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一般男子高校生が魔法少女になって魔物を倒す日常  作者: 大崎 狂花


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第十三話 瑠璃とアンチ(?)の子供②

困惑する瑠璃に向かって、そのおもちゃの剣を瑠璃に向けた女の子は言った。


「やっと見つけたわ!あなた、魔法少女ラピスでしょ!?」


(んー、バレたか)


瑠璃は表面上は平静を装いつつ、内心では少し焦りながらそう思った。


前にも言った通り、魔法少女時の外見と今の瑠璃の容姿が離れていればいるほど、認識阻害魔法はかかりやすくなる。だから魔法少女時と外見がほぼ同じで、服だけ変えた状態の今はけっこう人に見破られやすかったりするのである。特に最近、『魔法少女ラピス』のことを強い関心を持って眺めたことのある人間には見破られやすいのだ。


瑠璃は相手の目的がよくわからなかったので、とりあえずとぼけることにした。


「いや?違うけど・・・・・・」


「嘘ね!なんかぼやっとしてわかりづらいけど、あなたは魔法少女ラピスで間違いないわ!私の勘が告げてるの!」


しかし、この子供、瑠璃の惚けにも動揺せずに自分の直感を信じて断言してくる。まっすぐな子供だ。


(あっ、マズい)


大声でお前は魔法少女ラピスだ!なんて言ってくるもんだから、周りの人間がちょっとざわつき始めている。


仕方ない。瑠璃はとりあえずこの場を切り抜けるために認めてしまうことにした。


「・・・・・・うんそうだよ。私は魔法少女ラピスだよ」


「やっぱり!!」


「うんうん。私は魔法少女ラピスだからね。今日はどんな用事で話しかけてくれたのかな?」


「魔法少女ラピス!!私と勝負しなさい!!」


女の子は瑠璃に剣を向けてこう言い放った。


(そうきたか・・・・・・)


「あの・・・・・・お名前は何ていうのかな?」


「私は桜!桃色桜よ!」


「桜ちゃんかあー」


瑠璃はポケットから飴を取り出すと桜ちゃんへこう言った。


「・・・・・・飴ちゃんあげるから勘弁してくれないかな?」


「・・・・・・何味?」


「レモン味」


「ダメ!私と勝負しなさい!」


(いちご味とかにしとけば良かったかな・・・・・・)



瑠璃はとりあえずその桜ちゃんの話を聞くことにした。その場ではアレなので、ちょっと進んだところにあった街の広場のところに移動した。その広場には噴水があって、その前にはベンチがあったから瑠璃はそこへ座った。桜ちゃんは立ったまま、ベンチに座る瑠璃の前に仁王立ちして話を進めた。


「何を隠そう、私はね!あのヒート山本様のファンなのよ!」


「あー」


瑠璃はそれで合点がいった。瑠璃はこれまでも、依頼で一緒になった男性セカンドのファンや、同じように免許更新試験で破った相手のファンに待ち伏せなどをされることがあったからだ。だから、今回もそういうケースだったか、と納得したのだ。


しかし、それにしたって・・・・・・。


「こんな小さな女の子に待ち伏せされたのは初めてだなあ」


「何よその言い方。あんただって小さな女の子じゃないの。私と同い年くらい?」


「いや、私は魔法少女だからさ、見た目通りの年齢じゃないんだよ」


「そうなの?じゃああんたあれ?ろりばばあってやつ?」


「最近の子はどこでそんな言葉を憶えてくるのかな・・・・・・いや、私はロリババアじゃないよ。私なんかがロリババア名乗ったらプロの人たちに怒られちゃうよ」


「そうなの?へー、ろりばばあのプロなんているんだ」


「そういうプロは怖いから気をつけた方がいいよ」


「と、に、か、く!」


桜は瑠璃におもちゃの剣を向けて言った。


「私、納得いってないのよ!!あんたみたいな、身長も私と変わらないような子があの山本様に勝つのはどう考えてもおかしいの!!」


「そう言われてもなあ・・・・・・」


「私、あんたのこと調べたから知ってるのよ!ドラゴンを倒したらしいけど、あんた逃げ回りながらちまちま攻撃を当てて、それでようやく勝てたって話じゃない!そんなのがあの山本様に勝てるわけないわ!いつでも敵の攻撃を正面から受け止める、正々堂々のあの山本様に!何か卑怯な手を使って勝ったに違いなーい!!」


