確認
とりあえず、全部片付いたかな。周辺を確認する。
ウザン氏、ポーレさん、オットーがこっちを見てポカンと口を開けている。
やはり実戦は刺激が強かったか。時間的余裕があれば、一匹位実戦を積ませたかったんだがな。
放り出してしまった我が愛剣に近寄ると、なんか紫のドロドロに塗れている。蚤の市で見つけた傭兵の初給金で買った15000ゼルの聖剣が・・なんということだ・・。
「オットー!これ何とかしてーっ!」
「イヤっすよ!勘弁してくださいよっ!」
泣いて嫌がるオットーに、剣の回収を強権(?)を揮って強制的に任せると、結界に近づき二人に声をかける。
「ね?そんなに心配することなかったでしょう?」
二人は「はぁ」とか「ほぉ」とか言った。
ん?、なんか変なこといったか?
あーあ、もうこの外套つかえねぇよ・・・染みどころじゃない、なんか糸引いてる。
外套を脱ぐと近くにあった柵に掛ける。
・・・もったいないけど、後で燃やそう。馬車から剣の手入れ用の襤褸切れを取り出すと、靴を拭う、ううーん・・ネバネバキモイ。
靴を脱いで、ズボンを履き替える。汚れたズボンは・・・外套の上に重ねた。
もったいない、ほんとうにもったいないが、もう着る気にはなれんのだ。すまん。
靴は・・・うーん・・・替えるべきか・・・念のため、替えは持って来ていた。俺は慎重な男だ。用意する男だ。しかし、靴は高価だ。処分はもったいない。帰ってから洗うか・・それまでなんか臭そうだが。
と・・・思い悩んで汚れた靴を見ると、なんか煙でてる。つま先がなんか溶けてる・・・。
(・・・毒かッ!?)
さっきクモの毒腺を破壊しての毒でもかかったのかッ!?
おお、なぜか右の靴だけがじわじわ変色して、溶けていった。なんで右だけ。
ズボンにも掛ったけど・・・こっちは溶けてない。
俺が一人コントの如く右往左往しているのを、ポーレさんとウザン氏はポカンと見つめていた。
「・・・アトル君、すごい、強いんですね・・・」
お、我に返った?
「ん?あ、ああ、年の割には、ですよ。Bクラスあたりの冒険者なら誰でもできますよ」
なるほど。実戦を見たことなかったんだな。【巡る力】扱う戦士なら大体できる。たぶん。きっと。
「そ、そうなんですか・・・。ででも、アトル君やっぱりすごいですよ。一流の戦士さんなんですねっ!」
おお、すごい褒めてくれた。
いくらニヒルでクールが持ち味のアトル君でも、女性に褒められりゃ、照れないわけにはいかない。
えへへ。
でも顔には出さない。なんかそれはカッコ悪い。男の子だしね。
「お褒めいただき光栄です」と格好つけて言ってみた。
地面に突き刺していた予備の剣を引き抜く。【炎刃】はすでに消えていた。フォッサに頼んでまた付けてもらう。
愛用の剣は、オットーが泣きそうな顔で拭いている。毒液に気を付けるように言ったら、「最初に言ってくださいよっ!?」と泣き始めた。煙はでてない、大丈夫!
フォッサは戦闘に参加させていない。
使い魔は自衛かやむを得ない場合にしか参加させないのが我が団の方針だ。使い魔の事を知ればすぐにわかる通り、使い魔は連絡手段の発達していないこの世界の、情報における組織戦の生命線になりうる。
ある意味普通の団員より重宝されているのだ。フォッサの餌代も団から出ている。3食昼寝付き。勝ち組。いぇーい。フォッサとハイタッチしようとしたら、首を傾げられた。代わりにお手をしてくれた。フォッサ、グッジョブ。
なごんでばかりもいられない。
【炎刃】を揮って避難所玄関の巣を払う。
すると「私も手伝おう。フォッサ君頼めるかね?」と言って、ウザン氏も加わってくれた。
剣を拭き終わったオットーは、こっちをボーっと見てる。
(オットー、何ボーっと見てんだ)と目で云うと。
オットー初めて気づいたように、あわてて自分の剣を抜いて「フォッサ頼む」と言ったら、フォッサに「クゥ~ン」って言われた。一応【炎刃】付いたけど、なんでオットーだけ「クゥ~ン」なんだろう?
「なんでこんなに?」とクモに小一時間ほど問いただしたくなるくらい、避難所は糸でグルグル巻きにされていた。
村の外門のクモの糸より強力らしく、【炎刃】の3人で払っても、玄関ドアが見えてくるのに10分くらいかかった。
「・・・なんか、すごい厳重っすね」
「・・・そうだな、中のものを逃さないように、だろうか?」
オットーの言に、ウザン氏が応じる。
「人間襲うのに、閉じ込めちまったら、意味ないと思うんすけど?」
「ふむ」
「そうですよね・・・」とポーレさん。
それは多分、“俺たちを中に逃げ込ませない為”なんだろうな。
はてさて今言うべきか。
現在、俺の剣を使って、ポーレさんがクモの巣払いをやってくれている。
ポーレさんは「アトル君はもう頑張ったんですから、これくらい私にやらせてください」と俺の剣を奪ってクモの巣払いに参加した。いい人だ。
・・・まさか死亡フラグじゃないよね?違うよね?大丈夫、俺が守る。・・・俺までフラグっぽいのが立った・・。
馬車から水とお菓子を持って来て、作業を見つつ一服すること、15分。俺の仕事は周囲警戒。
やっと玄関ドアを開けても問題ない位まで払うことができた。玄関前は糸が溶けた妙な匂いが充満している。体に悪そう。
(作業の間に襲撃あるかと思ったけど、なかったな)
さて、それは良いことなのか悪いことなのか。
「おーいっ!誰かいるかーっ!」
オットーがドアをドンドン叩いて叫んでる。カギは閉まってるようだ。
避難所のドアは鉄枠を付けた“岩より堅いバラムの木”で出来ているらしいので、とても重そう。村長、どうやって暮らしているのだろうか。毎日開け閉め大変だな。
そうすると、建物の中からガタンバタンという音が聞こえてきて、内側の閂を外すような音が聞こえる。
ギギッ
ドアの軋んで擦れる不協和音と共に、ドアの隙間からこっちを窺ったその顔は・・
キョロキョロと視線をさまよわせた後、俺を見つけると、
「わっ・・・わがぁ~~~~ぁっっ!!」
と、一人の女の子がこけつまろびつ出てきた。
オーダ班偵察員 クリュネ・サープ
生きてた。良かった。