第2話
校舎の一番奥にあって人通りが少ないトイレ、その脇にひっそりとある東階段。
小さな窓が一つだけある踊り場、ここであたしと片山は人知れず「デート」をする。
男子の中ではけっこう目立つ片山と、特別美人でもなんでもないあたしが秘密で付き合ってるなんて、みんなを出し抜いてる感じがして実はちょっと気分がいい。
スリルを楽しんでるのもあるけど、隠してる本当のわけは片山には他校に、本命の彼女がいるから。
「日曜日どっか行こうよ」
あたしは無理なお願いをわざと言ってみる。
他校の彼女とは土日にデートするしかない。
もっとも片山は帰宅部だから学校が終わってからいくらでも会ってるんだろうけど。
あたしとは校内の、しかもこの東階段でしか会わない事になってる。
「あー・・」
と、いつもどおり曖昧な返事をする片山。
片山の匂いに浸りながらあたしは思ってた。
このままずっとここで抱いていてくれればいい―――・・
その時彼のケータイが鳴った。
びくっと肩が震えたのを気付かれたと思うと悔しかった。
片山はさっとあたしから手を離し、悪びれる様子もなく慣れた手つきでメールを打ち返す。
仰々しく「誰から?」なんて聞きはしない。
メール画面はここからでは見えない。
・・のぞくつもりもないけど。
彼女へのメールを送信し終えたらしいケータイは彼のポケットにしまわれる。
そして片山は思い出したようにまたあたしを抱きしめる。
だからあたしも何事もなかったふうにしてその首に手をまわす。
「キスしてよ」
彼のくちびるがあたしに触れる。