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一般男子高校生が魔法少女になって魔物を倒す日常  作者: 大崎 狂花


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第十一話 免許更新②

『待機』


『楽しみだなー』


『今日の免許更新誰?』


『魔法少女ラピスらしいぞ』


もうすぐ免許更新の実技試験が始まる。ペーパーテストの方は先ほど終わって、次はいよいよ実技、セカンドにとって一番大切な戦闘能力を測る試験である。


瑠璃も試験官も今はまだいなくて、ライブ映像には無人の闘技場が映っていた。


セカンドの試験は、初めての免許取得のための試験も免許更新試験もいろんな動画配信サービス等で配信されるのである。これは不正防止という意味合いもあるし、その収益をセカンドの会社運営に役立てるためということもある。


とある動画配信サービスでは、視聴者のコメントが流れていた。


『マジで!?ラピスちゃんなの今日!?』


『うわーめちゃくちゃ楽しみ!!』


『待機』


『全裸待機』


爆速でコメントが流れていく。瑠璃はかなり人気なのだ。同接数もけっこう回っていた。SNSには瑠璃のグッズであるアクリルスタンドと一緒にライブ配信を見ている写真をあげている人なんかもいて、その人気の高さが窺えた。子供と一緒に見ている人なんかもいた。もちろん、その子供は瑠璃が持ってる魔法少女ステッキのレプリカのおもちゃを握りしめていた。


・・・・・・・で、そんなことは梅雨知らず、瑠璃は闘技場入り口の側にある待機室で色々と考え事をしながら待っていた。


瑠璃は渡された紙を見る。そこには試験の開始時刻と、担当試験官が書かれていた。


(俺の担当試験官は・・・・・・っと。あー、山本さんかあ。やっぱりなあ)


瑠璃は待機室のベンチに座ってそんなことを思っていた。


試験官の山本さんというのは、現役でB級のセカンドをやっている人で、ある特殊な能力で有名な人だった。


(確か山本さんの能力って・・・・・・熱、だったよな)


山本さんの能力は、触れた物体の熱を上げる能力だ。山本さんはその能力を利用して武器として使う双剣を熱し、どんなに硬い外皮を持つ魔物も焼き斬ることが出来る、というので有名なのだ。


明らかに、水・氷属性魔法使いの瑠璃とは相性が悪い。ただ、これはあえてそういうセッティングがなされているのだ。自分が苦手とする敵でもちゃんと対応出来るかどうか、というのが見られているのだ。


(山本さんはプロのセカンド。あの時のナンパ通り魔みたいにはいかないだろうなあ・・・・・・・)


瑠璃は少し前に遭遇した例の男のことを思い出していた。あいつは炎の使い手で、まさしく天敵という感じだったが、今回はそうではなく、能力的には炎系能力者よりもつけ入る隙がありそうに見える。


しかし、それは錯覚だ。相手は一流のセカンドとして今も第一線で活躍してるわけだし、対人での戦闘経験も豊富だ。素人で馬鹿だったナンパ通り魔野郎とは雲泥の差があるのである。


しかし・・・・・・


(だがしかし、人は成長する生き物だ。あのナンパ通り魔野郎との戦いでさらに洗練された俺の苦手能力者への対応作戦を見せてやろう)


瑠璃は控え室に置いてあった水を飲み干し、目を瞑って試験のための精神統一をした。


ちなみに、瑠璃が今水を飲み干したのは保健のためである。いざという時、武器にする水が足りなくなった時は胃の中にある水を利用するつもりなのである。


さて、そうしてしばらく瑠璃が精神統一をしながら待っていると、やがて控え室の扉がノックされ担当の職員が入ってきた。


「魔法少女ラピス様、時間です」


「わかりました」


瑠璃は手に持っていたプリントを置いて立ち上がる。もう変身は済ませていた。瑠璃はステッキを持ちながら控え室を出て歩いていく。腰には、姉である緑鏡花に『拡張』してもらったポーチが2つついていた。


瑠璃が入り口から闘技場へと出ていく。歓声はない。が、動画配信サービスのコメント欄は超爆速で動いていた。


『キタキタキタキタ!!』


『かわいい』


『かわいい』


『かわいいー!!』


『ラピスちゃん可愛くてかっこいいからすき』


『今日はどんな戦いを見せてくれるんだろう?わくわく』


『あれ?試験官ってヒート山本じゃないか?』


『ほんとだ。ラピスちゃん大丈夫かな・・・・・・?』


瑠璃は試験官と対峙する。ヒート山本。売れない芸人みたいな名前のB級セカンドである。ただ、その変な名前とは裏腹に見た目は普通の、眼鏡をかけた優しそうな好青年といった感じで、『試験官』という役職が似合う見た目をしていた。腰には2本、両刃の西洋剣を差している。この2本の剣の温度を上げ、それを武器にして戦うのだ。