「まあ、確かに卑怯な手は使ったね」


「ほらやっぱり!正々堂々からは程遠い戦い方をするって有名だし!逃げ上手の魔法少女って二つ名もあるくらいだしね!」


「そんな若君みたいな二つ名付けられてたんだ私・・・・・・」


「私と戦いなさい!私が正々堂々、卑怯な作戦ごと打ち破ってあげるから」


「それはまずい。チョコレートくれるから勘弁してくれない?」


「何味?」


「いちご味」


「くっ・・・・・・ちょっと見せてみなさい」


「はい」


「・・・・・・何これ?」


「うんち型いちごチョコ。面白いでしょ?」


「いらない」


「あれ?小学生はうんちが好きって聞いたんだけどな・・・・・・」


「それどこ情報?」


と、瑠璃と桜がそんなふうに話していたところ、ふいに声をかけられた。


「おい!どけよそこのガキ!」


瑠璃と桜が声のした方へ振り向くとそこには5人のガラの悪い男たちが2人を見下ろしていた。


「な、何よ・・・・・・なんなのよあんたたち!」


桜はキッとその男どもを睨みつけた。瑠璃は立ち上がって、それとなく桜とその男たちの間へ入って庇うようにした。


「何って・・・・・・だからどけっつってんだよガキが!そのベンチは俺たち専用のベンチなんだよ!」


「・・・・・・ここのベンチは公共のもので、一個人が占有できるものではないはずだけど?」


「うるせえ!俺らはここのベンチに座るのが幸せなんだよ!5人で座ってギチギチになるのが俺らの幸せなんだ!」


「なんだそれ」


「とにかくどけ!それは俺らのもんなんだよ!」


男たちは容易には引かなそうである。桜は、瑠璃の後ろから囁いた。


「ね、ね、ぶっ飛ばしちゃいなさいよ。明らかにドラゴンより弱い奴らじゃない」


「そういうわけにはいかないよ。この人たちはまだ何も罪を犯してないんだ。手を出すわけにはいかないな」


「じゃあどうするのよ!」


「任せてほしい。私がなんとかする」


瑠璃は一歩前に進み出ると、その男たちのリーダー格と思しき茶髪の男へ向かって


「うんち型いちごチョコあげるから、勘弁してくれない?」


スッとうんち型チョコを差し出した。


「だからもういいわよそれは!!そんなので喜ぶ人なんているわけないでしょー!?」


「なんだそれ・・・・・・なんかちょっと心惹かれるな」


「・・・・・・あれ?」


男たちは普通に興味を示してきた。


「ちょ待って!ちょっと相談させて!」


男たちは一旦タイム!と、顔を突き合わせて色々と相談し始めた。


「ええ・・・・・・」


予想外の展開に桜が困惑していると、前に出ていた瑠璃が振り返って、サムズアップしながらウインクしてきた。


「・・・・・・なっ?」


「なんかムカつくからやめてそれ」


と、事態が丸く収まりそうになっていたところ・・・・・・


「魔物だ!魔物が出たぞおー!!」


不意に平和を破るそんな声が聞こえてきた。


「・・・・・・!」


「ま、魔物!?」


「桜、下がりなさい」。そこの男たちも


瑠璃は桜と男たちに言って、その声のした方を見れば、そこには棍棒を持った緑色の肌の一つ目の巨人がいて、ズシン、ズシン・・・・・・と地響きを立てながらこの広場へ向かってきているのが見えた。


「サイクロプスか・・・・・・」


もう魔物が出なければいいと思っていたが、こちらの期待は叶わないもの。出てきてしまったようだ。サイクロプスはB級、もしくはA級に分類されることもあるような魔物だ。未だあのイノシシから受けたダメージが癒えておらず、激しい動きが少しキツい瑠璃にとっては難しい相手だ。


