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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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【挿話】 設定小話 【傭兵】

この世界の傭兵の立ち位置について書いてみますた。

読まなくてもなんら問題はございません。

「団員募集?するの?」


俺は聞き返した。

おやっさん、“紅の旗”傭兵団団長ワイルズ・ラインレッドは肯いた。


晩飯を食べに食堂に来ると、すでに座っていたおやっさんに手招きされた。

今日は・・シチューだよ、やっほう。

山盛りシチューとパン5つをトレーに乗せて、おやっさんの前に座る。


で、出し抜けに「手が足りない」そう言われた。


「マーカス、ロッデル、ナビー、リンデル4人も抜けたからな」


マークスは所帯を持って子供が出来て騎士団へ転職。

ロッデルは足を傷め、以前から懇意にしていた鍛冶屋で働くことになった。

ナビーは「俺、小説家になる夢を追いかけたい」と王都へ行ってしまった。

リンデルは・・・“リンディー”として、なんかアレな店で働き始めた。


ああ、うん。そっかそっか。

「でも、訓練生年二回募集してるんだろ?あ、もうすぐか。応募あった?」


「・・・ない」


「ああ、うん、そういえば前回誰も来なかったらしいね」


「・・・最近は冒険者志望ばっかりだ」


冒険者ギルド窓口嬢のシュナも言ってた。

冒険者ギルドに登録しにくる志望者は右肩上がりなんだそうだ。

ダンジョンだ古代遺跡だ魔物素材収集だ、と一攫千金を目指す輩はいつの時代もどこの世界も後を絶たないらしい。


まあ、冒険者の死亡率も右肩上がりらしいが。


俺は・・実のところ、冒険には今はあまり興味がない。

ネット小説で転生チートモノ読んでた時は、“俺だったら・・”の想像を良くしてたもんだが。実際“そう”なると、今あることで精いっぱいでそんな余裕はない。


「冒険者よりはマシだけど、危険には変わりないし、比べて実入りは少ないからね」


そうは言っても、一般的な町の職業者よりは収入は多い。怪我さえしなけりゃ。危険と釣り合ってるかどうかは分からん。同じ危険なら一攫千金狙いたいのも、まあ解らんではない。


「で、俺がなんかすんの?」


「どっからか引っ張ってこれないか?」


「8つの子供に、何期待してんのさ」


「ワシがやると、威圧的に見えるだろう?」


確かに。

この風体ではスカウトでも、脅してるようにとられかねんな。

おやっさんは無駄にごつくて、でかい。怒ると歴戦の傭兵でも漏らすかもしれない。しかも顔には大きな傷がある。

しかし意外にも目はつぶらで、女将さんは目に惚れたって惚気てた。


「俺がやっても、冗談にしかとられんだろうよ」


「お前、ホラ、有名じゃないか」


「なら尚更、しないほうがいいよ」


名前に集る人間は、飽きるのも諦めるのも早い。


「うーん・・・」


「まあ、人員不足は確かか・・」


どうしよっか。


―――


この世界に存在する戦力は主に、軍人>騎士>冒険者>傭兵である。

マイナーなところでは、警邏隊、神官戦士、部族戦士、闇社会、非合法組織に属する戦闘員、いろいろいる。


≪傭兵は、己の武力を対価と引き換えに提供する生業である。

傭兵団とは、集団戦力を対価と引き換えに提供する事業である≫


現在、アルザント王国では、火種はあれども戦争の予定は無い。


ならば、何のために戦力がいるのか?


主に魔物討伐。これすごい数が多い。キリがないほど。


次に盗賊討伐。騎士団だけではカバーしきれない。世情が不安定な小国が多い。大国内でも領によって貧富はある。


警備・警護。傭兵に最も多いお仕事である。貴族は私兵を囲う、商人なんかは維持費が馬鹿にならないと経費にシビア。


言いたくはない。言いたくはないが・・・、


「傭兵は、実は人気がない」


ある冒険者は言った。「なんか夢がない」と。


ある騎士は言った。「えっと・・なんか将来が心配で・・」と。


ある軍人は言った。「なんていうか・・大儀・・とか欲しいよね」と。


一般的な傭兵団所属なら衣食住の面倒は見てくれるが、危険な割に保障も補償もない。健康保険も無ければ年金もない、退職金が有る団もあるが、基本は無い。


個人傭兵なら、さらに何も無い。壊れたらおしまい。


仕事で長期間拘束されるし、仕事はまあ安定して有るが冒険者の様に一攫千金があるわけじゃない。騎士の様に名誉があるわけでない、軍隊のように大儀はないし恩給が着くわけじゃない。


