合流
「あのー・・わかー?」
クリュネが、ドアの隙間から顔をだしていた。
「これからの指示をお願いします」
「怪我人の処置は終わったのか?」
「あっはいっ、ポーレすごいんですっ!頑張ってくれましたっ!」
知らないうちに仲良くなってたらしい。年も近いしな。
作戦開始から・・4時間ほど経ったか。
「そうか。フォッサどうだ?」
フォッサはしばらくじっとしていたが、フラウバンからなんらかのリアクションがあったのだろう。
「ワンワオン。クゥーン」そしてオレ手をぺろっと舐める。
軽微なアクシデント。被害小。もうすぐ合流予定。
「よし。もうすぐ隊が合流する。子細は合流後だ」
・・・ふと思った。
オットーの剣に魔法をかけるのは「被害小」だったのか、と。
―――
「おぉお・・・?」
あれから30分ほど後。クモ狩り隊が帰ってきた。
思わず「なにがあった?」と思わず聞いてしまうほど、なんというか、皆、眼をギラギラさせ、肩でハフハフ息をし、全身から熱気を放ってた。目が座ってる。
比較的冷静だったバウロが答えた。
「ああいえ、ちょっと、フラウバンが【戦士の福音】を使いまして・・・」
ああ、なるほど。
それだけで、おおよそは解った。使って見せたか。
「5人は、地下だ」
そういうと、バウロ達は5人づつ順番に地下室へ向かった。フラウバンは真っ先に行った。ラドニーとは兄弟の様に仲が良かったからな。
大きな避難所ではるが、装備した傭兵20人以上の追加となると・・・廊下しかないなぁ。
地下室は・・・休めるか?むさい男との添い寝は流石のオーダ達も嫌かもしれんな。
とりあえず、玄関前に新しい簡易結界杖を打ち込み、陣を張りなおす。
団舎から持ってきた簡易結界杖10本の内、9本使ってしまっている。クモの包囲戦で6本も使ったそうだ。充魔しねぇと使えねぇってことで、魔法組にチャージさせてるが、ほとんど魔力が残ってないようで、なかなか貯まらない。
バウロから、作戦の経過報告を聞く。
なるほど、大方予想通りだ。奴が岩山にいる蓋然性が高くなった。
蜘蛛の大群には、結界で周囲防衛しながら戦ったらしい。
ゲームなんかでは反則に近い、戦って危なくなったら結界に入って休む。結界内から魔法ぶっぱなす。無論結界に負荷をかければ、持続時間はガンガン減るから、超短期決戦にか使えない。
陽も落ち始め、暗くなってきた。
玄関前で焚火を熾して、10人ほどで周囲を囲んで警戒に当たる。
残りは避難所の廊下で雑魚寝。
クリュネは村のおばさん達と一緒に食事の準備。ポーレさんは今だ回復せずおやすみ中。
討伐組の方に行っていたもう一人の治癒術士のおっさんも、よほど酷使されたのか、倒れるように寝てしまった。持ってきたマナエール20本全部飲んだらしい。大丈夫か、おっさん?頑張ったな、おっさん。
パチパチと弾ける焚火に当たりながら、バウロがきりだした。
「若、クモを操ってる奴がいるって・・・」
「ああ、いるな」
焚火の周囲にいる連中の眼が俺に集まる。子供が見たら漏らしそうな殺気だ。俺も子供だけど。
「そいつが、オーダ達を・・」
「そうだ」
「もちろん・・・」
「俺が斬る」
皆の顔が「無念」を物語る。解りやすい奴らだ。
「・・・了解です」
異議は認めない。俺の意志が伝わったのだろう。「俺が」の部分が。
俺がここに来てからの出来事を話した。
クモが出てきたこと。
避難所の事。
黒幕が出てきたこと。
岩山に本体が居そうなこと。
この村になんらかの用があると思う事。
あと、
「明日ごろ、騎士団が来るらしい」と言ったら、
全員一斉に「「「BOOOーーー!」」」
と言ったのには、笑った。
―――
「騎士団って、マーカスのトコですか?」
バウロが聞いてきた。
マーカスはアザレア騎士団にいる馴染みだ。
元々ウチの傭兵団にいたのだが、所帯を持ち子供が出来たのを機に騎士団に移った。
ラインレッド騎士団とラインレッド傭兵団、傍目には仲が悪いように見える、実際対抗意識は高い。だが悪いわけじゃない。大元が同じだからだろうか。
何代か前の領無し男爵ラインレッド男爵が、自前の運輸業警備のために傭兵団を興し、何故か戦で活躍することになり、あまつさえ時の王太子の命を救い、更には有名な敵将の首を討ちとったことから始まった領・・それがラインレッド子爵領だ。転生者かな?
ちなみにうちの団長・・おやっさんは現領主の弟。
俺の先生はさらに弟の三男。俺もラインレッドとついてはいるが、血のつながりはない。
そもそもこの世界では、家名は「名乗りたいならお好きにどうぞ」の世界だ。しかし、貴族の家名は名乗ると罪になる。
じゃあ、俺は何なのか?というと、いろいろややこしい。なんにせよ、元々俺には家名はなかった。
そういう訳からかどうかは知らないが、我が領の傭兵団と騎士団は距離が近い。実力を買われて、傭兵団から騎士団に移った者も、またその反対もいる。
まあ一緒に飲みに行ったりすると一様に「うらぎりものー」とからかわれるはめになる。
「いや、アザレアも来るが・・・・黒華騎士団が来るらしい」
「はい?」
「黒華?って・・・確か、中央の騎士団っ・・じゃなかったですかいっ?」
安定の大声、ザイケンだな。しかしよく知ってたな。ザイケンなのに。
「まさかっ・・・若をスカウトにっ・・!?」
どうしてそうなる、ダナ。
「いやいや、俺らがアザレアにいた時、もう町に来てたらしいじゃないか。お前ら知らなかったのか?」
「いやー・・聞いてなかったです」バウロ。
「いやー、呑んで寝ちまや、記憶なんてのこってねーですよっ」ザイケン・・・。
「あたしも」ダナ、お前もか・・・。
「オンデルの森で討伐演習だそうだ」
「はー・・ウチの領も有名になったもんですねー」
やはりそういう感想か。
ザイケンが急に立ち上がる。
「じゃあっ、クモ討伐を黒華に渡しちまうんですかいっ!?」
「まあ、そうなるな」
クモの掃討に人海戦術が必要な以上、そうなる。
ザイケンは脳筋だが短気ではない。がザイケンの顔が瞬時に焚火のでない赤さになる。
「それじゃっ、若っ、オーダ達のっ仇はっ!!」
他の奴らの顔も、「何言っちゃってんの若?もしかして馬鹿?」みたいな顔になる。察しがいいのは、バウロとヒュージンだけか。
落ち着け。と俺は手を振る。
「黒華には、掃除をしてもらう」
「掃除?、ですかい?」
「そうだ、明日来る騎士団と黒華の連中には、周辺のクモの駆除とクモの死骸掃除と村の防衛をやってもらおう」
周辺には駆除しきれなかったクモがいくらかいるだろうし、クモの死骸は集めて焼かないと疫病か何かの原因になりうる。あいつら毒持ってるし。早急な対応が必要だ。
「はぁ・・」
ザイケンはまだわからんらしい。
「それさえやってくれりゃ、俺たちは専念できるだろ?」
俺はニヤリと笑う。
「黒幕を、狩るのにさ」
皆が、ニタリと笑った。ザイケンも。
ワルい顔だなぁ。