瑠璃は噴水の水で三匹ほど、鳥を作り出した。


「うわっ、と、鳥!?」


「桜、お前まだいたのか。男たちも・・・・・・とっとと逃げろ」


瑠璃はそう言ってから、それをサイクロプスのところへ飛ばした。


この鳥にサイクロプスを攻撃させて、サイクロプスが反撃しようとすれば避ける。それを繰り返させれば、サイクロプスは鳥を倒そうと躍起になってその場に釘付けになる。


こうすれば他の人間や建物から奴の意識が逸れて、被害が少なくなるだろう。そして瑠璃は水を凍らせて円盤状にし、氷の足場を作るとそこに乗った。この円盤を操って移動すれば、イノシシのダメージが残ってて普段通りのパフォーマンスを発揮できない体でも万が一の時に動くことが出来る。


とりあえずの対処はこれでいい。瑠璃はスマホを取り出し、セカンド事務所に電話をかけた。


・・・・・・


「・・・・・・よし。援軍は来てくれるみたいだな」


さっきとは違って今は手の空いているセカンドもいて、援軍が来てくれるみたいである。ただし、流石にすぐにとはいかない。


「それまでは、この水の鳥作戦で奴の足止めだな・・・・・・」


「援軍来てくれるのね!良かった!」


「・・・・・・桜、逃げろって言ったろ。なんでまだいるんだ」


「私は逃げないわよ!私にも手伝わせなさい!!」


「桜、ダメだ。逃げなさい」


「で、でも・・・・・・!」


桜はなおも食い下がろうとした。しかし、瑠璃はそんな桜に向かってすげなく言った。


「逃げなさい」


さっきまでとは瑠璃の雰囲気が違っていた。その雰囲気に気圧されて、桜はさらに食い下がるのをためらってしまい、後ろ髪を引かれるような顔をしながらも瑠璃の言う通り素直に逃げた。


「お前らも早く逃げろ」


「あ、ああ!」


男たちも桜も逃げたのを確認すると瑠璃は円盤を操作して、サイクロプスの方へ行った。サイクロプスは瑠璃たちが座っていたベンチの、ちょうど反対側にある道から来ていた。


「さて。あの巨人、こちらの期待通りにあの水鳥に気を取られててくれればいいんだが・・・・・・」


・・・・・・・


しばらく、その巨人は水鳥の攻撃しては逃げ、攻撃しては逃げの動きにイライラして、こちらの狙い通りに気を取られてくれていた。街の人たちはそのうちに大体非難が終わり、建物はともかく人的被害は、いくらか怪我した人はいたものの軽微で済みそうだった。


