表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/42

異様な戦士。俺には、もう、日本人には見えなかった。

日が落ち、夜が来た。


装備を整え、部屋の中央に立った美咲を見て、俺は首を振った。



──なんだこの異様さは



全身が黒い。


頭部には原付ヘルメット、そのバイザーが蛍光灯を反射して不気味に光っている。


首周りにはタオルが幾重にも巻かれ、マフラーのように喉を守り、皮膚の露出は一切ない。



その下、襟だけを残して切り落としたピーコートの布が、肩から手先にかけて固く覆っていた。


黒いTシャツとジャージは通気性の良い素材で、胴と脚を軽やかに締めている。


肩周りだけは異様に厚みを増し、一見して鎧武者のようだった。



背中には大きなリュックを背負っている。


中には水や食料、応急道具。


だが同時に、その厚みは背骨を守る簡易な装甲にもなっていた。



振り下ろされる打撃も、後ろからの噛みつきも、まずはこのリュックが受け止めるだろう。



右手に握るのはガムテープで固く補強された棒。


先端にはビニール袋が被せられ、遠目にはラクロスのスティックに見える。



だが、その中に隠されているのは鋭利な包丁。


突き出せば、薄いビニールを突き破り、肉を裂く即死の一撃となる。



左手は開いているが、金属製の丸い蓋を改造した盾を構える予定だ。


盾を持っていると考え構えている。



ヘルメット越しの眼光は、真っすぐ俺を見据えている。



──見るからに怪しい



だが、コイツと戦うと思い浮かべた瞬間、その意味が理解できた。


噛みつかれそうな頭、首、肩、腕、手先まですべてが固く覆われている。


鈍器で殴りかかられても、必ず防具が衝撃を受け止める。



盾を構えた状態で右手の槍が突き出されれば、覗くのは僅かなヘルメットのバイザーだけ。



そして背後には、守備と荷運びを兼ねたリュックが壁のように張り付いている。


素手で相対したら絶望しかない。



美咲も同じことを思ったらしい。



「アンタ、凄い恰好ね。正直、どう戦っても勝てない気がするわ。武器がないと。でも、盾があったらバットを持っても不利ね」



美咲と動きを合わせてみる。


盾とは本当に邪魔だ。



バットを振る。盾で逸らされる。


お互い一手。



バットは振り切られて使えないのに、美咲の槍が俺の腹部を刺す。


美咲だけが二手動ける。



槍と盾。



古代の人類の最適解。


身体で意味を理解する。



そんな戦士が2名、8畳のワンルームで槍を構えて向き合っていた。



美咲が槍を掲げる。


俺も手槍を掲げる。



カンッと打ち鳴らした。



「生き抜く」



言葉はない。玄関に向かう。


昨日家に帰ったのが18時半。



まだ25時間しかたっていない。



もう、笑う気にもならない。


あの日々は終わったのだ。



後ろを振り返る。


バイザーを上げた美咲が頷いた。



「行こう」



彼女に微笑んで、鍵に手をかける。



──カチリ。



金属音を響かせて鍵が回った。


その音が平和で幸せだったこの部屋の最後の贈り物だった。

【第2章 犯罪者の成れ果て、或いは、異様な戦士】 完結


次章、彩葉を救うため、外に出ます。ゾンビがいる世界の外歩きをお楽しみください。


明日から第3章更新。


感想、ブクマ、評価、心よりお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