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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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接触

「オットー、どうだ?」


「はい、とりあえず、異常なしです、っす」


俺は玄関前で哨戒しているオットーに差し入れを持って行った。今玄関前はオットーとフォッサの二人(笑)立てだ。


俺が干し肉とパンと水筒を渡すと、手早く食い始めた。フォッサは主人からの食べ物しか口にしないよう訓練されている。たとえ俺が与えようとしても食べない。残念。


オットーにはすでに、オーダ達の事は伝えた。かなり動揺したが、なんとか持ち直そうと奮闘中だ。


今の状態は籠城なんだが、玄関は閉めず、扉の外で警備しないと危険な状態でもある。避難所は対魔物も想定しているため、窓や出入り口が狭くなっている。

建物内から出入り口が監視しにくい状態ともいえる。下手に籠っていて、いざ外に出ようとすると、玄関上や扉の影などにクモがいるかもしれない。

あるいは来たときみたいに建物をグルグル巻きにされると、もう出れない。餓死だ。

ならば正面口のみ封鎖せず外で周囲を警戒、危険なら建物内に避難する方が良い。フォッサがいるなら、まず不意は打たれない。


「お待たせしました。事情説明は終わりました。哨戒に戻ります」とウザン氏が扉から出てきた。飯はもう食べたそうだ。


オットーが飯を掻っ込んでる間は、俺が周囲警戒する。


「そういえばウザンさん、騎士団が来るんですか?それも1個中隊で?」


辺境の魔物災害に90人以上で?アザレアに駐屯する領軍の半分近い。


「ああ、いえ。アトル殿は今アザレアに【黒華騎士団】3個小隊が来ていることはご存知ですか?」


「黒華・・・ああ、そういえば町でそんな噂を聞いたような・・・」


「実は、黒華はオンデルの森で遠征討伐演習する予定だったんですよ。駐留地はここクロワト村で」


「演習」


「ええ。緊急通報が来たのは7日、その翌々日の9日にアザレアを発つ予定でした」


「なんとも、間の悪い・・」


「・・そうですね。もう少し早ければ、と思いますが・・」


言っても、仕方ないこと、か。


「その黒華騎士団の副団長殿が通報を受けた際、ギルドにいましてね」


なるほど。


「緊急案件を知ると、予定を繰り上げこの討伐に参加して頂けることになりました。現在はアザレア騎士団の2個小隊と共にこちらに向かっているとのことです」


知らんかった。


「ギルドの伝令鳥で参加の知らせが来たのは、あの丘で村を見下ろしている時でした。報告が遅くなってしまい申し訳ない」


「いえ、全く問題ないです」


そんなこと、あの時のウチの連中に言ったら、対抗心でクモに飛び出していきかねない。なぜか傭兵は正騎士とか冒険者に異常なまでの対抗心持ってるんだよなぁ。不思議。


・・・しかし、王国中央騎士団。


それもゴリゴリのエリート武闘派と言われる【四色王華】の一つが来てる。

・・なんで?


大森林付近は魔物が多いので、騎士団の討伐演習はよく実施されているとは聞く。

まあ、オンデルの森が近くにあるクロワト村も該当してはいるが・・正直、利便性が全くよくない。街道の状態は他の領よりは良いと思うが、クロワト村に単純計算60人以上の騎士が駐留出来るような建物はない。

この避難所に入ることは入るが、騎士ならば従騎士や小間使いもついているだろう。かなりキュウキュウだ。130人以上入っている今はギュウギュウギュウのギュウだ。それも含めた野営演習も入ってるのか?


なんにせよ、このラインレッド領に、そんなものは今まで一度も来たことがない。


ラインレッド領・・・演習地に選ばれるほど有名になった?


オットーが飯を食べ終わる。こっちの話は聞いていたようだが、興味なかったのかあんまり解らなかったのか、純朴な目でこっちを見ていた。


俺は悟った様に、オットーに一つ肯くと、

「じゃあ、後は頼みます」とウザン氏に言って、避難所に入ろうとして・・・


足を止めた。


玄関扉の横の外壁に、俺の親指ほどのクモがいた。


剣を抜いて切り払う。

真っ二つになって落ちた。

さらにそこらに落ちてるちょっと大きめの石をその上に落とした。靴で踏むとなんかアレだし。


急に剣を抜いたので、オットーとウザン氏が目を丸くしてた。


「オットー。大きなクモだけじゃない、小さなクモも建物内に侵入を許すな警戒しろよ。発見し次第、大きさ種類に関わらず殺せ」


「ははいっ!・・でも、小さいクモはあんまり危険じゃないじゃないですか?っす」


なんだ「すか?っす」って。


「大きいから危ないんであって、小さいのは村人でも潰せるっつーか・・・」


そこでハッとした顔すると「どっ毒っすかっ!?」


「・・まあ、そういうことがないでもない」


オットーの言いたいこともわかる。小さいクモは毒以外脅威になりえない。小さいなら村人でも踏めば終わりだ。この辺に、魔物でない強力な毒をもつ蜘蛛が生息してると聞いたことはないが。


「だが、今回は違う。これは人災だ」


「・・・・は、い?」


ウザンさんも呆気にとられた顔をしている。

今、教えとくべきか。


「・・・さっきの、」


そこまで言ったところで、気づいた。


1、2、3、4、5、6、7、8、9。


クモの死骸が一つ多い。


即座にオットーの腰の剣を抜くと、斬った覚えのないクモの死骸に投げる。

躱された。

ひっくり返ってあっち向いてたクモが、俺の剣投をバネの様に跳ねて、紙一重で躱した。クモはカサカサと恐ろしい速さで、直接攻撃範囲外に逃げる。

30メールほど離れた村で唯一の飲み屋の屋上に降り立った蜘蛛は、こちらを振り向き(体の向きを変え?)、


「オッソロシーコトスルナァ、サイキンノガキハ・・・」と、


悠長な声でしゃべり始めた。


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