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傭兵の為に鐘は鳴る  作者: すいきょう
第一章 或る転生者のお仕事
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遭遇

周囲は不気味なほど、なんの音もしないし、近くには何の気配もない。


道なりに来たので、本来ここには村の外門があるはずなのだが・・・今、目の前には、白い“膜”がある。


外套をはおって馬車から降りる。警戒しながら近寄って見てみると、何とも奇妙な膜だった。


(たしかにこれはクモの巣だな。しかしまあ、どういう張り方すればこうなるんだ?)


1メール四方のクモの巣が、縦横に並んで、ずっと続いてる。

クモの巣模様をテクスチャマッピングしたような代物だった。・・・なんか非常に胡散臭い。


フォッサは一定以上、近づかない。

ウザン氏とローレさんも近づかない。

オットーは・・・お前は近づけよっ!調べろよっ!やる気見せろよっ!

え?もしもの時のために御者台からは下りない方がいいと思ったって?

・・・それもそうだけど、なんか素直に納得したくない。


フォッサ、顔舐めまわしてやれ。

「ワフン」

オットーが顔を涎まみれにされている間、俺は真面目に調査する。


その辺に落ちてた木切れを拾って、クモの巣を払ってみたら、硬いゴムを殴ったような感触がして・・・取れなくなった。くっついて。


押しても引いても糸にくっついた木切れは離れなかった。まるで瞬間接着剤だな。まあ、このクモの巣に葉っぱだの埃だの小鳥だのがくっついているから、予想通りではあるが。


馬車から、予備の剣を取り出してきて、斬りつけてみた。同じ結果になった。


「フォッサ、【炎刃】頼む」

「ワフォン!」


フォッサから放たれた魔力が、糸にくっついた剣の刃に集まり炎を形作った。

魔法の炎が発現したとたん、クモの巣の糸が、火に近づけたビニールの様になって縮んで切れた。ふむ、これもパターンだな。


俺はフォッサの頭を撫でてやると、火のついた剣で、クモの巣を切り払っていった。


―――


「ワオーン!」


向こうで戦闘が始まった様だ。


俺たちは、馬車が通れるほど、クモの巣を切り払った後、村の中心、緊急避難場所に向かった。まあ村長の家でもあるんだけど。


「オットー、絶対に馬を走らせるな、上空も警戒しろ、ウザンさんとポーレさんも周囲の警戒お願いします」


「ういっす」

「了解」

「はいっ」


良い返事だ。


ラインレッド領の遠隔地では、緊急時すぐに支援が来れないこともあるため、各村に強固な避難所が設けられている。

石積み建築でも地下室設置でも、魔法が大活躍するため、それほど手間も資金もかからないんだそうだ。

しかし、開拓時に受ける無償援助は避難所と外壁の設置だけで一般村民の家はその限りじゃない。村を広げていくなら、自分たちで外壁を広げていかないといけない。それ故、大きくなった町なんかは、上から見ると外壁が花びらのように見えるのだそうだ。


通常、その避難場所は村の中心にあり、管理も含めて村の代表が住むことになる。

以前来たときは、たしか避難所兼村長宅は石造り二階建て、地下室もあったと思う。村民200人避難できるかは・・・厳しいか?ちゃんと人口増加にあわせて、避難所増設してるといいけど。


「・・・静かですね。それに・・・」


ポーレさんが呟いた。


「・・・ああ、襲撃を受けた割には争った跡もない。もうちょっと荒れてると思ってたんだがな・・・」


ウザンさんの言うことも解らんではない。

魔物の襲撃を受けた村なら、その辺に死体の一つでも転がっていてもおかしくないということだろう。そのイメージは間違いじゃない、ただ・・・


「襲撃者は大勢の巨大なクモだからね」


一般村民が戦意を持つにはやや厳しく、捕まったら、おそらく骨も残らない。また、魔物として疑似的な社会性を構築しているなら、まず上位者に獲物を運んでいくことも考えられる。


想像したくないなぁ。


他の三人は想像してしまったのだろう。黙り込んでしまった。


村の入り口から中心までそんな遠いわけじゃない。いろいろ指示してる間に、避難所までついてしまった。正確に言うなら、避難所の玄関までもう少しのところで、立ち止まった。


もっと言うなら、それが避難所か確信が持てなかった。白いので巻き巻きされていたので。


さらに言うなら、避難所と思われる建物の屋上にクモが現れた。3メールほどのが。


さらにもっと正確にいうなら、周辺の建物の影から、クモが現れた。2メールほどのが。5匹ほど。


「うわぉ」


思わず、そう言ってしまった。


しかし俺も一端の傭兵の端くれだ。端が多いが慌てず騒がず、ただ仕事するのみ。


「ポーレさん」


俺が合図すると、ポーレさんが素早く簡易結界杖を設置する。


杖の石突を地面に垂直に当て魔力を流すと、自動で地面に突き刺さり、力場を張る。この位置まで避難所に近寄ったのは、半球状に展開される結界内に避難所の玄関部分を含めるため。あらかじめそうするよう、ポーレさんには指示してある。


ウザンさんは・・・特にすることはない。「驚かないように」と「結界から出ないように」を言っておいた。


オットーは、クモを見て怯える馬を宥めている。ある意味一番難しい仕事だ。

フォッサは低く唸り声をあげている。


(これで全部かな?)


周囲6匹の他に、さらに離れたところから何匹かこっちに来てるようだ。


その辺にクモが隠れていることは、すぐにわかった。

魔物とはいえ、気配を消すのはあまり得意ではないようだし、隠れ方も雑だ。尻隠せよ。

フォッサの警戒も半端ないし。周囲を囲める場所まで誘い込んだつもりなんだろう。


驚いたのは、別にクモが出てきたからじゃない。

屋上に出てきたクモ、そいつが他の奴とはちょっと違ったからだ。


そいつは全身、血のように真っ赤なクモだった。


クモの顔にあるいっぱいの眼(八個どころじゃない)が、ゆらゆらと燃えるように光ってた。


(なんか、ほんとに、めんどくさいことになったな)


イヤな予感が半端ない。

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