再び、ゾンビの溢れた東京の夜へ、3人で。
全員が異様な戦士となった。壮観だ。
俺と美咲は血や肉片が付いていてなんとも壮絶だしな。
美咲が槍を立て、リビングのドアの前に立つ。
本当に様になっている。
「さて、行きましょう」
俺は頷く。彩葉は槍を抱えて、調子よく敬礼している。
「ゾンビの倒し方は分かったわ。側頭部、後頭部をフライパンで殴る。これが唯一通る攻撃。でも、突進してくるゾンビを考えれば、急所を殴れるとは思えない。アタシの結論は変わらない。ゾンビに出会えば死ぬ。だから、徹底的に回避するわよ」
「もしもっすよ、見つかったらどうするんすか?」
彩葉の切実な問い。俺も同じことを聞いた記憶がある。
現実は残酷だ。あまりにも難易度が高すぎる。
「もし見つかったら……突進を躱すか盾で逸らす。倒れた瞬間を殴り殺す。けど、それも上手くいく保証はない。だから一番のルールは《遭遇しないこと》」
彩葉が顔を引きつらせ、笑いに逃げる。
「攻略法を検証して、武装しても無理って、クソゲーっすね……最初の雑魚すら倒せない。しかも、毒持ちで掠れば即死。リセットなし。はは……笑えねぇ」
俺は口を挟んだ。
「ゾンビが現れたときは、素手のゾンビくらい勝てると思った。でも、実際に狂ったように突っ込んで来るアイツらを見て、さらに、人の頑丈さを知れば分かる。たった1体のゾンビを無傷で倒すことの難しさ。槍で人は殺せても、ゾンビを壊すのは別問題だ。その上で、無傷でやらねばゾンビの仲間入りという条件。……あまりにも不利すぎる」
美咲は視線を上げる。
「だから偵察しながら静かに進むの。足音ひとつも立てないで」
「うっす。出会えば死ぬ。回避必勝。ラジャっす」
彩葉の返答は軽口でも、声は硬かった。
家を出れば10分も経たずに死ぬかもしれないのだ。
死に方も・・・悲惨だしな。
まぁ、わざわざ彩葉に教えて怖がらせる必要もないから俺も美咲も説明はしていないが。
美咲を追って、リビングを出る。
玄関前に立った、美咲が振り返り、宣言した。
「生き残るわよ!」
美咲が俺に頷き、彩葉に告げる。
「外に出たら指示に従うこと。『殺せ』も『刺せ』も、ためらわずにね」
ゴーグルの下で、彩葉の手が白く槍を握っていた。震えはない。だが声は明るい。
「リアルRPGっすね。人間もゾンビも、全部経験値に変えてやるっすよ」
「チュートリアルはもう終わらせたんで」という軽口に、思わず気が抜けた。
美咲もやれやれと頭を振って前を向いた。
「行きましょ」
「あぁ、生き抜こう」
「冒険が始まるっす!」
「締まらねぇな」と彩葉のノリにため息を一つ。
だが、重苦しく辛い道のりが、彩葉のおかげで軽くなりそうでもあった。
未知の恐怖はもう感じない。
出会えば死ぬと分かれば、覚悟もできる。
知ってしまった現実の重みを背負い、それでも進むという決意と共に。
3人目の戦士を加えて、俺たちは、夜の東京へと歩き出す。
第4章 間に合った男──やる時はやる男 完結
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第5章 ゾンビを殺して──敗北を知る
は明日より毎日更新予定です(*´ω`*)