「できれば援軍が到着するまでこのまま何事もなく・・・・・・」


瑠璃は思わずそう呟く。


しかし、そうは問屋が卸さない。


「!」


急に、サイクロプスはクワッと目を見開いた。他の人にはわからないだろうが、瑠璃にはわかった。そのサイクロプスの目に魔力が集まっているのを。


「っ、マズい!!私が術者だってバレた!!」


そう、奴は邪魔な水の鳥が魔力を帯びていることに気づき、それが魔法によって操られているものであることを見抜いたのである。


そして、その魔力が誰に繋がっているかを『見た』のである。


それに気づいたサイクロプスは、その水鳥を捕まえようとするのをやめると、まるでボールでも蹴るみたいに足を上げた。


そして、その足元に魔力を収縮させ始めた。


「マズい!あいつ魔力弾を蹴るつもりだ!サッカーボールみたいに!!」


魔力弾はこちらへ向かってまっすぐに飛んでくるだろう。瑠璃は避けなきゃ、とそう思った。しかし─────。


ふと気づいて、瑠璃は振り向いた。そこには・・・・・・。


「クソッ!このベンチ動かねえぞ!!」


ベンチを動かそうとしているあの男たちがいた。


男たちは一旦逃げたものの、このベンチがサイクロプスによって壊されてしまうのではないかと心配になって戻ってきてしまったのである。


「クソッ!あいつらどんだけあのベンチに執着してんだよ!!」


これで瑠璃は避けるわけにはいかなくなった。


瑠璃が避ければあの巨人が蹴った魔力弾は一瞬で噴水など壊し、突き抜けてその先の男たちに致命的なダメージを・・・・・・いや、男たちを即死させるだろう。


「くっ・・・・・・そがっ!!」


瑠璃は何があっても吹っ飛ばされず受け止め切れるように、氷で足を固定し、そして自分の後ろに氷の壁を作ったあとに、瑠璃の前にも十数枚ほどの氷の壁を並べた。


「ガアッ!!!」


巨人は魔力弾を蹴る。


その魔力弾はやや威力を減衰させながらも瑠璃の前にあった十数枚の氷の壁を砕いていき、そして─────


「がはあッ・・・・・・」


完全に瑠璃に衝突した。その魔力弾は、やや威力を減衰させながらも、瑠璃に重篤なるダメージを与えたのだった。



ようやく援軍が到着したことで、瑠璃は運び出された。瑠璃はなんとか魔力弾を受け止めて男たちを死なせなかったが、そのせいで自分はかなりのダメージを受けてしまった。


担架で運び出される瑠璃に、桜が駆け寄った。


「何を・・・・・何をしてんのよあんたは!!」


「・・・・・・あ、ああ、桜か・・・・・・お前も無事だったんだな。良かった・・・・・・」


「無事だったんだなじゃないわよ!!」


桜は、あれから避難所に戻ってきていた男たちに話を聞いて事情を知っていた。


「あんな、あんな奴らを庇うために大怪我を負うなんて・・・・・・ばかみたい・・・・・・あいつらなんて、放っておけば良かったのに・・・・・・」


目に涙を浮かべながらそう言う桜に、瑠璃は掠れた声で言った。


「そんな・・・・・・そんなわけにはいかないよ。子供を脅す、危険な場所にまた戻ってくるような馬鹿どもだって・・・・・・死ねば、悲しむ奴らがいるんだ」


瑠璃は、桜の目を見て言った。


「私はね、確かに逃げるのは得意だよ。正々堂々戦うよりも、逃げ回って戦うことがほとんどだ・・・・・・でもね。私は人を護るという役目から逃げたことはないんだよ」


瑠璃はそれだけ言うと、口を閉じ、目を瞑った。担架はそのまま救急車へと運び込まれた。桜はその救急車をいつまでも見送っていた。



さて、病院にて。


瑠璃はあらかじめ幼女状態になっていた。やがて、言われた時間通りにコンコンと病室の扉が叩かれた。


「どうぞ」


瑠璃がそういうと、病室のドアが開かれて瑠璃と同じくらいの背丈の女の子、桜が入ってきた。


「・・・・・・けっこう元気そうね」


桜がそういうと、瑠璃は笑いながら答える。


「まあね。これでも魔法少女だし」


桜は瑠璃のベッドのそばにある椅子に腰掛け、瑠璃と話し出した。


「あいつら、来たの?」


「ああ来たよ。これからは人に迷惑をかけないように生きるって。謝ってたよ」


「ふん、当然ね」


桜はそう言ったあとしばらく黙った。他の患者たちや見舞い客の話し声が聞こえた。瑠璃は微笑みながら桜を見ていた。


桜は瑠璃の方を見なかったが、こう切り出した。


「私ね、セカンドになるのが夢なの」


「そうか」


「セカンドになって、山本様みたいに人を助けられる素敵な人になるのが夢なのよ」


「なるほど。いい夢だな」


「その夢に!」


桜は頬を赤らめ、瑠璃のことを指差した。


「あんたみたいな、ってのも一応付け足しておくわ。魔法少女ラピスみたいに人を護れるような、っていうのもね」


瑠璃は一瞬きょとんとしたが、それから笑って言った。


「うん!がんばれ!」

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