散らばったゾンビの種子を跨いで先を急ぐ。
コンビニ沿いの裏道を美咲が逸れ、車1台がようやく通れるような細い道に入っていく。
道が曲がっていて先が見通せない。
胸のドキドキが収まってきたとはいえ、汗でシャツが張り付いて気持ち悪かった。
彩葉はさっきから黙っている。
電灯も少ない細道、暗がりの中を無言で歩いた。
美咲が止まった。
「どうしたんっすか。あ、あれっすね」
後ろを見てから美咲の下へ。
細道の先、小柄な人間が倒れている。
背中の盛り上がり。独特の形状のリュック。
ランドセルか。
「あれ、生きていると思う?」
「寝ているゾンビを見たことはないが、無いとも言い切れないぞ」
細道を入ってしばらく歩いた。分かれ道はそれこそ人ひとり通れるだけ。
行き止まりになりそうで入りにくい。
「死体かどうか確かめる。離れて進みましょう。静かにね」
足音を立てないように慎重に近づいていく。
道路脇で倒れた少年の反対側。
距離は数メートル。
美咲が槍の穂先で小突いた。
「……うぅっ」
呻き声。
脚に噛み傷。まだ生きているが死にかけ。。。そんなところだ。
殺すのか?
「感染してるけど、まだ大丈夫そうね。進みましょう」
無駄に刺すと武器が消耗するか。
「いやぁ……さすがにこれは……。ゲームだったら絶対拾う展開っすよ」
「感染しているんだ。殺さずに済んでよかったじゃないか」
「やるせないっすね……」
呟きながらランドセルを見つめている彩葉。
その内、あの子はゾンビになる。そして、近くの人間を襲い始める。
だが、硬い頭部を破壊すれば武器が消耗する。
誰かをいずれ襲うとしても、今殺すために消耗するべきではない。
最も、死にかけの子どもをすすんで殺したい訳じゃない。
だから、良かったと彩葉に言ったのだ。
曲がり男の子が視界から消える。
死ねば起きるゾンビの種子が街中にばら撒かれている。
そして、その地雷を撤去できる人間がいない。
俺たちですら、あそこであの子を殺して、芽を摘むことをしなかった。
誰ならできるというのだ?
「でも、なんでひとりなんっすかね。親は?」
前を進む美咲は答えない。
背後を見てから俺が答える。
「親は死んでいるさ。命懸けで子どもを逃がした。子どもも噛まれてここで力尽きた。そういうことだろ」
もし近所の子なら家に帰る。街中で倒れたなら、この辺に住んでいる子どもじゃない。
大通りが渋滞で動かなくなっていることを踏まえれば、避難するために家族で移動して、親が死んで単身逃げてきた・・・ということになる。
「ま、いずれにせよ、出来ることなんて何もないさ」
「クソゲー乙っすね」
「細道を抜けるわよ」
その美咲の声に警戒を再開する。
太めの裏道に出るさらに左へ曲がっていく美咲。
彩葉が続き、俺も振り返りながら続いた。
男の子だったモノが追いかけてくる。
そんなイメージが浮かび、後ろを見ずにはいられなかった。
壊しておくべきだったか。そう思うが、流石に胸が重い。
無理だった。無理だっただろうと思い、足早に美咲の後を追った。




