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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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報告

「うぉお、びっくりしたーっ!」


なんなんだっ、アレ!


すごい勢いで壁を駆け上がってきたと思ったら、瞬く間に足を全部切り落とされた。怖気を感じて反射的に引き戻さなかったら、赤蜘蛛、殺られてたぜ。


目の前の、引き戻したクモをみる。


左右16本の脚は、脚の半ばほどで全部切り落とされている。それも全て節、外殻よりは柔らかい関節部を正確にだ。頭胸部は・・3分の1ほど斬られて止まっている。まさに刹那の差だな。


「≪古のアラダの森の契約により、生きとし生けるすべての蜘蛛に、蜘蛛神の庇護を賜らん。地涯に落ちたる蜘蛛の身に、御力の糸を垂らしたまえ≫」


【力ある言葉】と共に、赤蜘蛛に魔力を流し込む。


ぐちゅぐちゅと、嫌な音を立てて、クモの脚が全部再生した。

頭部の傷も治っている。切断されれば、やばかったな。単色個体は貴重だ。視覚共有だって結構な手間なんだ殺されちゃかなわん。


(しかしまあ、あのガキ・・・)


あれはなんつーか、・・・すっげぇマズイ匂いがプンプンしやがる。見た目じゃねぇ、もはや人外の気配だった。クモを通して一瞬目が合っただけだったが、恐らくこちらに気付いただろ。見逃すようなタマじゃねぇ。


ウルスなんか放っておいて、この地から撤退する方が正しいのかもしれない。

だが・・・神使を取り込める機会なんざ滅多にあることじゃない。


「・・・」


あのガキを封じ込めるか?


・・・出来る気がしないな。

あれは陽動しようと人質とろうと、最短で敵の中心へ殺りにくるタイプだ。総力戦など悪手以上の悪手。万で攻めても殺られる気がする。勘だが。俺は俺の勘を信じてる。


ウルスの事を除ければ、この地に留まる理由はない。

あの辺鄙な村もウルスがいないんじゃ、蜘蛛糸結界を張ってる意味もない。クモたちの餌場としても、あのガキがいる以上、手を出しても得るものは少ない。


そもそもあの伝令用の使い魔を見逃してしまったのが拙かった。

街道に忍ばせてたクモから傭兵部隊がこちらに来るのを知って罠を張ってみたが、あんなガキがいるのを知ってりゃ、わざわざ誘い込むことなんかせず、隠密に事を運んだものを。


「チッ」


知らせが来た。

森の一つに潜ませてた3世代目のクモ達が全滅したようだ。流石はプロと行った所か。ならば最初の傭兵達は不意打ちの成功でなんとか出来てただけってことか。


やつら、次の森に向かってるな。相手の被害は・・・


一人も減ってねーよ!被害無しかよ!どんだけ強えーんだよ!


・・・いや、クモが弱いのか。

3世代目以降のクモはクモが単純に巨大化強化したような力しかない。20メール以上あったとしても、熟練の傭兵達の相手にはならねぇってことだな。参考になった。


今の状態じゃ、アラヴァはもとより、赤も黒も黄色も出せねぇ。先のウルスとの戦いで5000以上もいたクモが3分の1以下になっちまったし、当のウルスも見失ったままだ。


ウルストネリの奴らも近くまで着てやがる、一斉にクモを撤退させようモノなら、確実に気づかれる。今は五人ほどの様だが、事は次代のウルスだ、いつ増援が来てもおかしくない。戦力自体はたいしたことないだろうが、奴らが【神殺しの矢】を持って来てる可能性が捨てきれない。さすがにあれはマズイ。


参ったな。


巨大個体の存在はもうばれてるだろうから、下手に引かせると、後で山狩りが行われる。動けない俺の居場所が割れる可能性が高い。まして、それでウルストネリのやつらと接触されることになっても困る。


・・・吉報が一つもねぇよ。


オレの位置が特定される前に、なんとか逃げちまうか?


それとも・・・アラヴァを・・・使うか?