そう、人気が無い。


社会的には、冒険者にも騎士にも軍人にもなれなかった人間が、最後にたどり着く場所。それが傭兵なのだ。この世界では。


つまはじき者も乱暴者も脳筋も盗賊一歩手前も盗賊一歩後ろも多い。

それが傭兵。


じゃあ、この世界に傭兵が必要ないのかと言えば、そうじゃない。

根無し草の冒険者よりは信用がある。

向こう見ずな騎士よりは取っつき易い。

お堅い軍人よりは親しみが持てる。


つまり、村や町に根付いた傭兵は、結構重宝されているのだ。いろいろ。

さて、

一般的な傭兵団の話をしてみたが、ここ【紅の旗”傭兵団】はちょっと毛色が異なる。


武力を持て余す者たちが纏まって出来た傭兵団ではなく、創設からして自営業の自衛のための“傭兵事務所”が発端で、つまり管理事務から始まっているのである。

傭兵より先に事務員がいたのだ。

給与形態も休暇も補償もみな最初に決まっていた。扶養者手当も子供手当まである。戦闘未経験者には訓練期間を与え給金は無いものの衣食住を与えた。当時、そんな傭兵団、他になかった。


で、


みんな真似た。


真似ようとした。


なまじそれで結果を出してしまったもんだから。


社会の問題児集団・傭兵団は“会社”である側面を強め、規律が厳しくなったこともあり、至極まともっぽい集団に変革した。(その分、割を食ったものは冒険者に流れたらしい)現代日本でいうならSPやら武装警護官みたいな感じに。


それでも傭兵は傭兵。


多少、世間の印象は変わったものの、そこに至る人間が大きく変わるわけではない。


―――


「・・・という訳なんだ、誰かいいのいない?」


「えぇー、あたしに聞くの?それ?」


シュナは気の抜けた声を出した。


「あたし、冒険者ギルドの人間なんだけど・・・。ギルドが傭兵への転職斡旋すんの?」


「しても問題はないだろう?冒険者からそういう相談受けてない?『力の限界感じたんで、転職したいんですけど』とか」


「力の限界感じた冒険者雇ってもしかたないと思うけど?」


「それはそれ。数はそれだけで暴力」


「怖い。この子供、怖い」


次の日、冒険者ギルドのロビー。様々な冒険者が仕事を求めてうろうろしている中、俺は相談に訪れていた。内容はちょっとアレだが。

シュナには昼食を奢ることで相談を受けてもらっている。


「でも、怪我して引退した冒険者に声かけても仕方ないでしょう?冒険者やめるって、大体、殉職か行方不明か命が惜しくなっての引退だし・・・」


「自分の戦闘技術に自信がなくなって、とかあるだろう?傭兵団で鍛えながら手当も貰える。結構いいんじゃないか?」


「うーん・・そう言えば、なんとなく、いい気もするけど・・・」


「なになに何の話?」


窓口の近くを通りかかった、ダナが話しかけてきた。


ダナはまだ若いのに辣腕のベテラン冒険者で南の方の自称戦闘民族の出身らしい。明るくて冒険者連中にも人気がある。ウチの傭兵連中とも親交があってオーダと仲がいいらしい。イイらしい?仲良くなりたいらしい、か。正確には。


「ウチの傭兵団が人手不足って話だよ」


「あ、ああー、例のリンディーちゃんとかね・・」


それはいうな。


「冒険者の中に傭兵志望者はいないかって来たのよ」とシュナ。


「南の山にダンジョン発見されたばっかだし、今はあんまりそういうのいないんじゃない?」


そういわれれば、そうか。

つい半年ほど前、領都アザレアから南下すること三日の山地にダンジョンが発見された。どうも遺跡型のダンジョンで多くの実入りが期待されているらしい。


「あれでこのアザレアにも人が増えたからね~」


「ダナは行かないの?」


「あたしはなんかパス。暗い地下とか苦手~」


「ダナ」


「ん?なに若」


俺は一呼吸置くと、

「傭兵団は君を歓迎する」と右手を差し出した。


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「オーダを付けよう」


「うん、いいよ」


「エエッ!?」(シュナ)


