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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
19/87

【挿話】 設定小話 【魔法】

細かい設定なので、読まなくても何ら問題はござりませぬ。

俺、大変上機嫌。


ご機嫌すぎてスキップしてしまうくらいだ。

道行く人々はそんな俺を見て、微笑む人、訝しむ人、指さす幼児に顔を背ける母親、様々だ。


しかし俺は気にしない。


最近、街路に新設された街灯を軸にクルクル回って見たりするが、気にしない。


通りかかったウリトンが俺を見て馬鹿笑いするが気にしない。


とりあえず因縁つけてボコボコにしてみたが気にしない。


俺、ハッピー。



注文していた本が届いた。


『初心者でも解る!近代基礎魔術のハウトゥ ~これで君も魔法使いだ~』


無論、日本語でこのように書かれているわけではない。こちらの言葉で書かれている。しかし、なぜか学士帽を被ったサルの絵が描かれていたり、その派手派手しい彩色とロゴは、なぜかあちらの世界をひしひしと感じることが出来る。

実に転生者臭い仕上がりだ。


これは【ウルダード中央魔術学院】が発行している正式な魔術師の教養本、その最新版だ。

アザレアの本屋に予約して今日入荷した。この日をどれだけ待ったか。


生まれて8年と半年。


はっきり言って、生きることに精いっぱいで魔法を学ぶ機会など全くなかった。先生は魔法を教えてくれなかったし、それに纏わるある事実を知ってから、今は知ることは出来ても学ぶことは出来ないと知った。

上手になったのは魔術士との戦い方くらいだ。


しかし、俺ももうすぐ9歳。そろそろ考え始めても罰は当たるまい。


俺は、ハウトゥ本を掲げ、にっこり笑った。

表紙のサルが笑い返してくれた気がした。


―――


≪魔法。それは、魔力を源とする現象であり、その法則である。

魔術。それは、魔力を以て魔法を扱う技術であり、学術である≫


前書きにそう書いてあった。


一般的にはあまり使い分けて言われることは無いようだ。

具体的にどう違うのか。

魔法は、術式を必要としない現象のみの発現。

つまり、先天性に魔法が扱える人間【魔法発現者】や、魔法を意識や咆哮で発現できる【魔物】【魔獣】、エルフィムが扱う【精霊使役】、その他にもいろいろあるが、要は扱うための技術が介在しない魔法現象の事を言う。


魔術は、【詠唱】や【方陣】や【儀式】を必要とする魔法を行使する技術のこと。最も一般的な魔法の形だ。魔道具などを製造する技術などと一緒に【魔道】と呼ばれることもある。


現在、魔術で使用される主な言語


力ある言葉(フォールン)】・・・一般的な魔法言語。【意味もつ形(イシエス)】【意思やどる文字(ラコルム)

と組み合わせて、魔法陣などにも出来る。汎用性が高い。

祝福言語(オラリア)】・・・高い信仰を糧にした言語。詠唱は歌に近い。上級者向け。

呪文(キィ)】・・・マジックアイテムなどの発動鍵語などに用いられる。

真なる言(オルタム)】・・・モノの本質を直に操る言語。発音のみの言語。超上級者向け。


その他、地域によっても多数存在する。あと、

神の言の葉(コトリカ)】・・・聖典にその存在のみが示唆される神の言語。言葉だけで世界を変える。

などの伝説上の魔法言語も存在する。


魔法、魔術、どっちを扱えるかでも名乗る肩書は違ってくるし、就くける職も資格も難度も大分変る。

一般的な資格で言えば、


魔術士(1種:汎用種、2種:戦闘技能種、3種医療種、各1級~3級)

高等魔術士(普通・上級。魔術士1級から昇格により)

魔術技能士(魔道具制作資格。分野ごとに別れる)

魔術師、魔導師(魔術範士教育課程を受け試験に合格した者)

治癒術士(1級~3級。魔術士3種を持ち、更に医事就学を修めたもの)


