モグラの王子様と虹色のバラ
昔々、もしかしたら未来。
西の国の王様に、三人の美しい娘がおりました。ある日の事。たくさんお酒を飲んで良い気分になっていた王様は三人の娘達に聞きました。
「おまえ達はどれくらい私の事を愛していてくれるのだい?」
一番年上の姫が言いました。
「綺麗な宝石と同じくらいお父様の事を愛しています。」
真ん中の姫が言いました。
「素敵なドレスと同じくらいお父様の事を愛しています。」
王様は二人の娘達の返事を嬉しく思いました。
「では、末の姫よ。そなたはどれくらいこの父の事を愛してくれている?」
末っ子の姫が答えました。
「私はもふもふのぬいぐるみと同じくらいお父様を愛しています。」
「何だと!」
と王様は叫びました。
「そなたは、この父をぬいぐるみなどのように思っているというのか!」
お酒を飲んで酔っていた王様はカンカンになって怒りました。そして
「おまえのような娘は、もう娘ではない。この城から出ていけ!」
と言って、末のお姫様を城から追い出してしまいました。
末のお姫様はお城を出てとぼとぼと歩き始めました。
「これから、いったいどうしよう。」
とりあえず北の国との国境に向けて歩き出しました。
丸一日歩いて夜になり国境まで来ると、そこにはとても見事なバラ園がありました。
「なんて綺麗なバラなんでしょう。」
と言った姫君は、一番好きな白い色のバラに手を伸ばし、一本手折ってしまいました。
「とってもいい香り。」
その時です!
「貴様、私のバラに何をしている!」
姫君が声に驚いて振り返ると何とそこには!
大きなスコップを持った、2メートルくらいの大きさの巨大なモグラが立っていました。二足歩行で。
モグラがしゃべった事にびっくりした姫君でしたが、姫君は素直に謝りました。
「ごめんなさい!どうか許してください。あんまりにも素敵なバラでしたから。」
「バラが好きなのか?」
「はい。ジャムにすると最高です。」
そう言ったとたん、姫君のお腹がぐーっと鳴りました。
「お腹が空いているのか?見たところ高貴な令嬢のように見えるが、こんな所で何をしているのだ?」
巨大モグラにそう聞かれて、姫君は全てを正直に話しました。
話を聞き終わったモグラは
「それはひどい話だな。この辺りはクマも出るし野宿をするのは危険だ。お腹もすいているようだし私の館に来なさい。」
と言いました。
確か、モグラも肉食動物のはずだけれど大丈夫かしら?『六部殺し』みたいな事が起きたらどうしよう。
とお姫様は思いましたが、とっても疲れていましたし、お腹が空いていました。それにもふもふの背中をした巨大モグラの可愛らしさにお姫様は抗えませんでした。お姫様はモグラについて歩き出しました。(六部殺しというのは、旅人や遍歴商人を歓待するふりをして、財産や命を奪ってしまう行為の事をいいます。)
モグラなので、地下におうちがあるのかと思いましたが、モグラの家は普通のお屋敷でした。いえ、普通以上に素敵な広いお屋敷でした。
「ただいま。」
と言ってモグラが中に入ると
「おかえりなさいませ。」
と言って執事がスコップを受けとりました。執事は人間でした。モグラは執事にお姫様の事情を話し、お姫様に部屋と食事を用意するよう言いました。
「かしこまりました。心を込めてお世話させて頂きます。」
と執事は言い、メイドにお姫様を客室に案内するよう言いました。メイドも人間でした。それから食堂に案内されると、そこにはお姫様が一人では食べきれないぼどの料理が並んでいました。
モグラの屋敷なので大量のミミズが出てきたらどうしよう?とお姫様は内心ドキドキしていたのですが、そこに並んでいたのは、お姫様が普段食べていたのと同じような料理でした。お姫様の大好きな、生のフルーツもたくさんありました。料理人も人間でした。
