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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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再会

「殿下・・ですか?」


「いやいやいやいやっ!その呼び方はやめてくれよっ!」


ポーレさんの疑問に、大げさに拒否反応するギオニス。

相変わらず、大げさな奴だ。仕草が芝居じみてる。それが似合ってるのがまた癪に障る。


ギオニスを一言で表すなら「王子様」といった言葉が至極ぴったりだ。

貴族令嬢とも見間違いされることも度々あったその顔は、以前より髪が伸びていたせいか、もはや「王女様」でも通ってしまうだろう。

これがあれか、男の娘ってやつか?違うか?


イケメン爆発しろとまでは思わないが、なんかこの世のナニカの偏在を感じるな。

未だ二十歳にも満たないギオニスはその美女とも見紛う白皙の美貌で、また芝居のごとく涙ぐみながら俺に抱き着いてきた。

鎧姿で抱き着くなよ、痛いよ。


「んで、なんでというか、まさか黒華に入ったのか?」


鼻水つけんなよ?

されるがまま、一応聞いてみる。まんま黒華騎士団の装備着てるし、しかも階級章は双剣と旗、準上級騎士、副隊長級だ。


「ああ、実はそうなんだ。あれからいろいろあってね」


とギオニスは爽やかにはにかんだ。なんかキラキラ光が見える気がする。爆発しろ。


・・・ハッ!まさかっ!「クッコロセ」役はコイツだとかッ!?

「僕の心までは・・屈っさせることはできないよ・・・っ」とか!

この世界はそんな需要まで歪めてしまったのかッ!!??


・・・


ああ、うん、それは、ないない。

日本のサブカルは、ほんと罪だ。

そのケの無い俺まで汚染されてる。

ああ、ケ、なかったな。

あっはっはっはっ!


俺が心の中だけで爆笑していると、


「聞いたよ・・・アトル。仲間が犠牲になってしまったそうだね・・」


ギオニスが言いにくそうに口にした。


「犠牲じゃない。奴らは自分と自分の仲間の為に戦って死んだ。何かの犠牲じゃない」


それは“戦いを生業にした者の誇り”だ。


「あ、ああ、そうだね、ごめんよ・・・」


ギオニスほど感情と表情が直結してる奴もいないだろう。

ずーん・・という文字が周りに浮かんでそうなほど落ち込んでいる。


「若・・お知り合い、ですか・・・?」とクリュネ。


「うんまあ、王都にいた時に面倒みさせられた」


「面倒、ですか?」


「うんうんそうそう、妙な事情から命を狙われてしまってね。アトルに助けてもらったのさ。ああ、ご挨拶が遅れてしまったね、僕の名はギオニス・フィレーヴン。アトルの古い馴染みさ!」


最高の笑顔で自己紹介するが・・。

こいつ、古い馴染みって言ってみたかっただけじゃないか?


「どうだ、あれから」


「うん、何事もないよ。騎士団にも入ったしね」


それは、まあ、良かった。

ギオニスはさも当然そうに、輪の中に座った。ポーレさんも思わずマグにお茶を注いで渡してしまった。子供みたいにフーフーして飲んでやがる。


「お前、副隊長だろ。こんなとこで油うってていいのか?」


「あ、ああ、構わないよ、指令系統は別だし、配下がいるわけでもないからね」


焼き菓子にまで手を伸ばしやがった。俺の虎の子に。


「副隊長じゃないのか?」


「階級上はね。あっちにいるのは黒華本隊のほうさ。僕は・・何というか・・」

しばらく考えこむと、

「今度新設される王属特務隊からの研修生として、一時的に席を置いてるんだ」


聞いた事ないな。


「それって、機密じゃないのか?」


ギオニスは、ちょっと笑って肩を竦めた。


「まあそうだけど、王都じゃもう公然の秘密。近く発表されるしね。10人足らずの部隊さ」


え?お前、出世したの?まじで?魔法の腕はあったが、鼻水垂らして泣いてるお前しか思い出せないよ?


「それは2年も前のことだろっ!?あれからちょっとは成長したさっ!」


そんな恥ずかしそうに胸を張られても・・。


「だからね、ちょっと、騎士団の中では浮いててね・・。研修生ではあるけど一応単独行動権もあるんだ。せっかく再会できたんだし、ちょっとこっちに置いてよ」


ウィンクしやがった。

ウィンクしやがった!

する奴初めて見た!


「しかしこうしてると思い出すなぁ、魔物も裸足で逃げ出す魔都・王都ウルダードで、アトルと過ごしたあの冒険の日々・・・」


ギオニスがなんか流暢に話し始めやがった。クリュネとポーレさんが興味津々とばかりに真剣な目で聞いている。


「・・・途中で出会った不良兄弟も交えての最終決戦!あの時のアトル・・まるで闘神もかくやという風だったよ!一番体が小さいアトルがあの場で一番大きく見えたんだ!・・・戦いの神アルダイルも真っ青さ!」


神官に聞かれたら怒られるぞ。

クリュネもポーレさんもすっかりギオニスの話術に引き込まれて「うんうん」「ええっ」「はわわっ」「やったー」ってのめり込んでる。こいつ吟遊詩人かなんかになった方がいいんじゃないか?


その後もギオニスの冒険活劇話は続いた。

俺もついつい昔(2年前のこと)を思い出してしまった。


「それはもう憧れたよー。それでね、僕もアトルの様に強くカッコよくなりたくてね、騎士団に入ったらあれよあれよという間にこうなっちゃったんだ」


俺の事30分、自分の事一言か。しかも説明になってない。


「まあそれはいい」


情報収集しよう。


「それでなんで黒華は、こんな辺鄙な村まで来ることになったんだ?」


「うん?演習だよ?」


「・・・・」


「・・・・」



俺が、瞬間的に、ほんの少し、ほんの少しだけ、眼に【威圧】を込めた。

ぶわっと、ギオニスの顔から汗が噴き出る。



「ううぅっ、そんな怖い顔しないでよぅ・・」


向こうじゃイメージの悪い威圧外交だが、有用は有用なのだ。諸刃の剣ではあるけれど。

クリュネとポーレさんは「?」って顔をしている。ギオニスにしか解らない様、気を絞ったしな。二人には気づかれてない。



(おお、すげぇ、黒華代表のおっさんがこっちみてる)


俺だとは気づいてないと思うが、今にも腰の剣を手にかけそうな目で、周囲を見てる。今の威圧に気付くとは、ほんと大したもんだ。


ギオニスはしばらく言いづらそうにしていたが、


「意を決しろ」

と俺が言うと。


「はい」

と頷いた。


素直な奴は良い奴だ。感涙に咽んでやがる。ほらクッキー一個食っていいから。な?

ギオニスはクッキーを二つもモグモグしながら言った。


「実はね、王宮に連絡があったらしいんだ。クモが出るって」


クリュネとポーレさんの顔色が変わる。


俺は自然、目を細めた。


(二つも・・・だと・・!?)

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