虚偽
「お前が黒幕か?」
この間合いでは逃げられる可能性が高い上、向こうは傀儡、本体じゃない。情報優先で行こう。
「ヤッパリネー!サッスガー!ホントスッゲーガキダナッ!オマエッ!」
なんかしらんが、えらくハイテンションなやつだ。
「ウマクカクレテタツモリダッタンダケドナー・・。ヒトリクライヤレルトオモッタノニ・・・」
オットーが怯える。
ウザンさんは突然の事態に理解が追いついていないようだ。
発動から既に二時間以上、簡易結界杖はすでに力を失っている。
「わざわざ姿を見せた理由はなんだ?」
「・・・ホント、カワイゲガネェクライ、レイセイナヤツダナァ・・」
器用にも、前脚で頭を掻く仕草しやがる。
「・・・ナンダトオモウ?」
「取引でもしたいのか?」
「・・・・・ホッント、オマエナンナンダヨ・・・」
図星か。
「ソウサ、オマエト、トリヒキニキタ。ワザワザオマエラニ、オレノソンザイヲサラシテヤッタンダゼ?カンシャシテホシイクライダヨ」
・・・。
こっちが無言でいると、勝手に話し始めた。
「オマエラトソノナカマタチヲ、ブジニココカラニガシテヤル」
こっちの反応を待ってやがるな。飛びつくとでも思っていまいに。
「タイカハ、ダマッテオマエラノナカマヲツレ、マチニカエルコト、ダ」
・・・。
「オレハモクテキヲハタシタ、モウココニハヨウハナイ。オマエラガカエレバオレモカエル。ワルイハナシジャナイダロウ?」
・・・。
「ムロン、コトワルノハ、ジユウダ」
「ダガ、コトワレバ、オマエラノナカマ・・・イマ、オレノクモトタタカッテルヤツラ、アイツラゼンイン、クモノエサニナ・・」
クモの無駄口が止まる。
我慢してた殺意が器に満ちて溢れ出したから。
「お前に一つ、言いたいことがある」
「お前は 俺が 殺す 必ず」
「震えて、待ってろ」
最速で、馬車の横で硬直していたウザン氏の腰の剣を抜き放つと、
全力で投げつけた。
剣はあっという間にクモに到達し、クモを爆散させ、村の外まで飛んでった。
汚ねぇ、花火だ。(・・・しまった!思わず言っちまった!)
「私の剣・・・」
ウザンさんの、儚げなつぶやきが聞こえた。
ごめんよ。
―――
「アトル殿・・・奴は・・・」
「おそらく今回の黒幕ってヤツでしょうね」
「・・それはっ・・・この事件をすべて、あのクモが・・・?」
ん?クモ?
「クモじゃないですよ。あのクモを操ってる奴です。あれは恐らく使い魔の眷属」
「!。そ、そうでしたか、不勉強で申し訳ない。あまり使い魔を見たことは無いもので・・・」
確かに。うちの団にはそこそこ使い魔持ちはいるが、一般的には見たことない人も多いらしい。見てもそうと気づかない人も多いだろう。
「アトル殿・・さっきの取引・・・癪だが乗った方が良かったのではないか・・・?」
言わない方がいい事を言っている自覚はあるのだろう。
「ダメっすよ。ウザンさん、それはできねーっす、っす」
俺より先に答えたのは、オットーだった。
「しかし・・・」
「アレは・・なんつーか、上手く言えねーけど、そんなモンじゃねーです・・」
おお、以外にいい眼してるじゃないか、オットー。
「アレを、信用できますか?」
「・・・それは、出来んが・・・」
危機的現状だから安全を求める、しかし相手は信用できない、でも・・。そういう葛藤があるのだろう。当然だ。
「騙して襲う。それが奴の傾向です」
最初のデカグモたちの潜伏しかり、村の中の襲撃しかり、今のクモの死骸に紛れての接触しかり。気づかなきゃオットーかウザン氏、どちらかどちらもか死んでたよ。
ウザン氏は黙ってしまった。本人も良く分かっているのだろう。
「今、ここから離れれば帰途の最中、必ず大群の蜘蛛で強襲してくるでしょう」
確率は半々くらいだと思うけど。言わない。
「そうかもしれませんな・・・」
「今の我々に逃げる選択肢はありません。さっき奴も言ってたでしょう?」
「?」
「俺たちの仲間を連れて、と」
しばらく考えて、理解が及んだのか、ウザン氏は目を見開く。
「・・・つまり、村の人間を見捨てていけ・・ということか・・」
気づかなかったのだろう。逃げることは見捨てることだと。ウザン氏は緊急案件の監査官だが、ポーレさんと同じ緊急支援班でもある、半端な使命感ではない。
「ぐっ・・!」
ウザン氏が落ち込んでしまった。おっさんは落ち込んでも慰めては貰えない。俺もいつか慰めて貰えない側になるんだろうか。今のうちに善行積んどこう。
「気を落とさないでください。奴の策には乗らない。基本はそれで。意見を貰えるのは貴重です。互いに意見しあって、慎重に考えていきましょう」
慰めてみた。ウザン氏は、
「君は・・・本当に・・・強いな・・・私などより、ずっと・・・」
と泣きそうな顔になった。失敗したか?生意気すぎたか?難しい・・。
ウザン氏は何か納得したように、肯くと、
「委細承知した。私も腹を据えて君の指揮下にはいろう。出来ることがあるなら何でも言ってくれ」
おお、持ち直した。
今までも結構偉そうに指示しちゃってたけど、公式にお許しが出た。やった。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ちょっと照れたので、ちょっとカッコつけて言ってみた。
礼儀は円滑なコミュニケーションの基本だからね。
・・・。
オットー。
なんで、そんなキラキラした目で、俺を見てんの?