「あ・・・でも、籍を置くだけじゃだめ?やっぱ冒険者もしたいし」


「ああ、それは構わない。仕事がある時はちゃんと前もっていうから」


「うん。それでいいよ。あと・・」


「みなまでいわなくてもいい」


「ふっ・・じゃあ、お願いね」


俺とダナが握手するのを、シュナが「エー」と言いながら見てた。


話も滞りなく進み、俺が暇を告げようとしたところ、ギルドの玄関口で少年と冒険者の一団が口論しているのが聞こえてきた。


おおっ

やっぱ、ギルドはテンプレの宝庫なのか!

冒険者志望の少年と、素行の悪い冒険者!

これはイベントの予感!


「おいおい坊主。そんなこと言うもんじゃねぇ。傭兵だって命かけて戦ってんだ・・・」


「へっ!なにが命かけて、だよ!冒険者としてやってく実力がねぇから、みみっちく荷馬車守って金貰ってんじゃねぇか!冒険者になってまで、何が悲しくて俺がそんなちっせー仕事しなくちゃなんねーんだよっ!オレならそんな仕事受けないねっ!もっとデカいことしてーんだよっオレはっ!ダンジョンとかよ!この町にはなんとかって傭兵団があんだろっ!そっちにさせりゃいいじゃねぇかよ!傭兵みたいな奴らなら、こんな地味でちっせえ仕事でも喜んでするだ・・・・


・・・プゲラッ!!!??」


おおっ


なぜか少年が倒れてしまった。


「えいせいへーい。えいせいへーい」と呼んでみる。


何故か、周りの冒険者達が目を合わせてくれない。


何かの衝撃によって倒れた少年を助ける人もいない。


これが都会の砂漠というやつか。

世知辛いな。ふう。


―――


俺は見た。


なんか、傭兵を馬鹿にして騒いでた同い年位の男が倒れたのを。


その額になぜか、銅貨が張り付いていたのを。


その銅貨を、あの“紅旗の若様”がそっと回収していったのを。


冒険者で身を立てようと、ギルドに登録に来た矢先の出来事だった。

ぶっ倒れた男が騒いでる間、周りの冒険者達がちらちらと奥のカウンターを見ているのに気づいて、俺も目を向けてみると、そこには“紅旗の若様”がいた。


“紅旗の若様”の事は、おそらくこの町の誰もが知ってるんじゃないかというくらい有名だ。俺でも知ってる。話したことはないがウチの馬屋にも来たことがある。


いわく強い。


いわく怖い。


いわく愉快。


いろんな噂を聞いたが、今の若様は・・・


(怖いっ!超怖いっ!!無表情で男を凝視してるッ!?)


若様の手元が一瞬光ったかと思うと、

唐突に騒いでた男がぶっ倒れた。


窓口の女の人は両手を顔に当て天を仰いでいる。


若様の近くにいた女冒険者の人は爆笑してた。


ロビーにいた冒険者の人たちは口々に「くわばらくわばら」と言って散っていった。


俺は・・・


(なんか、すっげえ、っす)


―――


それから数日後、ダナは仲の良い冒険者3人を連れ、傭兵団に籍を置いてくれた。

無論、冒険者との兼業なので就業制限は多いが、ダナには冒険者としての信用もある。

団は優秀な人材を確保でき、ダナたちは食費も必要ない寮に入れる、双方悪い話ではないのだ。あまり大っぴらにやるとギルドから文句の一つもあるかもしれんが。


予想通り、暇があれば宿舎に入り浸っているようだ。

結構露骨なんだが、オーダはほんと、鈍いなぁ。


何故か訓練兵募集に応募があった。(何故かってなんだ)

馬屋の倅オットー君というらしい。なぜか訓練兵を卒業したばっかりのウリトンにしごかれているらしい。先輩面したいんだろうな。御愁傷さま。



「お前・・・こんな短期間で、どうやって連れてきたんだ・・・?」


おやっさんが驚いたので、

「人徳と生贄だ」と言ったら、苦い顔してた。



小話(完)


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