山田花子
転載、ダメ絶対(・ω・)ノ
私は山田花子。平凡な名前でしょ?
そこ、素直に頷くのはやめてくれない?
訊いておいて何だけどね、結構コンプレックス持っているのよ。
自分でも分かっているの。
私はこの名前のとおり、性格も容姿もごくごく普通。
よく期待を裏切らないって言われるわ。
私はこの年で29歳になるけど、この名前の所為で随分、損な人生を送ってきた。
少なくとも最近まではね。
29歳っていう所で、『もうすぐ三十路ね』といった貴女は、私から見て、極悪な女ね。
ほら、フフッって笑ったでしょ?
あ、聞き間違い?
まぁいいわ、許してあげる。
なぜなら私はベリーベリー心が広いのよ。
ええ、ベリーベリーね。
閑話休題。
私の人生を振り帰ってみると色々な事があったわ。
まだ29歳だけどね。
まず幼稚園の時。
この頃から私は『トイレの花子さーん』とからかわれていたわ。
こんな名前なんだし、お約束よね。
それでよく言われていた。
『やーい、トイレの花子さーん』
『おまえ、トイレにすんでんだろー?』
常識的に考えてトイレに住んでいるはずが無いでしょう?
でも庇ってくれた人もいたわ…………。
『おまえら、しつれいだろっ! トイレの花子さんに!』
いや、君のほうが失礼だわ!
私に!
でも、この頃はまだよかったほうだわ。
イジメも無かったしね。
言葉の暴力は雨の様に降り注いでいたけれど。
次に、小学生時代。
問答無用で卵を投げつけられたわ。
私がトイレの花子さんである以上、理由なんて無かったと思う。
それでも私は幸い、運動神経が良かった。
いえ、極度に勿体無いお化けを恐れていたの(今でも恐れているわ)。
だから四方八方から飛んでくる一個も卵を割らずにキャッチ出来た。
今思えば、神業だったのよね。
それで卵を何十個も投げてくるものだから、私、勿体無くって言ってやったのよ。
『私にくれてやる卵があるぐらいなら、ユニセフに募金しなさいよ!!』
ってね。
私の言葉を聞いた人たちは、猛省したわ。
というのは単なる願いであって、実際は意味がわからない言葉(当時、一年生だったから……)を発する私を奇妙なものでも見るかのように、というか……完全に見ていたわね。
その後は、言うまでもなく、イジメは消滅したのだけど、腫れ物扱いよ。
さすがに、6年生になってそのことを覚えているような人は、私が知る限りいなかったのだけれど、なんだか変な人って曖昧な記憶だけが残っているらしくて孤立が、6年生まで続くわけ。
仲がいいクラスメイトも居なかったし、唯一お友達になれたのは、ウサギ小屋のココアちゃんだけだったわね。
毎日、毎日、先生の頭がザビエル的に禿げているだの、先生の体からは刺激臭(加齢臭)がするだの勉強を交えて愚痴っていたわ。
そんなココアちゃんも、6年生の冬休み、餌やりを忘れていた当番の男の子の所為で……。
ええ、ご臨終よ。
別に黒魔術に手を出すまで恨んではいないんだからね!!
要するに恨んでいたということね。
ツンデレは大抵いつだって肯定を示しているのだから。
ここ、テストに出るんだからね!
ええと、つまり出ないってことよ。
自分で言っておいてなんだけど、ややこしいわね。
そんな感じに私の空しい小学生時代は幕を下ろしたの。
はい、中学生時代キタ!
ここで妙にテンションが高いということは好いことがあったと、推理できるわね。
三年生に進級した頃、私に人生最大の転機が訪れたの。
それは何かって言うと……聞きたい?
勿論、聞きたくてしょうがないって感じよね。
なんと!
