神獣
一晩明け。
俺も夜半からしばし仮眠をとり、今起きた。寝ないと周りの奴らがうるさい。なかなか子供も大変さ。
「わかー、朝ごはんですよー」とクリュネが朝ごはんを持って来てくれた。
なんでそんな小さい子に喋りかけるような声を出す。仕事上なら新兵のような口調のくせに。注意してもなおりゃしない。
暖かい芋粥と、ちと硬くなったパン。
美味かった。
避難所内の様子を聞くと、大分明るさが戻ってきたらしい。
そりゃそうだろう。クモに怯え、建物に閉じ込められてたのが、今は傭兵が警備してるし、今日には騎士団も来る。飯も食える。なんなら歌も歌える。まあ、誰もそんな気分じゃないだろうが。
「おぉ~ 朝~ 麗しの たいよ~う~」
・・・ザイケンッ・・・貴様ッ・・・!
おもむろにザイケンのパンを没収すると口に詰め込んだ。
「オレのうるわしのパンーッ!?」
ザイケンか吠えた。
「ワフォン!」
フォッサも吠えた!
恨みがましい眼で粥をすするザイケンはさておき。
騎士団が来ないことには動きようがない。
昨夜、焚火の場で「騎士団が来る前に、黒幕を狩ったら」という意見も出たが、そうなると物量戦になる。
恐らく。昨日岩山から来たという援軍200~300は居たそうだ。前の二つの森には100に満たない数しかいなかったのに、岩場にはかなりの数を温存していたことになる。
「ほら、若、食事中は考え事しないで、ご飯に集中しないと」
昨日の戦闘に全力を出してきたとは考えづらい。
昨日のあの黒幕の声にはまだ余裕があった。ブラフが失敗してもまだ手があると考えてるような余裕だ。緒戦は全力で来ず、最低限の手間で仕事の最低ラインを熟すタイプ。そんな人間が勝利条件の解らない戦いに全軍投入するわけない。
経験上で見れば、あの手のヤツは戦力を常時半数以上は残しているとみていい。
「若、足りないなら、おかわり貰ってこようか?食べ盛りだからね」
それになんだかんだ言っても、皆の昨日の疲れが取れているとは考えづらい。コンディションは下から数えた方が早いくらいだろう。
【戦士の福音】の後遺症もあるしな。
なんでも効果が切れた後、効果が掛かってた時間と同じ時間だけテンションが異常に低くなるらしい。ん?でもさっきザイケン、楽しそうに歌ってたぜ?あれでテンション低いの?普段どんだけなんだよ・・。
ふーむ。
「若、昨日、お父さ・・副団長に手紙送ったんだけど・・・」
「クリュ、うるさい」
「うぅ」
クリュネの頭と尻に耳と尻尾が幻視できる。力なく垂れさがっている。罪悪感など・・
「・・・ドドのオヤジ、なんて?」
「えっと、オーダさん達のこととかいっぱい書いたんだけど、返信には二言しかかいてなかったの」
「あのオヤジ、筆不精にもほどがある」
「えっと・・
『了解。ギオニス・フィレーヴン発見』だって。ギオニスって?」
・・・。
はい?
ギオニス?
発見って?
どういうこと?
この手紙にってことは、ここへくんの?ギオニスが?何しに?
(あのオヤジ、説明不足にも程度があるだろうよっ!)
・・・もういい、とりあえずそれは後回しだ。
消化不良な会話に時間をつか・・
「わかー」
神速でクリュネの脇腹を突くと、「はひょ」とか言って開けた口の中に、未だ食いかけのクリュネのパンをねじ込む。人の食事気にしてる場合じゃないだろう。傭兵は早飯早グソが必須スキルだってのに。
「先に食え」と一睨みすると、尻尾を丸めた。今度は構ってはやらん。
見かねたのか、フォッサがクリュネの横に座って「クゥーン」と鳴いた。
不毛だ。
続きを・・あれ、どこまで考えたっけ?うーん・・
・・・うるわしのたいよう・・・?
・・・・ザイケンッ!
八つ当たり気味にザイケンを睨むと、フォッサをエサで釣ろうとして無視されてやがった。いい気味だ。
・・・ああそうそう、戦力分析の続きか。
そう、前述から鑑みるに、岩山に黒幕がいる可能性は高いが、初期のクモの総数に若干の上方修正を加えなければならないな。
かなりの力のある使い魔の様だ。主は不明。
統べる眷属の数は使い魔の力に比例する。いくら制御を分割する任意統制型でも、大元から末端へと送る力は一本なのだ。
先ほどの複数の使い魔の件もある。
感覚共有を使い魔である判断条件にするなら、あの赤いクモ、アレから視線を感じた。ならあれを使い魔なのか?別にあの盗み聞きクモでもいいが・・・
プレッシャーが足りない。
少なくとも500以上の眷属を従えることのできる個体に見えない。まだ何か上がいる気がする。というか確信がある。
現在、王宮魔導士にカラスの使い魔を持つ魔導士がいるらしい。その眷属召喚数は314なんだそうだ。示威の為に盛ってるか、情報管制で低くしてるかはしらないが、はっきり言って、500以上あるいは1000を超す眷属を統べることのできる使い魔というのは、俺の知識上では限られてくる。ほぼ伝承の域だ。
そのほとんどは、大森林の中、その奥深くに棲む特別な【獣】。
そしてクモは森から来た。
ならば・・・
やつらは【神獣】なのかもしれない。
そして、仮にもし・・【蜘蛛の神獣】が何かを追ってきたと仮定するなら、
(追われている方もまた、【神獣】なのか?)