これらすべては国家資格であり、国家官僚試験である【登宮試験】より難度は低いものの、どの資格もなかなかの難関ではある。王都や大都市には大学があるし、私学もあるが、地方で自力ではなかなか難しい試験だ。


―――ペラペラ


ななめ読み。これらは知ってる。


「ん」


ページをめくる手を止めた。

≪魔術就学の年齢制限についての経緯≫

おお、でた。俺が魔術を勉強できなかった理由。

実は、あまり詳しくは知らない。ヨムヨム。



およそ600年前、この大陸は一つの魔法国家に支配されていた。


その国の名は【レイヴァース】


今の大陸よりも進んだ文明を持っていた国家は原因不明の崩壊を以て、その歴史に幕を閉じたが、当時の魔術の研究資料などは一部残っており、再現不可能な部分も含め国家機密に指定されている。


各地に散在していた当時の魔法の研究レポート、その中に一つに、


≪幼年者による魔術行使と魔法的変化≫というものがあった。


それが、ある事件をきっかけに注目されることとなる。


600年前の当時から今まで、世界各地で“魔術は子供に扱わせてはいけない”という不文律がある。出所が不明な所謂“迷信”なのだが、世界中の人は律儀に守っていたんだそうだ。ホントかどうかは知らないが。


しかし公歴68年、レイヴァースが滅んで約二百年後。

東のダタール帝国で事件が発生する。

アルザント王国との国境も近いダタール北西部、軍事要塞ワルベーンにて、

【魔人大量発生事件】が発生した。


1万人もの犠牲を出したこの事件の概要は、世界中に震撼をもたらした。

ワルベーンでは【人工魔法発現者実験】が行われ、千数百人にも及ぶ人体実験が繰り返されていたという物だった。


禁忌とされてきた、幼年期からの魔術の英才教育による“エリートの製造”はもとより、胎児からの魔法適性付与実験まで行われていた、と記録にある。

いわば、“人間の魔物化”。それが行われていた。


その結果、原因は不明だが、実験体数百名が突如魔人化し、ワルベーンは滅び、事態は周辺諸国にまで波及することとなる。


周辺各国が公的・秘密裏に行った原因究明のさなか、ユーティア教国中央教会に所蔵されていたレポートに世界中が注目した。

それが前述の≪幼年者による魔術行使と魔法的変化≫のレポートだ。


『魔力とは【世界変革因子】と言えるもので、生物の精神と肉体に多大な影響をもたらす。魔物化はその一例であり、魔力が生んだ自己進化の一端にしか過ぎない。

人間による魔法行使にもその変革は当然起こる。特に精神と肉体が変化しやすい幼年期に於いて過剰に魔力操作並びに魔術行使を行うと、心身が魔法の影響を含めた成長を遂げ“個人の欲望・希望・本能を体現した魔法体現者”所謂“魔人”になる。


“魔人”はその特性の為、理性が希薄で直情的。個体によっては自我さえ放棄され、変化初期は魔法の制御も碌に行えない状態で非常に危険である。


しかし“先天性魔法発現者”も昔から存在しているが魔人化の例は無いことから、『適性のない子供の魔法過剰行使』が魔人化の原因であると考えられる』


(おお、まさか、そんな事があったとは)


『尚、当方の実験の統計により、10歳前後までの成長によりほぼ100%魔人化は発現せず。安定的な魔術士育成を促すならば、満10歳以降が望ましいと思われる』


この事件の発生により、魔術と魔人の関係性の裏付けがなされたが、魔術は古来より人々の暮らしに深く浸透しており、社会的にも経済的にも魔術的活動が縮小されることは無かった。

魔人化事件は今現在も散発的に発生しているものの、レポートに記載されているとおり、10歳以降の魔人化は今現在も確認されていない。


現在アルザント王国では、先の痛ましい事件とレポートの重要性を鑑み、10歳以下の公的・私的機関の魔術教育を固く禁じるとともに、各魔術職への関与も控えるよう“魔術士法”が制定されている。