とある男の子に告白されたのよ。
まぁ、その男の子に告白されるまで男の子の存在を知らなかったことはこの際忘れましょう。
ええ、あんまり他人に興味が無かったのよ。
あの頃はね。
そう、あの頃の話。
私は酷く自分の存在意義というものに悩まされていたの。
それはもう食事が喉に通らないくらい。
なにしろ中学三年生で悩みざかりの時期だったから。
でもね、その……名前も知らなかった井上君に告白されたことで、自分の存在を受け入れてくれる人がいるんだってことを知ったのよ。
あら、惚気話ではないわよ。
今の時点では。
そうね、序々に惚気ていくことは否定できないわ。
そうね……。
まずは、井上君の正体について話しましょう。
正体なんて大仰に言ってるけど、別に超能力者とか非現実的なものでは無いことを断わっておくわね。
あ、もしこの文にSF要素を求めている人がいたとしましょう。
即刻読むことを中断した方が良いわよ。
非常にネチネチした話だから。
井上君の正体。
それは――
馬鹿だったの。
正体だの言っておきながらそれだけ。
でも意外に本格的バカってあんまり周りにいないもの。
言うなれば希少な存在なのよ。
その井上君について。
本人は至って大真面目に行動してるらしいんだけど。
どうも全ての言動行動においておバカさんであることはまず持って否定できないわ。
人を煽てる才能を獲得したこの私でさえも、バカとしか言いようがないの。
まぁ、よく言えば素直?
この発言においてクエスチョンマークは譲れないわ。
だって自信無いもの。
でもね、そんな馬鹿な井上君にも唯一といっていいほどの誇れるものがあったの。
それは……優しさ。
優しいっていってもそんなの沢山いるわよ。
って言いたくなるかもしれないけど。
あそこまでの優しさは中々いるものじゃないわ。
私が思うにね、あの優しさは――
馬鹿だからくるものだとおもうの。
馬鹿だから猪突猛進に何も考えずに。
ただただ、困っていると助けたくなる。
利己的な計算も打算も皆無。
だからこその優しさだと思うの。
優しい人に優しく出来る人なんて腐るほどいる。
でも彼みたいに。
優しくもない、冷たいだけの赤の他人にあそこまで優しく出来るなんて。
だって他人なのよ?
ほっといても誰も責め立てることはしない。
むしろ関わることを避けられるような人間。
そんな人間に、あそこまで優しく出来るなんて。
理解できなかった。
最初は。
こいつは頭がおかしいんじゃないかって疑ったわ。
だって来る日も来る日も罵倒を浴びせられて。
痛いところを、突かれて。
攻撃的な態度しか示さない私に。
生半可な馬鹿でないと、耐えられるものではないわ。
でも私はあのバカに救われた。
不覚にも救われてしまったのよ。
それこそ、優しい物語の様に。
殻に閉じこもって実態のないものに憎しみを抱いていただけの私を。
それはもう見事に救われてしまった。
思い返せば悔しいことだらけだわ。
馬鹿に救われるなんて。
名の知れた精神科医も匙を投げてしまうほどだった私を。
いとも簡単に救ってくれた。
地獄の淵から引き上げてくれた。
排他的で、敵しか認識できなかった私に。
人の温かさを教えてくれた。
ふふ、心温まる良い話でしょう?
いつか脚色を施して物語にでも仕立て上げてみようかしらね。
悪くないかもしれないわ。
さて。
ここで私の綴ったお話も終わり。
ここでは私の価値観、人生観を綴ってみたのだけどどうだったかしら。
酷くつまらないと思った人もいるでしょうね。
大体この文章は何なんだと疑問を抱く人が続出しては困るから一応書いておくわね。
これは、『あなた』へあてた手紙。
あら、意外だったかしら。
でも初めに私へ手紙をくれたのはあなただったでしょう?
ほら、覚えていない?
手紙を出してくれたわよね?
あら、違った?
送る相手を間違っちゃったかしらね。
いやその……あなた住所書いてなかったでしょう?
だから手当たり次第送ってみたのだけど。
届いたかしら。
届いているといいわね。
じゃあまたいつかお会いしましょう。
山田花子より。
変な感じです。
ではまたー(・ω・)ノ