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《君の名は?》 ~煙草と清酒のある風景~

二十歳を過ぎて、煙草を覚える

作者: 白い黒猫

「私ってどういうイメージなの! 『えっ煙草吸わないんですか? なんか腰に手をやってスパーと煙吐いている姿が似合いそうで』って失礼よね!」

 職場の先輩が月曜日のランチタイムの時、怒っていた。同窓会で懐かしい友との一時を楽しんだようだが、二次会でそんな事言われた事がショックだったようだ。地域情報雑誌の会社で編集者としてバリバリ働いている彼女の勇ましいキャラクターが煙草吸ってそうな雰囲気を与えていたのだろう。

 とはいえ、その先輩は私と同じ大の嫌煙家。煙草吸っているというだけで、彼氏候補から脱落してしまうほど嫌い。職場も全面禁煙にしてしまったのも私達が中心で運動した結果である。

「分かります。私も絶対『お前は喫煙席だろ!』って言われますもの! 頭きますよね」

 私がそう受けると、先輩は苦笑して首を横に振る。

「タバちゃん、アンタの場合、意味が若干違うけどね」

 先輩の言葉に私はムクれるしかない。私の場合、キャラクターではなく、苗字の問題だからだ。私の苗字は、冗談のようだが『煙草』と書いて『タバコ』という。何でこんな苗字が存在するのかも謎だけど、実際にこの苗字を持つと、イチイチ面倒臭い。

 名乗ると、『タバタさん?』といった感じで、まさかそんな苗字があるなんて考えてもいなかった人は、必ず聞き返してきて、『いえ、煙草です。煙に草と書きます』と説明しても理解はしてもらえるものの、納得に時間がかかる。初対面の人に会う度に、毎度こんなやりとりが繰り返されている。

「あ、こんな時間! 聖天大学の取材いってきますね!」

 気が付けば一時前になっていたのを見て、私は慌ててランチのゴミをレジ袋に纏めて捨てて、会社を飛び出した。聖天大学の学生が、アメリカで生まれた新しいスポーツを始めたという事で取材に行くことにしたのだ。

 待ち合わせのキャンパス内のラウンジに入る前に息と髪の毛を整えて中にはいる。すると可愛い女子大生が三人が近付いてくる。

「はじめまして~! 私達フットバトルバスケのマネージャーやっています~」

 キャピキャピっとした感じで挨拶してきた。まだ社会人になってそれほど時間がたってないのに、大学生と改めて向き合うと、その弾けんばかりの若さにまぶしさを感じる。マネージャーだからあんたらはメインではないだろうと思うのだが、取材ということで、つけまバチバチのアイメイクもバッチリ決まっていて気合いを感じるその顔から発するパワーも凄まじい。ここは大人の女の魅力で対抗して頑張らねばと、私は胸をはりニッコリと笑い三人に微笑み返す。

「私は『ヒダマリ、SANポ!』編集部から参りました煙草です。今日は宜しくお願いします」

 名刺を取り出し手渡すと、三人はこういった事に慣れてないのか、『凄~い名刺だ! かっこいい~』と変な所で盛り上がってコチラの挨拶を聞いてなかったようだ。そして改めて私の名刺を見つめ首を傾げる。

「えっと……エンソウさん?」

 上にローマ字でふりがな書いてあるのを気が付いてないようだ。そして珍名である『煙草』を無理矢理、違った読み方をしてこようとしたようだ。こういった珍名を持った人のあるあるパターンの一つである。

「いえ、実は読み方はそのままで大丈夫なんですよ! 珍しいでしょ? 皆さんからビックリされてしまうんですよ」

 またこのやりとりが始まったのかと、私は内心うんざりしていたが笑顔でそう答える。真ん中にいたリーダー格の女の子は、納得したように元気に笑い頷く。

「ケムリクサさんなんですね!」

 どうやら本当に読めてなかったようだ。大学生にもなって、『煙草』って読めない人がいるんだ! と私は妙な感心をしてしまった。私は、その文字が『タバコ』であることをヤンワリと教えておく。

「すご~い♪ これでタバコって読むんですか初めて知りました! 彼氏にこの漢字の事、教えて上げたら、『お前、頭良いな!』って感心されるかな~?」

 女子大生は見当外れの所で感動し、両脇の二人にしない方が良いと思う危ない決意を口にする。

 こうして初対面の人が私の苗字を知った時に起こすリアクションに、新しいパターンが誕生したようだ。


煙草さんは日本人苗字ランキング31718位で25世帯いらっしゃるそうです。

煙草さんは『私はコレで煙草を辞めました?』という中編作品がスタートしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1/25のご家庭がご近所にいらっしゃいます(笑) こう言ったエピは…怖くて聞けません。 そう言えば、私も××たに?と言われて××やですと答えた事もあります。 高校の同級生に唐笠くんという人が…
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