―――


はぁー・・・

知らんかった。

知らずに内緒で訓練してたらやばかったな。


先生に魔術を学びたいといった時には、


「別にやりたければやってもいい。結果どうなるかは知らんが。ダメならまあ、ちゃんと斬ってやるよ。心配すんな」


と言われた。これでまだしたいと言える奴はマゾに違いない。

そうならそうと、ちゃんと説明してほしかったよ先生。


この本には、魔術の基礎的知識だけでなく、最新の魔術教育機関のガイダンスや主要資格試験の概要、現代魔術一覧も乗っている。


もうすぐ9歳。10歳も間近だ。


魔術士が将来の進路としてはまだ考え中だが、魔術は使ってみたい。この世界に来た理由の半分は、この世界には“魔法”があるからといっても過言ではない。


フムフム。

俺が魔術を勉強するには・・・なるほど。

やはり、王都の魔術学院に行くのが一番いいな。

う、魔力測定試験、一般教養試験と基本魔術概要試験があるのか・・・。


ふむ。


大体の人間は8・9歳位から私塾に入り、魔術学院入学を目指すらしい。

俺も早めに王都に行って勉強した方がいいのかな。

就学期間は約3~9年。目指す職や資格によって変わるらしい。第一種3級魔術士で最低3年かかるんだそうだ。


うおっ!

た・・高いっ!

3年で、55万ゼル!クリエール金貨約2枚!聖堂銀貨55枚!銅貨・・(略

アザレアで5・6年遊んで暮らせる。これに生活費などなどか・・・。

なになに、奨学金・・?

ふむふむ。


うーん・・・。


ウルダードにいるアル兄のとこ居候するか?

しかし、新婚家庭にお邪魔するのか?お邪魔虫にしかならんな。


現代日本ならシェアハウスとかあるんだろうけど・・この世界は・・危なさしかないな。


働きながらと言っても職歴 傭兵 しかねぇよ。


・・・冒険者!冒険者かっ!冒険者しながら生活費を賄えばいいのかっ!


学業と生活、両立できるかなぁ・・。


その時は気が付かなかった。


俺が自分の未来を思いモフンモフン身悶えしているその姿を、陰から覗き見る存在がいるとは。



―――ドドーラ・サープ


「お父さん」


「ん、なんだねクリュネ?」


我が愛娘よ。今日も可愛いな。本当に。


昼食時の食堂。暇な団員がちらほらと座っている中、ウーカのフライ定食を食すワシの下に、超絶可愛い天使が訪れた。ワシの正面の椅子に降臨したといっても過言ではないはずだ。


「若が・・・なんだかおかしいです」


「坊主が?」


ふう。

また坊主の話か。たまにはこの父の話題でもいいのではないか?


「本を読みながら、くねくねしています」


「は?・・・あ、あー、確か今日、本が来るとか騒いでおったな」


あの坊主は奇行ばかりだな。奇行種だ。まさに。


「本?」


「なんでも、魔術の教本だそうだ」


「!!」


「魔術を学ぶだのなんだの言っておったな」


「若はっ!まさか王都に行くつもりなんですかっ!?」


麗しい天使が、ワシに詰め寄ってくる。

おおう。胸倉をつかまんばかりだな。


「・・・さ、さあ、そこまでは知らんよ。無駄に行動力だけはある坊主だからな。本当に学びたければ行くのではないか?」


「・・・・!!」


おお、なにがそんなにショックなのか、ワシの純白の天使は顔を蒼褪め硬直している。そんな愛娘の有様にワシまでオロオロとしてしまう。


「・・・!バウロさんっ!バウロさんはどうなんですかっ!」


天使は急に近くの席に座ってウーカのフライを頬張っていたバウロに詰め寄った。バウロめ・・。ちょっと、ちょっと近すぎるんじゃないかな?マイエンジェル?


