称として教会は一生懸命普及させようとしてるが、

「春節のエキュリアのエデュース」なんて言い方、俗人はしない。

「春の8節の2日」とか「春の61日」とかそういう言い方をする。


がんばれ教会!俺は使わないけど!


「ど・・どうしたんだい、急に黙って・・」


おっと、またも脱線してしまった。


「クモにやられたのか?」


「ほんと、アトルは回転というか・・察しが早いね。うん、フィトチカはこの村に毛が生えた位の小さな町なんだけどね。無数のクモが襲ってきたらしい」


「唐突にか?」


「発表ではそうだね。アイルゼン伯爵はすぐに騎士団を差し向けたが、クモはもういなかったそうだ。町の生き残りの話では次々と人を襲って・・・餌食にしたと・・・」


ギオニスは、想像して気持ち悪くなったらしい。

クリュネとポーレさんも泣きそうだ。


(獲物を探さなかった?)


この村では罠を張っていたのに、その町では違う。何かを探している様子はない。そこにはいないことを知っていた?なら、ほんとに単純なエサ場として襲って来た、ということか?


「村の壊滅は伯爵の評判に関わる。でも事態は村の半滅で証言者も多数、毎年の騎士団演習の逗留場所でもある、隠せない。だから伯爵は王都に一報入れた。それが約2週間前。それがなぜか長老会の耳に入り、箝口令がしかれたということさ」


「そこに黒華がどう関わってくる?」


「・・・急に、演習命令が出たんだよ。ラインレッド領のクロワト村でしろってね」


「・・・」


「名目上はね、フィトチカと同じく大森林に近く、フィトチカから距離も離れてない為、再度クモの襲撃があるかもしれないから、演習ついでに周辺を調査しろってね」


「どこからきた命令だ?」


「・・わからないけど・・・たぶん・・・」


「・・・長老会か」


大変、胡散臭いお話しでした。


―――


しかし、なんとも座りの悪い話だ。

ギオニスの話によると、フィトチカはアイルゼン領の南西の端、つまりラインレッド領に近い場所にあるらしい。うちの領とは街道もなく行き来がないので、あまり有名ではないようだ。


しかしだ、ここクロワト村の北には同条件の村落が2つある。そこではなく、ピンポイントでこの村に演習命令が出る、その意味とは。


知っていた、予見していた、事前情報を有していた、という割には対応が鈍い。

2週間前には演習が決まっていた。

クロワトで何か起こると予想していた。

実際、騎士団もきてる。

しかし確信的な情報があれば、子爵に情報が下りてきたはずだ。

何かあれば騎士団で・・程度の対応に見える。


要は、情報の出どころか。なんかの伏線ぽいなぁ・・これが何かの物語ならばだが。


中央が何かをしているという感じは、今のところ無い。隠してることはあるだろうが。

あそこはあそこで魔境だからな。深く考えても仕方ない。今は目の前の事だ。


「若、話がまとまりました」


バウロが帰って来た。会議は終わったようだ。


「バウロ、久しぶり」


「んん?あっ、ギオニス!?おもらしギー坊かっ!?」


「おもらしじゃないよっ!!鼻垂れだよっ!」


「おお、そうそう鼻垂れ鼻垂れ」


「・・・そうだよ、そのギオニスだよ・・・」


もう言い返す気力もないらしい。

自分で言って自分で落ち込んだよ。上級者だなぁ。



「そうかー、殿下も随分立派になったもんだ」

バウロは感心しきりだ。


昼寝をしていたザイケンまで寄ってきて、しきりに笑いながらギオニスの頭をぺしぺしと叩いている。そういえばザイケン、ギオニスを弟分として可愛がってたな。

「ザイケンっ、もう子供じゃないんだからっ」と手を払っているが、やめる様子はない。

「お二人も、お知合いなんですか?」とクリュネ。


それにはギオニスが、

「さっきのアトルの話で出てきただろ?あの不良兄弟がバウロとザイケンさ」


「「えぇーっ!」」とクリュネとポーレさんが驚いていた。


そういやさっきの話で名前は出てきてなかったな。

ほとんど俺の描写ばかりで。

もはや気恥ずかしさも感じない。


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