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「トウラ」と名乗る人物からの電話は、記録しないでください  作者: ブルマ提督


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36/38

10/18 トウラ様が来てる

日付:10/18

担当:佐藤

内容:

備考欄;

今日一日、私だけで対応しています。

すべて、トウラ様からの電話です。

他の人は、今日の朝から見てません。


私以外、センターには誰もいません。

向こう側から名前を呼ばれても、誰か知りません。

気が付いたら責任者がいなくて、私以外のオペレーターもいなくて。

こんなに人がいなかったことはありません。

コールセンターは自転車操業で、今日来ていた人が次の日には退職していることがあります。

ですが、私以外がいないのは異常だと思います。


後ろに人の気配を感じます。

トウラ様が出てこられました。

まだ、実体ではないはずです。

人がいたはずです。業務日誌に残っている人たちは、私の同僚や上司だったのでしょう。


思い出しました。

情報システム部や総務部の人たちは、早めにいなくなりました。


中田さんは、怯えたようにセンターから出ました。今どこにいるかわかりません。


大久保さんは、気が付いたらいませんでした。


河合さんは、車を気にしていました。なぜかはわかりません。


相原さんは、寝不足だと話してました。ここ最近はよく眠れると話してくれていたはずです。


田中さんは、センターで一番の古株でした。いろんなことを知っていた長老のような人です。


高橋さんは、寿退社の予定でした。玉の輿と楽しそうに話していた様子が目に浮かびます。


上田さんは、引っ越しの予定が入っていたと話していました。ローンを組んで思い切って新築にしたと誇らしげに話してくれました。


内藤さんは、のんびりとした方です。何度もフォローに入っていただきました。


川原さんは、わかりやすい資料を作る人でした。何度も読んだ記憶があります。




上村SVは、しっかりとした人です。緩い話し方でしたが、芯のある方です。


仲間SVは、厳しい人です。自分を律して、責任を取ってくれる人です。


市川SVは、柔らかな話し方をする人です。引継ぎの際には、その声に励まされました。


井上SVは、部署が違うのであまり話すことはありません。ただ、オペレーターをよく見ているのか「体調どう?」と話しかけてくれます。


中口SVは、ひょうきんな人です。ただ、いつもふざけているわけではなく、空気を読んで励ましてくれたりもします。




周りには、だれもいません。

後ろに誰か立っている気配を感じます。

複数人のような気がします。

一人のような気がします。

コール音が鳴っています。

電話のコール音ではありません。

後ろから聞こえてきます。


取らない選択肢もあります。

ここから、どうやって逃げればいいんでしょうか。

私の名前は既に知られているかもしれない。

どうしたらいいでしょうか。

名前を言えば、楽になるんでしょうか。


業務マニュアルにもあったじゃないですか。フルネームを話すのは禁止と。

どこかで「トウラ様に委ねたほうが、いいのでは」という気持ちもあります。

怖いんです。

なぜ怖いかなんて、わかりません。

他の人の業務日誌を見ました。

彼らの悩みは、トウラ様が解決した。

私には悩みがないんです。


ずっとトウラ様が、私の名前を呼んでいます。

知ってはいるけれど、私の口から言わないとだめなのでしょう。


「佐藤いお……さん?でしたよね」


返事をしたらどうなるのでしょう。

返事をしたいです。トウラ様のもとに行けるなら。

帰りたいです。家に。


私に執着する理由もわかりました。

今までは電話です。声しかわからなかったからです。


出ようとしています。

形をとろうとしています。

私は、トウラ様の「形」に選ばれました。


私は、出られません。ごめんね。お父さん、お母さん。


どうしたら、よかったんでしょうか。


「佐藤いおさん」


わかりました。ありがとうございました。

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