「旦那様も私達もお客様は大歓迎です。どうか、ずっとここにいてください!」
と使用人達がみんな言ってくれます。
どうして館の主人だけがモグラなのかしら?とお姫様は不思議に思いました。
「こちらの旦那様は、食堂で食事を食べられないのですか?」
「旦那様は、モグラのお姿になってしまって以来、カトラリーが上手に持てなくなってしまったので他の人と一緒に食事を食べることをやめてしまったのです。」
「という事は、ご主人様は以前はモグラではなかったのですか?」
そう聞くと、使用人達はしくしくと泣き始めました。
「そうです。旦那様がモグラの姿になってしまったのは妖精の呪いなのです。」
そして、使用人達は『妖精の呪い』について話をしてくれました。
二十年ほど前。北の国には王子様と婚約者の公爵令嬢がいました。
しかし王子様は母親が平民の男爵令嬢と恋に落ち、男爵令嬢を妊娠させてしまいました。王子様は邪魔になった婚約者の公爵令嬢に、自分の真実の愛の相手とお腹の子供を殺そうとした、という濡れ衣を着せ婚約を一方的に破棄してしまいました。そして男爵令嬢と結婚し二人の間に男の子が生まれました。
国を守護している妖精達は王子様に対してとっても怒りました。
そして、王子様の子供が生まれた時その子供にプレゼントを持って来たのです。
「私はこの子に、美しい容姿をプレゼントします。」
「私はこの子に優秀な頭脳を与えます。」
「この子に世界一の剣の腕を贈ります。」
妖精達はそう言って、更に続けてこう言いました。
「この子のそのとても優れた長所のゆえに、この子の心が滅びをもたらすほどに傲慢になり、この子自身と周囲の人間達全てに災いをもたらすように。」
妖精達はそう言って笑いながら去って行きました。
王家の人々はとても悲しみました。
しかし、そこにもう一人妖精が現れました。
そして妖精は言いました。
「あなた達両親は罪を犯しました。だけど、国民には何の罪もありません。なので、先ほどの妖精達の呪いが国民を不幸にしないよう、この子の18歳の誕生日にこの子が野獣になるようにしましょう。この子は人々の中から追われて地の果てで生きる事になるのです。」
「そしてその言葉のとおり、旦那様は18歳の誕生日にモグラになってしまったのです。」
と使用人は言いました。
「そんなのひどいです!悪いのは旦那様の両親であって旦那様は悪くはないではありませんか⁉︎」
とお姫様は言いました。
「人間に戻る方法はないのですか?」
「妖精は、『虹色のバラの花に宿る朝露を飲んだら人間の姿に戻れます』と言いました。なので、旦那様も私共もバラの花をたくさん育てているのです。でも、どんなに丹精込めて育てても虹色のバラは咲きません。」
「私もバラを育てる手伝いをします。どうかお手伝いさせてください。」
とお姫様は言いました。
そして、お姫様はその日から毎日夜明け前に起きて、使用人達と一緒に虹色のバラを探しました。
お姫様は昼の間は昼寝して、夜になるとモグラの王子様と一緒にバラ園の手入れをしました。
視力の弱いモグラの王子様の唯一の趣味は、オルゴールの音色を聞く事でした。お姫様は王子様の為に毎日ピアノを弾き歌を歌いました。
王子様はお姫様の優しさをとても嬉しく思いました。
そしてお姫様は王子様のもふっもふな背中や腕に触るのが幸せでたまりませんでした。
王子様はモグラの姿のままだったけれど、二人はとても幸せで穏やかな時間を過ごしていました。
その頃。
末っ子のお姫様を追い出してしまった西の国の王様は、お姫様を追い出してしまった事をとてもとても後悔していました。
そしてお姫様の行方を探していました。そして、お姫様が北の国にいるという事を突きとめましたが、自分のした事が恥ずかしくてお姫様に会いに行けませんでした。