ウルスを諦めて、


全部更地にして、


次の機会を待つか?


―――


「ワンワンワン。ワオーン。ハフッ」


(全員無事で状況終了。次の森に向かう、か)


深く息を吸って、吐く。


現在の避難所の状況は、まあ、この状況下であれば普通だ。可もなし不可もなし。


「現在は傭兵3チームで、外のクモどもを掃討している。いましばらく待ってほしい」


子供の俺が言って回ってもあんまり説得力がないので、ウザン氏に状況説明に回ってもらう。村人たちから質問や不安の声があがってくるが、対応もウザン氏に任せた。


「心配しないでもらいたい。騎士団にも話は通っている。先遣隊として【紅の旗】に緊急的脅威の排除を行ってもらうが、本格的な森の掃討作戦は騎士団が一個中隊で行う手はずになっている」


ん?一個中隊?

精々3個小隊が来ればいい方だと思うけど。安心させようと言ってんのかな。


元の世界の部隊編成なんか俺は知らないけど、我がアルザント王国の部隊編成は、六人=一班、三班=小隊(18人+α)、五小隊=中隊(90人+α)、十中隊=大隊(900人+α)と王国兵科指南書に書いてあるらしい。詳しいことはあまり知らない。


一応この避難所に備蓄を行っているようで、切り詰めて数日ならば食料は持つ。馬車より運び出した食料もあるが焼け石に水、籠城には随分足りない。


クリュネの報告によれば、クモ達の村襲撃は3日前の正午前、オーダ班がこの村について2日目の事だったらしい。


この村についてすぐに巨大蜘蛛の目撃情報が上がってきた。

次の日の早朝から目撃場所オンデルの森へ向かい、大量のクモに強襲されたそうだ。ウリトンが負傷し、撤退して村に帰ってくると、もう村はクモに襲われていた。


村を包囲するような襲撃だったらしいが、統制が取れているようではなかったらしい。クモ達は好き好きに村を這い回り、人を襲ったそうだ。

村の緊急点鐘を鳴らし、避難を開始する。巡回に付いてきた商人の市がこの避難所の前で行われていたのも住民避難の一助となった。


ウリトン、ベッツァー、ラドニーが負傷したものの、奮迅の活躍を見せ、村人を避難誘導しつつ、なんとかクモ10数体を撃退した時、クモが波のように引いていったという。この時、クリュネは団に緊急応援の伝書を送った。


それから、単発的にクモは現れたが、10~20ほどの少ない群れだったという。その合間を縫い、村の随所に隠れたりして難を逃れていた者達を集め回っていたそうだ。その時にはすでに、村の周りにはもうすでにあのクモの糸の膜があって、抜けようとするとクモが集まってきて脱出はできなかったそうだ。


そんな2日の間に、クリュネは一人になってしまった。


報告し終えたクリュネは緊張の糸が切れたのか、今は奥の部屋で眠っている。

ポーレさんも、重篤な危機のある者は全員治療し終えたところで、気絶するように意識を失って、今はクリュネの横で眠っている。限界まで力を振り絞ったのだろう。


本当にすごい人だ。


疲労困憊になりながらも、重体1人、重傷者18人を治療し終えた後、あの村長のおっさんの元まで行くと、俺が止める間もなく、マナエールを3本一気に呷り、1級治療術士でも手に余る【祝福言語】を唱え始めた。まさに鬼気迫る迫力で。


そのおかげで、村長のおっさんは今、生きてる。

無くなった右手は戻らないものの、何か所もの致命すれすれの傷も癒え出血も止まった。しかし血が足りない。まだまだ予断を許さないが・・・


良かった。


娘さんは涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、何度も何度も気を失ったポーレさんにお礼を言っていた。ポーレさん、今までで一番の顔の白さで、目の下の隈もめっちゃ濃くなってた。でも、どこどなくやりきった顔だった。


ほんとに、すごいな。


俺も、こうありたいな。


俺は二人の寝顔を見た後、部屋を出た。


これ以降は、俺の仕事だ。


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