IT2015年03月22日
-----IT2015−03−22−05:30-----
ぱちり。
のそのそっとベットからでて、店にある大きな古時計を見る。
昨日に引き続き、早起き・・・というより、先日の事もあり寝付きが悪かった。
窓からまだ暗い外を見る。
『死霊の王』・・・『リッチ』が誕生したという事実はあるが、平穏に見える。
きっと冒険者の皆さんが解決してくれる。そう願いながらも、事実を知ってしまったからの不安。それは払拭出来ない。
私に出来る事は・・・冒険者さん達の手助けをする事。
そりゃあ、私も魔法で鑑定が出来る以上、魔法を扱う事が出来る。
でも、それは、冒険者さん達の”それ”には遠く及ばない。なにより、魔力の量が少ないのだ。
「よしっ」
私は気合をいれると、工房に向かう。
『リッチ』を討伐するとなると、回復系アイテムの需要が増える筈。
「ちょっと・・・大分・・・早いけど、ポーションの製作から始めますか!」
私の名前は、フレイア。
みんなは親しみを込めて、『フレイ』と呼んでくれます。
ここ・・・アースの田舎街の片隅で、母から受け継いだ魔法の道具屋を営んでいます。
いらっしゃいませ。『フレイ魔法道具店』へようこそ。
-----IT2015−03−22−11:55-----
その知らせが届いたのは、もうそろそろお昼になろうとする時だった。
ばんっ
勢いよく扉が開けられる。
入ってきたのはイルマだった。
「フレイッ大変よ!! 街に『リッチ』が出現したわ!!」
「ええッ!?」
通常『リッチ』は昼間から街に出るなんて事は無い。
あまりにも手駒が増えないから、業を煮やしたのかしら?
ってそんな悠長に構えている場合じゃない!!
「今、街に居た冒険者達がなんとか押さえているけど・・・少なくとも数十体のアンデットと『リッチ』、かなり苦戦をしているわ。」
「それで、あなたの店の回復類の在庫も全て出して欲しいのよ。」
イルマは店の在庫全てを冒険者に配って、対応している。その上で足りない部分を私の店の在庫も使って補おうという事。
「勿論よ。イルマ馬車で来ているよね?」
「ありったけ、積むわ。」
店の在庫・・・ポーション150個、ハイポーション80個、マナポーション50個、エクスポーション10個、エリクサー1個
その他に庭から、薬草を採取する。ポーションに比べると回復量は大分少ないけど、贅沢は言ってられない。
それらをイルマとイルマの従者らと協力して馬車に積み込む。
「え!?アンタの所・・・エクスポーションなんてあるの!?」
「って、こっちはエリクサー!?」
「うちの秘蔵のアイテムよ。」
「・・・それより、その冒険者の中に香奈さん・・・いえ、『深淵』のパーティーは居た?」
「『深淵』のパーティーなら最前線で戦っているわ。」
「なら・・・」
私は工房の『壺』から『ミスリルシールド』を取り出す。
香奈さんに依頼されていたものだ。炎属性の付加。それは『リッチ』の弱点でもある。
「え?これは・・・」
「フレイ!もう行くわよ!!」
「あ、ごめん。私も行くわ!!」
さらに『壺』から私の実験用の・・・『杖』を取り出す。
私専用の『杖』・・・と言っても、この『杖』を使っても私では一発が良い所。
それら2つのステータスの確認は馬車の中で行う事にする。
「お待たせっ!」
「直ぐに出発よ!!」