そしてお姫様の二人のお姉さんは二人共結婚をしていました。
でも、二人共幸せではありませんでした。
上のお姫様はお金持ちの公爵と結婚しました。
お姫様は、これからはもっともっと買い物や贅沢ができると思っていました。
でも公爵がお金持ちだったのは、収入がたくさんあるのにお金を使うのは大嫌い!という人だからでした。
「もったいない。まだ使える。」
というのが公爵の口ぐせでした。
食事もとても粗末で、お菓子も食べさせてもらえませんでした。
綺麗な宝石やドレスや化粧品も「必要ない」と言って一切買ってくれませんでした。
「あなただって妻は美しい方が嬉しいでしょう?」
とお姫様は言ったのですが
「妻は金がかからないのが一番!」
と夫は言うのでした。
二番目のお姫様は、とってもハンサムな侯爵と結婚しました。
そしてその侯爵は、いつもいつもいつも、自分の顔を周りの人に褒めてもらわないと気が済まない人でした。
もしも夫婦でパーティーに出席して、誰かが夫よりも妻であるお姫様の顔が綺麗だと先に褒めたりなんかしたら大変な事になりました。
パーティーの間中不機嫌で、家に帰るとぐちぐちぐちぐち、延々と文句を言い続けるのです。
お姫様はそれが嫌で、パーティーではいつも地味な化粧をして地味な服を着るようになりました。
お姫様自身も、夫の顔を毎日毎日褒めなくていけません。だけど、夫の方がお姫様を褒めたり気を使ってあげる事はないのです。お姫様はすっかりその生活に嫌気がさしていました。
お姫様達は二人共、しばらくの間夫の顔を見たくない!と思いました。
なので父親に言いました。
「お父様。末の妹がどんな暮らしをしているのか私達が様子を見に行きますわ。」
父親である国王は喜んで二人を送り出しました。
「妖精に呪われた野獣の召使いをしているなんて、きっととても惨めな生活のはずよ。」
と姉達は言いました。
だけど、再会した末の姫君は幸せオーラ全開でした。
末の姫君は、毎日おいしいごちそうを食べ、綺麗なドレスを着て、バラの香油入りの上質な化粧品を使い、得意の楽器を演奏し、もふもふのモグラをもふっていました。
「旦那様は背中や腕はもふらせてくださるのだけれども、お腹は恥ずかしいと言ってもふらせてくださらないのよ。」
と末の姫君が不満そうに言うのを聞いて、二人の姉達は「こいつの髄液漏れればいいのに」と思いました。
自分よりも恵まれているように見える人がいたら、その人みたいになりたい。その人の幸せを奪いたい。
そう思うのが『嫉妬』という感情です。
姉達は末の姫君に嫉妬しました。
そして
「実は。」
と嘘をつきました。
「お父様がご病気なの。それであなたにとっても会いたがっているのよ。だから、お城に数日でいいから戻って来てくれないかしら?」
「お父様が!」
末の姫君はびっくりしました。
「わかりました。すぐに戻ります。」
お姫様は
「すぐにまた帰って来ますね。」
とモグラの王子様と使用人達に約束して、二人のお姉さんと一緒にお城へ帰りました。
末のお姫様の顔を見て父親である王様は泣いて喜びました。
そんな父親を見て「いったい、どこが病気なのだろう?」とお姫様は疑問に思いました。
「あなたが戻って来たお祝いに、一週間毎日舞踏会を開きましょう。」
とお姉様達は言いました。
「そんな必要はありません。私はすぐに旦那様の元に帰ります。」
「そんなのダメよ。あなたのお友達もみんなあなたに会いたがっているのよ。」
「私達もあなたをとても愛しているの。だから、すぐに帰るなんて言わないで。」
そう言ってお姉様達は末のお姫様を引きとめました。
だけどお姫様は聞いてしまいました。
二人のお姉様達が
「私の夫をあの子に押し付けるの!そして、私があの子の住んでいた屋敷で贅沢して暮らすのよ!」
とお互いに言ってケンカしているのを。
