人を食べるゾンビをじっくり見たのは初めてだった。
【最新作公開記念更新】
『初夜から始まる異世界再生譚~サキュバスの《心》を掴むため、異世界で英雄になった元日本人の物語~』 (斉城ユヅル)
※「人生はやり直せない──でも、生き直せる!」という《癒しと再生の英雄譚》です。
【概要】
異世界で俺を救ったのは、誇り高きサキュバスだった。
《体》は重なれど、《心》は遠い。
嫌になるくらいシビアな異世界で、平凡な日本人が、愛を学び、生き直す物語。
是非、プロローグだけでもご一読くださいm(__)m
【リンク】
https://ncode.syosetu.com/n2373lh/
美咲について裏道を歩くことしばし。
下り坂の先、渋滞で詰まった大通りが見えてきた。
山手通りだ。
左手には黄色く光るショッピングセンターが遠くに見える。
坂の手前で立ち止まった美咲が壁沿いで手招く。
「彩葉、大通りはゾンビの溜まり場よ。車内に人間が残っている場合、その車を囲んでいることが多いわ。車体の下は警戒するけど、出てきても叫ばずに静かに駆け抜けること。倒れたら助けられないから」
「……了解っす」
「悟司は何度かやったしもういいわね」
美咲に頷きつつ、川越街道での一件を思い出す。
「あと、彩葉、車の中から呼びかけられても無視しろ。ゾンビに囲まれた車を助けることは不可能だ。見ない方が良い。中の人間と目が合うと後味が悪い」
「やけにリアルっすね。経験談っすか」
「そうだ」
「うへぇ……。そんなん体験済みとか、人間辞めたくなりません?」
確かに、その積み重ねが人間らしさを削り取っていった気がする。
「大通りで動き始めたら美咲の背中を追え」
先行した美咲が帰ってきた。
「交差点から通るわよ。首都高のせいで通れる場所が限られている。見たところ、状況は川越街道と同じ。静かに行けば通行できる」
先導する美咲の後を続く。4度目の大通りだった。
*
大通りでは声を掛けられることはなかった。
車に残ってゾンビに囲まれている車両が点在しているのは今まで通りだ。
山手通りを抜け、大山駅周辺の住宅街に入る。
碁盤目のような一通の道ばかりだ。
視線が通り、迂回が容易。遠くに人影があれば脇に避けられる。
見通しのいい十字路を覗き込み美咲が止まる。
──ゾンビよ
囁き声に壁際に集まる。静かに覗いてとの声に覗き込んだ。
*
数十メートル先、人間が倒れている。
その身体を囲んで立つのは3人の人影。
4人目は膝を付いて、喰らいついている。
腕か。抱えるように前腕を噛み千切っている。
距離がある。音はない。だが、見ているだけで、ブチッという音が聞こえてきそうだ。
立っているのは、それぞれ小柄な老人か子供、サラリーマン風の男性とバラバラだ。
倒れている人間は良く見えないが、ヒールを履いているのは見て取れた。
「……マジで喰ってるっすねぇ……人間が、人間を……ゾンビかぁ」
「ヒールじゃ、走れないっすよね……」
彩葉がブルリと震えている。
あぁ、何気に食べているゾンビを見たのは初めてか。
大通りでは車を囲んだ暴徒ゾンビだったしな。
「ゾンビは4体、進路上ではないから無視して直進できる」
ゾンビが4体。一気に来たら絶対に死ぬ。
だが、人が喰われている内なら気づかれずに進める。
「大通りでゾンビに見つかって、逃げてきたけどここで死んだって感じかしらね」
疲れ知らずのゾンビと鬼ごっこすればいずれは捕まる。
そして、息が切れて、クタクタになったまま喰われて死ぬ。
──嫌な話だ
「姿勢を低く、足音を立てずに、静かに横切りましょう」
美咲の後を追い、ひとまとまりになって横切る。
気づかれることなく通過し、街灯の光からズレた暗がりで詰めていた息を吐いた。
まだ大山駅すら先だ。練馬が遠い。
だが、どうにか。ゾンビと戦うことなく進めている。
いつ足を踏み外すか分からない綱渡りを、一歩ずつ着実に俺たちは進んでいた。
【最新作公開記念更新】
『初夜から始まる異世界再生譚~サキュバスの《心》を掴むため、異世界で英雄になった元日本人の物語~』 (斉城ユヅル)
※「人生はやり直せない──でも、生き直せる!」という《癒しと再生の英雄譚》です。
【概要】
異世界で俺を救ったのは、誇り高きサキュバスだった。
《体》は重なれど、《心》は遠い。
嫌になるくらいシビアな異世界で、平凡な日本人が、愛を学び、生き直す物語。
是非、プロローグだけでもご一読くださいm(__)m
【リンク】
https://ncode.syosetu.com/n2373lh/




