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第2章 プロローグ 甘い匂いと柔らかな熱と俺の死。
第2章 犯罪者の成れ果て、或いは、異様な戦士
──首筋を噛まれた。
皮膚に食い込む鋭く硬い歯の感触がやけに生々しい。
背中と胴体に回った腕が俺の身体を拘束する。
肩口に絡みつく細い指。必死にしがみ付いて離れない。
爪が布越しに食い込み、痛みを訴えている。
胸に押し当てられる身体は熱い。
柔らかさと汗ばみが混ざった温度。
だが、胴体に回された腕は固く、逃げ場を与えない。
目だけ動かして美咲を見る。
髪が頬を掠めた。
セミロングの髪──光を受けて黒に近い茶色。
汗とシャンプーの匂いが混じった甘さが、呼吸のたびに肺に侵入してくる。
艶めく毛先が唇に触れ、ざらつく。
肩から首筋を圧迫する重さ。
歯の硬さと、熱い液体が皮膚に広がっていく感覚。
圧迫感は痛みよりも、なぜか安堵に似ていた。
──これで死ぬ
目の前にいるのは、美咲。
その甘い匂いと、柔らかな抱擁に包まれながら。
美咲に噛まれ、抱かれ、死んでいくのだと理解した。