表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛屍の臨界──それは「愛してる」が全ての理由になる世界  作者: 灯野ユヅル@GoodNovel契約作家
第6章 意志こそ武器。そして、武器は使い方
51/53

第6節 力の秩序──理の支配(下)

「このままじゃ、あなたたち、全員死ぬわよ」


「はっ? 脅しかよ?」



田所が鼻で笑う。



「いえ、警告よ」



真顔に戻り舌打ちする田所。返事はない。



「……この街はもう、理屈が通じない。力こそすべての世界になった。アタシたちはそう思って、ここまで来た」


「上等な世界じゃねぇか。俺の肌に合う。テメェは、その《世界》で生き残る自信があるって顔だな」


「ええ。だから言うの。あなたは強い。……でも、それだけじゃ守れないわ」



威圧しつつも落ち着いていた田所からブワッと怒気が漏れた。


低く凄む唸り声。



「は?」


噛みつかんばかりの圧。


「今、なんつった?」



心臓が高鳴る。美咲は揺れない。ヘルメットに覆われた後頭部を見る。


その表情は分からない。



「聞こえなかった? 言葉通りよ」



田所が鉄パイプを持ち上げる。


鉄パイプの先が床を摺り、ギャリッとわずかに鳴く。


それは明確な脅しだった。



「俺の方が弱いって言いてぇのか? この軟弱なお嬢ちゃんが」


「ええ。あなたは弱いわよ」



その一言で、空気が爆ぜた。


ガンッ。


田所の鉄パイプが床を叩く。硬質な音が静寂を裂く。



「……なんだとッ!!!」



瞬間、美咲の身体が沈む。


腰を落とし、盾を掲げて緩く槍を構えた。



合わせてカバーに入る。


美咲の盾に、盾を重ねるように一歩前に出た。



「彩葉、構えて」



美咲の短い指示。



流れに呆然としていた彩葉が直ぐに反応する。


担いでいた長槍を自然に下し、半身になって槍を構える。



「人を刺すのは、慣れたでしょう?」



彩葉が僅かに笑う音。



「……慣れたくて慣れたわけじゃないっすけどね」



三本の槍の穂先が揃って揺れる。


ピシピシと空気が引き締まる。



これが脅しで止まるか、血を見るか。


美咲の指示と判断を待つ。



三人と一人。


一瞬、怒気が殺気と均衡した。



張り詰めた静寂。


誰も動かない。どちらも動けない。



チチチという蛍光灯の音が、かすかに耳を打つ。


鉄パイプが少しだけ揺れて、田所の口角が歪んだ。



「ハッ! ハハッ!! 面白れぇ。面白れぇなァ。やるな、嬢ちゃん」



額の汗を拭いながら、鉄パイプを肩に担ぐ。


美咲だけを見て、田所が言う。



「……テメェの話、聞こうじゃねぇか」



美咲はその言葉を静かに受け止め、返した。



「あなたは強いわ」



田所がわずかに目を丸くする。



「その力の使い方を、教えてあげる」


「……あ?」


「アタシたちを、あなたの力で守りなさい」


「その代わり」



美咲の声が静かに落ちた。



「アタシが、全員で助かる方法を見つけてあげる」



田所が今度こそ目を丸くして美咲を見つめた。


鉄パイプを握る手がわずかに震える。



そこに宿る感情ははてさて。


美咲が何をくすぐったのか俺にはわからない。


だが、結果は出た。



「……チッ、なんだよ。面白れぇじゃねぇか」


「今までずっと、俺ァ、壊すしか能がねぇと思って生きてきたが……」


「嬢ちゃん」



田所が獰猛に笑う。



「その言い方、気に入ったぞ」



その笑顔は、待ちに待った試合に臨む闘犬のように、嬉しそうな笑顔だった。



「暴れていいってんなら、喜んで暴れてやるぜぇ!」



田所の喉から低い笑い声が漏れる。



「ククッ、守るためにか。いいじゃねぇか。乗ってやる」



鉄パイプを地面に叩きつける。


カァン、と金属音が夜に散った。



「その先に助かる可能性があるなら……言うことはねぇ」



一瞬、静寂。


田所の目が細くなる。



「……嘘じゃねぇだろうな?」



美咲はその視線を真正面から受け止めた。



「本気よ。アタシはこの地獄で、生き残る道を見つけている」



田所がニヤリと笑う。


その笑みは獰猛で、そしてどこか重い鎖を解き放ったような解放感もあった。



「クソ度胸だな、小娘が。ハハッ、こうもしてやられるとはなァ……面白ぇ」



鉄パイプを肩に担ぐ。



「わかったぜ、好きに仕切れ、ボス。ただし、俺が気に入らなきゃぶん殴ってやる」


「いいわよ。殴る暇なんて、与えないから」



彩葉が呆れたように息を吐く。



「マジでバケモンの会話っすね……」


「まぁ、でも、よろしくっす、おっちゃん」



力を抜いて盾と槍を下す。エース営業の交渉力は知っていたが、やれやれ、とんでもねぇ彼女様だよ。


俺はお疲れ様と美咲の肩を叩いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