びっくりしたお姫様は、こっそり窓から逃げ出しました。そして一目散にモグラの王子様の屋敷に走りました。
その頃、モグラの王子様は寂しくて塞ぎ込んでいました。
すぐに帰って来る、と言っていたお姫様がなかなか戻って来なかったからです。
もしかしたら彼女はもう戻って来ないかもしれない。そう思うと寂しくて悲しくてモグラの王子様は病気になってしまいました。
使用人達は悲しくて、しくしくと泣きました。
そして王子様の為に、お姫様が好きな白いバラを枕元に飾りました。
そこにお姫様が戻って来ました。
お姫様はモグラの王子様が病気で寝込んでいるのを見てとてもショックを受けました。
「ごめんなさい。私のせいで!」
「君は何も悪くないよ。僕が弱かったからなんだ。」
と王子様は言いました。
「いいえ、私のせいです!」
と言ってお姫様は泣きました。
「私、心のどこかで虹色のバラなんか見つからなくてもいいと思っていたの。あなたにモグラの姿のままでいて欲しいと思っていたから。でも、あなたはモグラだから人間の姿でないから、病院にも行けないでいる。私がモグラの姿を好きだと思っていたから。このままでいて欲しいと思ってしまったから!ごめんなさい。ごめんなさい!」
「モグラの僕を好きと思ってくれていたの?」
「そうよ。モグラのあなたが好きよ。大好きよ。」
お姫様がそう言ったとたん、枕元の花瓶に飾ってあった白いバラがキラキラと虹色に輝き始めました。
バラの花びらの上には、キラキラと光る朝露がひとしずくのっていました。
王子様とお姫様はびっくりして、虹色のバラを見つめました。そしてお姫様は、虹色のバラをそっと手にとり
「朝露を飲んで。」
と王子様に言いました。
王子様は朝露を飲みました。すると、モグラの姿がキラキラと輝き始めました。
「ついに虹色のバラを見つけたのですね。」
突然部屋の中に妖精が現れて言いました。
「でも。」
と王子様は言いました。
「まだモグラの姿なのですけれど。」
「それは今が夜だからです。朝日が昇ったらあなたは人間の姿に戻ります。」
「そうなのですか?」
「でも、夕日が沈んで夜が来たらまたあなたはモグラに戻ります。人の姿に戻れるのは太陽が出ている時間だけです。完全に人の姿に戻る為には虹の・・。」
「あ、いいです。」
とモグラの王子様は言いました。
「一日のうち半分でも人間に戻れるなら十分です。僕はモグラになって、いろんな人達の心の底を知る事ができました。『気色が悪い』と言った母上、僕に絶対会おうとしなかった父上、『私の領地で暮らしなさい』と言ってくれた父上の元婚約者だった辺境伯夫人、こんな僕について来てくれた使用人達、それに何より彼女の事を。」
そう言って王子様はお姫様の手を前脚で握りました。
「今更、17歳まで暮らしたお城になんか戻りたくありません。僕はここで僕の大切な人達と静かに生きていけたらいいんです。完全な人間に戻ったら、連れ戻されてしまいます。だから、僕はこのままでいいんです。」
「わかりました。あなたは両親と違って立派な人間に育ちましたね。あなたの両親は人の姿をしていても心は獣でした。だけどあなたは、そしてこちらの姫君はとても素晴らしい人間です。あなた達の上にいつまでも平安と幸福がありますように。」
妖精はそう言って微笑み、消えていきました。
王子様とお姫様はその様子を見て、そして微笑み合いました。
「・・お腹、触ってもいいですか?」
「うん、いいよ。」
お姫様はモグラの王子様のお腹・・というか胸にそっとすがり、王子様はそんなお姫様を抱きしめました。
使用人達はみんな嬉しくて泣いていました。
そんな部屋の中で虹色のバラが、キラキラといつまでも輝いていました。
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