イルマの号令で走り出す馬車。
ドコドコドコドコドコドコ・・・
コトコトじゃない、ドコドコと音を立てて全速力で走る馬車。
痛い痛いっあちこちに体をぶつける。
「しっかりつかまって!全速力よ!!」
あわわわわ・・・もはや、掴まるのが精一杯。
正直、ステータス確認どころではないけど・・・
「やっぱり・・・」
「なにがやっぱりなのよ?」
香奈さんに依頼された『ミスリルシールド』。
これ・・・『限界突破』してるッ
私はその事をイルマに説明する。香奈さんが依頼したのは炎属性強化。それは『リッチ』の弱点である属性。
この『ミスリルシールド』はきっと、大きな助けとなる。
「これを最前線の香奈さんに届ける。」
「イルマ、私の店のアイテムをお願い。」
イルマにそう、宣言する。
「・・・危険よ?」
「・・・分かってる。」
私は、私の『杖』を握り締める。
100日熟成させた私専用の『魔法杖』。
大きな三日月の中央に星をあしらった長杖。
・・・
・・・
・・・
やがて馬車は、街の中を進み、中央広場へと到達する。ここより北が戦場となっているみたい。
「じゃあ、イルマ。私、行くね!」
私は駆け出す。
手には『ミスリルシールド』と『月と星の杖』。
背中のリュックには、詰められるだけ薬を詰め込んだ。
暫くすると、血なまぐさい匂いと腐敗臭が鼻をついた。
『リッチ』の僕の『アンデット』と冒険者が戦っている。
この辺りは、問題がなさそうだ。
私はその横をすり抜け、さらに奥・・・『深淵』のパーティーの戦場を目指す。
行く手を遮るように『アンデット』が現れる。ゾンビとかグールってヤツだと思う。
私は、『月と星の杖』を握る手に力を込める。
・・・戦いは避けられない。
がくがくと足が震える。
私は必死に足の震えを止めようとする。
・・・私には、実践経験なんて当然ないのだ。
「任せて!」
その時、誰かが私の横を走り抜けて『アンデット』に斬りかかった。
「黒桜さん!?」
「話は聞いた。フレイちんは、その盾を持って早く香奈さんの所へ!」
ばしっ私は自身の頬を叩くと駆け出した。
その先・・・香奈さんの元へ。
さらに酷くなる腐敗臭、その先に『リッチ』は居た。
体長は3m位だろうか?立派なローブを纏ったガイコツで、足は無く浮遊している。
僕の『アンデット』・・・スケルトンを10体位従えて、華音さん、香奈さん、花子さんの3人と戦っている。
華音さんが後衛で魔法を放ち、花子さんが攻撃、香奈さんはガードというフォーメーションだ。
しかし、華音さんが得意な闇系統は『リッチ』には効果が無い。
「エネルギーボルト!」
華音さんは無属性魔法を使っているが、致命的なダメージは与えられない。
そうなると、花子さんの聖属性攻撃が頼りだ。
「スラント!」
聖属性を付加した槍による攻撃でスケルトンはバラバラになる。
だけど、肝心の『リッチ』に攻撃は届かない。
そのうちに、スケルトンは『リッチ』の手によって再生する。
さらに『リッチ』は後ろから魔法で攻撃をしてくる。
闇の槍・・・「ダークランス」だ。
香奈さんは、盾スキルを使用し魔法を受け止める。
今の装備は・・・レアリティ8『ランドタートルの大盾』だと思う。
かなりの防御力を誇るけど、非常に重い。香奈さんは攻撃には参加できないと思う。
「はっ」
冷静に分析している場合じゃないって!