「へっ?えっ?はに?ひょっと、ふりゅね(ゴクン)落ち着いてくれ」


急に話の切っ先を向けられたバウロが目を白黒させている。


「若が王都にいっちゃったらです!魔術を勉強に!」


「ああ、はぁ。なるほど」そう言って、茶を一杯飲む。


「若は昔から魔術への憧れが強いからなぁ。昔、俺らと出会った時だって、王都の魔術院に入学しようとして年齢でハネられた後だったからなぁ」


「若、いなくなっちゃうんですよっ!?バウロさんはどうするんですかっ!?」


「どうするって・・・。別にどうもしないよ」


「!?なぜにっ!?」


「な、なぜに・・?あー・・別に俺は若の従者じゃないよ。もちろん、若が呼べば世界中のどこでも駆けつけるけど、これは単に若が勉強したいってだけだし・・」


困ったものを見る顔で答えよる。ワシの天使になんとも無礼な。


「ザイケンさんはっ!?」


天使は、バウロの隣で生姜焼き定食を掻き込んでいたザイケンに問いかけた。


「あぁ?」


ザイケンはちらっとワシを見ると、食堂の天井の隅の方を見上げながら応えた。


(どういう反応だ?よく分からん)


「若は若。俺は俺。兄貴とおんなじだ」


なんとも端的に言いよる。


「うぅー」


おお天使があらぶっておられる・・!


「ついていきてーなら、いきてーって言えばいいじゃねーか」


「え?」

「え?」

ワシまで声を出してしまった。

「んっんっ、ゲフン」咳払いし、茶を飲んでごまかす。


「俺らは若に傭兵としての生き方を貰った。これは簡単には投げ出せねぇ。でもおめーは違う。生きてりゃ考えが変わることもある。若の女になりてーなら、マッパでベッドに飛び込むぐらいの事しねぇと」


ブーッ!

茶を吹き出してしまった。アツっ!アツっ・・!


(ザイケンッ!?キサマッ!?ナニヲッ!?)


剣、ワシの剣はどこだ・・ッ!き・・・キラネバ・・・ッ!


これがセクハラというやつか!


これだから傭兵という奴はっ!


自室に置いてきた剣を探しながら、心無い言葉に傷ついているであろう天使を見ると・・


顔を真っ赤にして「はぅう~」と言って、食堂を出て行ってしまった。


恥ずかしがる姿もなんとも愛らしい天使だ。


ともあれ。


「ザイケンっ!なんだっ!今のは!?」


ザイケンはひょうひょうと、

「なんだもなにも、嬢ちゃん、前から若にぞっこんじゃねぇか。今更だろうに」


なっ!


「なんだとっ!!」


ま・・・まさか・・・私の天使が・・・?


8つも下の小僧に・・・?


「なんだ?ドドのオヤジ、気づいてなかったのかよ?」


「このオヤジさん、娘の事しか頭にないからなぁ・・・」


驚愕するワシの前で、勝手なことを抜かしよる。


「ま、まだ8歳児ではないかっ!?」


「若、ただの8歳児に見えます?」


「ホレたハレたに、トシなんてカンケェネェだろうよ?」


な・・・ぬ・・・・


「しょ・・証拠はあるのかっ!?」


「いやいやいや、態度で丸わかりでしょうが」


「オヤジ、老眼か?」


むぐうっ!


これは一大事だ!


我が天使が生意気小僧の毒牙にかかってしまう!


これぞまさに堕天だ!輝ける堕天使だ!


なんとかせねばっ!


・・・・


「オヤジいっちまったぜ」


「若も・・・災難だなぁ・・・」


「ホントになっ!ガッハッハッハッ」


―――


「小僧っ!ちゃんと責任は取るんだろうなっ!?」


「はい?」


「お父さんっ!やめてくださいっ!!」


・・・は、はいー?



小話(完)

ここまでやっても、ヒロインではないクリュネ。

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