結局1番怖いのは人間だよねって話
本当に息も詰まるような満員電車に乗っていたとき、怪しい一筋の銀色の光が目に飛び込んできた。その光の方に目を向けてみると、
(うそ!?あの人ズボンのポケットにナイフ仕込んでる!絶対ヤバいでしょ!)
僕が立ってる左斜め前にリュックを背負いじっと下を見ている男が居た。そいつのポケットにナイフが入っていたのだ。もちろんケースなどには入れておらず、出すタイミングを今か今かと待っているようだった。
僕よどうする、何をするべきだ、考えろ、そして動け!動かないと大ごとになるぞ!僕は心の中でその言葉を何度も言い聞かせた。
ずっと言い聞かせているうちに、1つの答えへと辿り着いた。
(そうだ、ここにナイフを持っている奴がいるぞ!って言って……そこからそいつを…あれして…ふひ、ひひひひひ)
「大変だ!この男ナイフを持ってるぞ!」
僕は電車内で思いき叫んで呼びかけた。すると男は隠していたナイフを僕の腹部目がけて突き刺してきた。ドスッ!という鈍い音がしたが、全く痛く無いわけではないが、思いの外痛く無い。
「あれ?そこまで痛く無いんですけどって、あれれ〜おかしいなあ?なぁんで、リュックを刺したんだい〜??」
僕はいつも電車に乗る時は、混雑した際にはカバンは荷棚か足元に置くか、リュックは前側に背負うなどして他にお客様のご迷惑にマナーを守ってほにゃららほにゃららというのを忠実に守っている。そのため男が刺したナイフは腹部まで到達せず僕はほぼ無傷だったのだ。
「まもなく、布原、布原です」
もうじき駅に着くみたいだ。正直僕は無傷だったのでこのまま放っておいて着いた駅で警察を呼ぼうかとか考えていたが、仕事を急に休んでしまうと会社の人たちに迷惑がかかってしまうし、後々報告するのも面倒だろう。それに、全く痛くなかった訳でもなかったのだから、なんかこのまま警察を呼ばずに放置するのも納得いかない。ならば、
「おいみんな!”おみこし“しようぜー!」
僕は男を後ろから抱き抱え、思い切り持ち上げた。すると、周りに居た人たちがドアに押しかけ始めた。
「布原、布原です。ご乗車ありがとうございました…」
電車が駅に着いてドアが開いた瞬間、ドア付近に居た乗客たちが一斉にホームに出た。そして、持ち上げていた男を思い切り地面に床に落とした。すると、近くにいたちょいワルな学生数名が僕のところにやってきた。
「おっさん、おれたちも”おみこし“やりたいから手伝うわ!」
「ナイス!待ってましたあ!」
ちょいワルな学生数名と僕とで男を胴上げのように持ち上げ、ホームを挟んだ先の線路へ歩き出した。
「わーっしょい!わーっしょい!わーっしょい!」
周りの人たちやホームへ飛び出した乗客はみなポカンとした表情で僕たちを眺めていた。僕を刺した男もこの状況を理解できていないのか、声を出すこともジタバタすることもなかった。
そして、黄色い点字ブロックまで進んだところで思い切り男を線路へと放り投げた。
「おらあ!」
ドスンという大きな音がしたが男は動いているので、死んではいないようだ。
ここで、ようやく男が口を開いた。
「て、てめえ……何がしたいんだ……」
線路の上でなんとか動くともがいている男に僕は言ってやった。
「おれを刺し殺そうだなんて5億年早えーよバアァァァァカ!!!」
「え……?」
その場に居た人たち皆が、目が点になるという言葉を体現したかのような表情をしていた。
「お疲れぇぇぇっすwww犯罪者乙でぇぇぇぇぇっすwww」
「え…えぇ………??」
倍返しを通り越してもはやただの嫌がらせである。
そろそろ電車が出発しそうだったので、僕はその場を離れ何事もなかったかのように電車へと戻って行った。電車の窓を開けて、最後に男に向かって大声で
「さっさと捕まっとけよカース!」
と言い放ち、電車に乗り込んだ。
電車が動き出したタイミングで目が覚めた。時刻は6時半、場所は家の布団の中。よかった、どうやら夢だったみたいだ。
「よかった…夢でよかったぁ……」
夢で良かったと思ったと同時に、なんか申し訳ないことしたな…という気持ちが同時に込み上げてきた。出てきた電車といい駅名といい、妙にリアル怖かった。
もし今後これが正夢になったり、電車の中でこういう事件に巻き込まれてしまっても、普通に警察を呼んで法に則った然るべき措置を取ってもらうのが1番だなと考えながら、僕はまた布団へと潜り込んでいったのだった。




