到着
ちと短いですヨ
昼過ぎに騎士団が来た。
村を囲っていたクモの巣は、朝にはみんな消えていた。やはり結界魔法かなんかだったようだ。あんな自然現象あってたまるか。
村の外門から鈍色の騎士鎧の行列が入ってくる2個小隊ほど。魔物狩りは基本軽装だ。重装備着てる奴なんか・・・。うん、先頭にいたな。ここでそんな恰好する奴は一人しかおらんな。石頭め。
その後に、黒っぽい集団が次々に村に入ってくる。
あれ?一部赤いのもいるな。それに知らせより人数が若干多い。
全部で100人以上いるんじゃないか?確実に。
(・・・おうおう、ぞろぞろと)
「おうおう、ぞろぞろとまあ・・・」
・・・ザイケン!?俺の思考を読んだのかっ!?
微妙な驚愕を味わいながら、俺たち傭兵団は【アザレア騎士団】と【黒華騎士団】を迎えた。
バウロが傭兵団代表として、ウザン氏はギルドの代表として、村代表は知らないおっさん、騎士団と黒華の代表と何か話している。
騎士団の代表はどうやらというかやはりというか、第2騎士隊隊長バックストンらしい、超頭の固い奴だ。俺がいるとややこしくなりかねない。いるのは知っているだろうけど。
黒華は・・もしこれがアレな小説の中の世界でなら、女騎士団長でも来て「クッコロセ系」にでもなるのかもしれないが、生憎この世界はそれを許さないようだ。
普通におっさんだ。しかし気配は只者じゃないが。
手慣れたもので、2つの騎士団は避難所周辺の広場に次々と天幕を張って陣を立てていく。周辺の建物を利用しないのは、まあ、天幕の方が安全性が高いからだろう。
建物と天幕なのに、天幕の方が高級で頑丈に見えるのは何故だろうね。
俺は代表集会からは離れたところで焚火を囲んで、クリュネ、ポーレさんと共にお茶を飲んでいる。ああうん。お前もいるな、フォッサ。
「アトル君は、話し合いに参加しないんですか?」
ポーレさんが不思議そうに聞いてきた。
「子供ですからね」
ズズッ。
もう冬も近いのかね、熱い茶が美味い。
なにか、菓子は無いものかねぇ。甘いもの。
そうだ、俺の虎の子クッキーがあった。
俺の答えにポーレさんは「えぇー・・・・」となんか納得いかなそうな顔だ。
実際の話、俺が、身内の戦闘指揮はともかく、公式の場や作戦会議なんかにいると、侮られるか叱られる。
名が通ってる領都アザレアなんかでは、「ああ、あの」で済ませられることが多いが、外の人間が混じると十中八九、見とがめられる。
“しゃしゃりでない”これもひとつの処世術。
俺は自分の荷物から両の手のひらほどのカンカンを取り出す。カンカンとはいわゆる、缶のことだ。缶。
アザレアで人気の菓子店“グリングリン”で一番人気のクッキーセレクション(300ゼル)。一日限定50セットのこの缶は、開店即完売の超レア品なのだ。バンダ、ありがとう。お前の活躍を俺は忘れない。
蓋を開け、この世界で配紙と呼ばれる湿気を吸う作用のある紙を取ると、そこには小麦粉と砂糖と職人の腕による楽園が広がっていた。
(どれ?どれからいこうか?)
「そう・・・かもしれませんね。アトル君が実際強いところを見た私でも、まだ信じられないですもんね・・・」
「そうなんです。若がすごいの、外の人には分らないんですよ!」
普通、誰も分からんだろうに。
とりあえずスタンダードな、プルニ(アーモンドに似た実)からいくか。
モグモグ。
うーん、なんとも薫り高いなぁ。サクサクとしてるくせに、どこかしっとりと口の中で溶ける。程よい甘さはお茶ですっと流れるからついつい次も手に取ってしまうな。
・・・・・やるから。やるからそんなに尻尾振るな。
フォッサではない。
クリュネがじっと見ている。
尻尾が・・尻尾が見える・・。
さすがに俺も空気ぐらいは読む。
「ポーレさん、おひとつどうぞ」
「えっ、あの、いいんですか?これ、結構高いお菓子ですよね?」
「みんなで食べたほうが美味しいですよ」
「あ、ありがとうございます」
ポーレさんがおずおずとクッキーを一枚とって食べた。
「わあ、美味しい」
そうでしょうそうでしょう。
「わかー・・・」
「ホラ、クリュもお食べ?」と言ってやると、満面の笑顔で3枚も取りやがった。遠慮という物を知らんのか。だが俺も大きな男を目指す男、小さいことは言うまい。イウマイ。
「まあ、騎士団と相談なんて、面倒な話は苦手なので丁度いいんですよ」
話が苦手というより、めんどくさいがほとんどだけど。
話は後でバウロに聞けばいいし。
「それよりクリュネ、ムッカは?」
「はい、岩山周辺の偵察をさせてますが・・・いた形跡はありますが、引き払ったようです。クモノコ一匹いません」
昨日の夜のうちに移動したか。
移動できるのに、撤退勧告してきたのか。
「所在に気づいたのを気取られたか・・・なら移動先はオンデルしかないな」
奴はこの地に何らかの用があるから離れられない。それが村なのか周辺なのか・・・それとも“獲物”がこの周辺にいると思っているのか。
奴が万全を期して俺を迎え撃つなら、広大なオンデルの森しかないな。
奴を“狩る”には、その“獲物”を見つける方が早いかもしれんな。
「オンデルの森の方の偵察も頼めるか?」
「了解です!」
俺のマグが空になっていることに気付いたのだろう、ポーレさんが、
「アトル君、お茶のおかわりどう・・・」
と注いでくれようとしたところに、
「ア ト ル~~~~~~っ!」
と、誰かが大声で叫んだ。
(ふむ、なるほど、これか)と得心。
振り返るとそこには、喜色満面の、眉目秀麗、容姿端麗、紅顔のなんたら・・・という言葉がどこまでも似合う男装の麗人と間違われる男・・・
件の “ギオニス・フィレーヴン” が突っ立ていた。
「ようこそ、世界の果てに。殿下」
と、両手を広げて言ってみて、ちょっと恥ずかしくなった。
短すぎるので妙なシーン書き足したら妙な感じになりましたですな。
どんだけ菓子好きなんだと。