表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

可愛い彼女に、優しい世界を。

カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいた。


はて、今何時だろう。



隣では、美咲が静かに寝息を立てている。



こちらを向き、毛布が規則正しく動いている。



眉は凛として、まつ毛は長い。


普段は勝ち気に光る瞳は閉じられ、今だけは可愛らしさが見て取れる。


張りのある唇は柔らかく結ばれ、まるで守られるべき少女のようだ。



これは、目が覚めればすぐに消えてしまう《幻》。


その安らかな可愛さを、今だけは、壊したくなかった。



窓の外からは小鳥の鳴く声、信号待ちの車のエンジン音が聞こえてくる。


いつも通りだ。



──深夜の買い出しが悪夢だったみたいに。



暑苦しい《ツーマンセル》。


あれが一夜の笑い話になればいい。


いや、そうあってほしい。



祈るようにゆっくりスマホを手を伸ばす。



待ち受けには午前9時08分の文字。


6時間弱寝たことになる。



SNSで情報収集を始める。



──なん、だよ、これ。



現実は加速度的に悪化していた。



SNSのトレンドは昨夜の事件のニュース、暴力事件も入っている。


野球やテレビ番組の中に異物のように紛れ込んでいた。


渋滞、運休の文字もある。



都心ヤバすぎの投稿。



首都高で複数箇所の玉突き事故。全線通行止め。


都内の路線は始発こそ動いていたが、複数の列車で車内トラブルのため、一時停止。


今はまだ動いているが、断続的に列車が止まっている。



『山手線が動いては止まるを繰り返していてウケるwww』



──冗談じゃなかった。



列車が止まる。


犯人は暴れて、ケガ人が感染するならその人たちはどこに行く?


警察署と病院だ。ケガ人と暴徒の対応で電車が止まる。1箇所じゃない。


ポツポツそういう人がいるだけで、列車のダイヤは崩壊した。



──脆すぎる。



『梅雨なのに東京は大雪状態w』



幹線道路の渋滞情報を見る。


川越街道、不忍通り、明治通り・・・都心の太い道路が黄色、オレンジでベタ塗になっている。



赤ではないから、詰まってはいない。でも渋滞だ。



複数の玉突き事故と放置車両?


放置車両ってなんだ。道路上に車だけが置いてあるってことか。



──何故?



事故処理車も渋滞に巻き込まれてスタックしている報告がSNSのドライバー経由で上がっている。



『事故した人たちが乱闘中』



もう、動画を見る気にはならない。


見なくても分かる。《暴徒》と一般人だろう。



スクロールする指が止まっていた。


スマホの裏側がじんわり暖かい。



毛穴が開き、冷や汗が吹き出す。


朝から心臓がドキドキしている。



──何を怖がっている?



日常が崩れていく。


足元が沈み込んでいく感覚。



運休、渋滞、処理の追いつかない首都高と幹線道路。


そして、それらを埋め尽くす日常の投稿。



日常が侵食されていることが怖いのか。



いや、違う。



結末が分からないこと。



──これから、どうなる?



「ピーポーピーポー」


救急車のサイレンが近づいてくる。



そして、家の前の大通りを通りすぎ、音程を変えて走り去っていく。



「んぁ……」



美咲の目が開いている。


ぼんやりした無防備な美咲。



──愛おしい。



彼女が、この現実を知るまでは、せめて優しい世界に。



「おはよう、美咲」



そう思って、俺は彼女に優しく微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