香奈さんにこの『ミスリルシールド』を渡せば、戦況は変わる・・・筈。
私は叫ぶ。
「香奈さん!! この盾を使ってください!!」
そして香奈さんに向かって投げた。
私の声に気が付き、盾を器用にキャッチする。
「私が依頼してた・・・盾?」
「え、これは・・・」
レアリティー10★ 『ミスリルシールド+』 炎属性強化 極
「『限界突破』です!その盾なら、重量それ程ではないので、攻撃にも参加できるはずです。」
「・・・ありがとう、フレイちゃん!」
香奈さんはお礼を言うと、スケルトンにシールドバッシュで攻撃する。
アンデットは総じて炎に弱い。一撃でバラバラになる。
でも・・・まだ、決め手がない。
後ろの『リッチ』には届かない。
・・・私もやるしかない。
3人に声を掛ける。
「今から、強めの魔法を放ちますが、暫くタメがいります。」
「暫く凌いでください!」
「フレイ?お前、魔法が使えるのか?」
「ええ、1発が限度だと思います。」
「でも、スケルトン軍団を全滅させて、後ろの『リッチ』にも多少ダメージが入ると思います。」
「あとは・・・お願いします。」
「分かった。」
「聞いたとおりだ!フレイに敵を近づかせるな!」
「了解ですぅ」「はいっ」
その声を聴き、私は魔法の詠唱に入る。
魔法による鑑定や、魔法を利用した属性付加等をおこなっている私は、魔術師としてもレベルが上がってしまった。
でも・・・実践経験は無い。いや・・・戦おうと思っても致命的な欠点があるのだ。
私は魔法を使うための魔力の絶対量が少ない。
幾ら強力な魔法を知っていても、唱えるだけの魔力が無い。
故にこの杖なんだ。
レアリティー11★ 『月と星の杖』 魔力消費軽減 極 全属性強化 大
私が、私自身の為に素材から作り上げた私専用の杖。
それをさらに100日間魔力を少しづつ注ぎ込んだ。
そして・・・魔法は完成する。
「皆さんっ離れてください!!」
私の声に距離を取る3人。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!インフェルノーーーーノヴァ!!」
炎系の上級魔法『インフェルノ』を更に強化した魔法。
強大な炎の渦が巻き起こり、スケルトン達、そしてその後ろに控える『リッチ』にも炎が及ぶ。
「何!?インフェルノ・・・ノヴァ!?」
「クリムゾンの上にクリムゾン・ノヴァがあるから、インフェルノの上にもと、存在は噂されたが・・・まさか・・・」
「香織ちゃ・・・『紅蓮』の炎魔法より強力ですぅ」
はぁっはぁっな、なんとか・・・発動したみたい・・・でも・・・
「あ、後はお願いします・・・」
私の意識はそこで途絶えた。
・・・
・・・
・・・
気が付くと、夕方だった。
ここは・・・中央広場?の仮説のテントの中みたい。
あの後・・・どうなったんだろう?
まあ、私が無事って事は、『リッチ』を倒す事が出来たんだと思う。
私は簡易的なベットから身を起こす。
その事に気が付いた、香奈さんが駆け寄ってくる。さらには、華音さん、花子さん、黒桜さん、火憐さん、凍夜さんも居る。
・・・あ、遠くにMAXさんも見えた。
「フレイちゃん、もう大丈夫?」
「はい・・・大丈夫です香奈さん。」
「それで、あの後・・・」
私が魔力葛藤で倒れた後。
スケルトンは綺麗に全滅いや、消滅・・・復活さえ出来ない程に。でも、『リッチ』は倒しきれていなかった。
しかし、無傷とはいかず、恐らくHPは半分も残っていなかったらしい。
そこへ3人の全力の攻撃を叩き込んで消滅させた。といった感じみたいです。
皆が無事でよかった。
私は安堵の息を漏らす。
「それにしてもフレイ。」
「あの魔法・・・其れよりも、その杖!それはなんなんだ!?」
で、ですよねーやっぱり聞かれちゃいますよね?
そもそも、『インフェルノ・ノヴァ』という魔法は私のオリジナルだったりします。
まあ、元の『インフェルノ』って魔法があるから、厳密なオリジナルじゃないんですけどね。
杖は・・・多分だけど・・・伝説級に近い性能を持っちゃったかなーみたいな?
うーん。私はしばらく考えて・・・
「秘密です♪」
とウィンクをして答えた。
-----IT2015−03−15−23:00-----
私は、日課である日記を付ける。
「街に出現した『リッチ』は皆の力で撃退できました。」
「・・・明日は、普通の・・・平和な日がいいなぁ」
慣れない戦場に行って、盾を届け、魔法を一発撃ってきた。
その事に今更ながら、恐怖を感じている。
それでも私は、ベットに潜り込む。
目を閉じたら・・・なんて考える以上に疲労から直ぐに眠りについてしまった。
おやすみなさい。
・・・明日が、良き日であるように。