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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
18/87

虚偽

「お前が黒幕か?」


この間合いでは逃げられる可能性が高い上、向こうは傀儡、本体じゃない。情報優先で行こう。


「ヤッパリネー!サッスガー!ホントスッゲーガキダナッ!オマエッ!」


なんかしらんが、えらくハイテンションなやつだ。


「ウマクカクレテタツモリダッタンダケドナー・・。ヒトリクライヤレルトオモッタノニ・・・」


オットーが怯える。

ウザンさんは突然の事態に理解が追いついていないようだ。


発動から既に二時間以上、簡易結界杖はすでに力を失っている。


「わざわざ姿を見せた理由はなんだ?」


「・・・ホント、カワイゲガネェクライ、レイセイナヤツダナァ・・」


器用にも、前脚で頭を掻く仕草しやがる。


「・・・ナンダトオモウ?」


「取引でもしたいのか?」


「・・・・・ホッント、オマエナンナンダヨ・・・」


図星か。


「ソウサ、オマエト、トリヒキニキタ。ワザワザオマエラニ、オレノソンザイヲサラシテヤッタンダゼ?カンシャシテホシイクライダヨ」


・・・。


こっちが無言でいると、勝手に話し始めた。


「オマエラトソノナカマタチヲ、ブジニココカラニガシテヤル」


こっちの反応を待ってやがるな。飛びつくとでも思っていまいに。


「タイカハ、ダマッテオマエラノナカマヲツレ、マチニカエルコト、ダ」


・・・。


「オレハモクテキヲハタシタ、モウココニハヨウハナイ。オマエラガカエレバオレモカエル。ワルイハナシジャナイダロウ?」


・・・。


「ムロン、コトワルノハ、ジユウダ」


「ダガ、コトワレバ、オマエラノナカマ・・・イマ、オレノクモトタタカッテルヤツラ、アイツラゼンイン、クモノエサニナ・・」


クモの無駄口が止まる。

我慢してた殺意が器に満ちて溢れ出したから。



「お前に一つ、言いたいことがある」



「お前は 俺が 殺す 必ず」



「震えて、待ってろ」



最速で、馬車の横で硬直していたウザン氏の腰の剣を抜き放つと、

全力で投げつけた。

剣はあっという間にクモに到達し、クモを爆散させ、村の外まで飛んでった。


汚ねぇ、花火だ。(・・・しまった!思わず言っちまった!)


「私の剣・・・」


ウザンさんの、儚げなつぶやきが聞こえた。

ごめんよ。


―――


「アトル殿・・・奴は・・・」


「おそらく今回の黒幕ってヤツでしょうね」


「・・それはっ・・・この事件をすべて、あのクモが・・・?」


ん?クモ?


「クモじゃないですよ。あのクモを操ってる奴です。あれは恐らく使い魔の眷属」


「!。そ、そうでしたか、不勉強で申し訳ない。あまり使い魔を見たことは無いもので・・・」


確かに。うちの団にはそこそこ使い魔持ちはいるが、一般的には見たことない人も多いらしい。見てもそうと気づかない人も多いだろう。


「アトル殿・・さっきの取引・・・癪だが乗った方が良かったのではないか・・・?」


言わない方がいい事を言っている自覚はあるのだろう。


「ダメっすよ。ウザンさん、それはできねーっす、っす」


俺より先に答えたのは、オットーだった。


「しかし・・・」

「アレは・・なんつーか、上手く言えねーけど、そんなモンじゃねーです・・」


おお、以外にいい眼してるじゃないか、オットー。


「アレを、信用できますか?」


「・・・それは、出来んが・・・」


危機的現状だから安全を求める、しかし相手は信用できない、でも・・。そういう葛藤があるのだろう。当然だ。


「騙して襲う。それが奴の傾向です」


最初のデカグモたちの潜伏しかり、村の中の襲撃しかり、今のクモの死骸に紛れての接触しかり。気づかなきゃオットーかウザン氏、どちらかどちらもか死んでたよ。


ウザン氏は黙ってしまった。本人も良く分かっているのだろう。


「今、ここから離れれば帰途の最中、必ず大群の蜘蛛で強襲してくるでしょう」

確率は半々くらいだと思うけど。言わない。


「そうかもしれませんな・・・」


「今の我々に逃げる選択肢はありません。さっき奴も言ってたでしょう?」


「?」


「俺たちの仲間を連れて、と」


しばらく考えて、理解が及んだのか、ウザン氏は目を見開く。


「・・・つまり、村の人間を見捨てていけ・・ということか・・」


気づかなかったのだろう。逃げることは見捨てることだと。ウザン氏は緊急案件の監査官だが、ポーレさんと同じ緊急支援班でもある、半端な使命感ではない。


「ぐっ・・!」


ウザン氏が落ち込んでしまった。おっさんは落ち込んでも慰めては貰えない。俺もいつか慰めて貰えない側になるんだろうか。今のうちに善行積んどこう。


「気を落とさないでください。奴の策には乗らない。基本はそれで。意見を貰えるのは貴重です。互いに意見しあって、慎重に考えていきましょう」


慰めてみた。ウザン氏は、


「君は・・・本当に・・・強いな・・・私などより、ずっと・・・」


と泣きそうな顔になった。失敗したか?生意気すぎたか?難しい・・。


ウザン氏は何か納得したように、肯くと、


「委細承知した。私も腹を据えて君の指揮下にはいろう。出来ることがあるなら何でも言ってくれ」


おお、持ち直した。

今までも結構偉そうに指示しちゃってたけど、公式にお許しが出た。やった。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


ちょっと照れたので、ちょっとカッコつけて言ってみた。


礼儀は円滑なコミュニケーションの基本だからね。


・・・。


オットー。


なんで、そんなキラキラした目で、俺を見てんの?


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