瑠璃はその試験官の前に立った。試験官は、クイっと眼鏡の位置を直し、瑠璃にこう問いかけた。


「さて・・・・・・ラピスさん。これから免許更新のための試験をするわけなんですが・・・・・・・C級相当の力で戦った方がいいですか?それとも、B級セカンドとして・・・・・・全力で戦った方がいいですか?」


瑠璃は間を置かずに即答した。


「全力でお願いします」


「わかりました。では、もし落ちたとしても恨まないでくださいね」


さて、試合前のやりとりも終わって、2人の間に立った審判が声を発した。


「それでは、試合前にもう一度ルールの確認をします」


免許更新実技試験のルール。


一つ目。持ち込める武器は登録した物のみ。ただ、登録した物であればなんでも武器として持ち込める。


この場合、瑠璃が登録した武器は今右手に持っている魔法のステッキと水だ。今ポーチに入っている水も、胃の中に入っている水もちゃんと登録してある。だから反則負けということにはならない。武器を入れるための入れ物もセーフなので問題ない。魔法のステッキと水と・・・・・・実はあと一つ、武器として登録してある物があるのだが、それは後述することにする。


二つ目、試験官が気絶したら受験者は合格。逆に気絶させられたら不合格。または受験者の『武器』を試験官の首筋か心臓の辺りに突きつけることが出来たら合格。逆になれば不合格。


ざっくりいえば大体こんな感じだ。細かいルールはまだ色々とあるが、それは別に知らなくてもいいだろう。とりあえず、これだけ知っていれば支障はない。


「・・・・・・以上、説明終わりです!それでは2人とも、準備はいいですか?」


審判は2人の顔を交互に見て確認をする。2人とも頷いて答えた。2人とも準備はOKだ。


「それでは歩み寄って・・・・・・2人とも、礼!」


2人は互いに礼をした。審判は2人の間に右手を入れる。


「それではいいですか!?よーい・・・・・・始め!!」


試験が始まった。


『うおおおおおお!!はじまった!!』


『ラピスちゃん、今回はどんな戦いを見せてくれるんだろ』


『魔法少女ラピス、あのヒート山本相手にどう攻めるんだ?』


『戦闘モードのラピスちゃん、キリッてしててかっこかわいい・・・・・・』


「悪いですが、速攻で行きますよ」


瑠璃は魔法少女ステッキを山本へ向けて宣言する。すると2つのポーチの中から大量の水が出てきて、空中を流れると瑠璃の頭上に巨大な水の塊となって集まった。


「これは・・・・・・すごいな」


試験官山本は目を細めてそう呟くと、腰に差した二振りの剣を抜き、その温度を上げていく。一気に2本の剣は熱くなって、刃の部分は熱を帯びて赤くなる。鉄が溶けるギリギリの温度まで上げると止めた。


これで双方の準備は整った。次に動いたのは瑠璃だ。言葉通り速攻で決めるつもりらしかった。


「『氷葬陣』」


瑠璃の呟きとともに、大量の水は大量の氷のナイフへと瞬時に変化し、そしてこれもまた瞬時に、試験官の周りを囲んだのだった。


「これは・・・・・・!?」


「山本さんの武器は2本の剣。たった2本でこの何百本あるかわからない氷のナイフをどうにか出来るわけがないです。山本さんが温度を上げることが出来るのはその手で触れた物だけですし、これで山本さんに打つ手はもうなくなったでしょう。この囲みを破ることは無理です」


「・・・・・・素晴らしい。ナイフを作り出して、それを私の周りに展開させるまでが素早かった。私が反応する間もないほどにね。流石という他ないだろう」


瑠璃を褒めながら、山本は考えていた。


(・・・・・・少しマズいことになったかな。これは私の力で突破することは難しそうだ。けど、ここで確実にわかることがある。・・・・・・ラピスくんは、確か対苦手属性対処用に、騙し討ちのための水晶製のナイフを持っていた。だけど、それには弱点があった。それは、その水晶製のナイフは操れないということだ)


瑠璃の魔法は水・氷魔法。水や氷を操ることなら出来るが、他の物、水晶製のナイフなんかは操れないのである。だから、あの時も瑠璃は水晶製のナイフも氷のナイフも手で投げていた。馬鹿な通り魔ナンパ野郎は気づかなかったが、山本ほどの戦闘プロなら当然見抜いてしまうのである。山本は、瑠璃から水晶製ナイフの作戦を聞いた時に、すでにその弱点について気づいていた。


(だから今、私の周りに浮いているナイフは全て氷のナイフ!ならこのナイフは全て私の剣で溶かすことが出来る!)


山本は瞬時に戦闘中に思考し、こう結論づけると、瑠璃へ向かって言った。


「ふ、ふふふ・・・・・・残念だったね、ラピスくん。私は伊達にB級セカンドをやっているわけではないんだ。この程度で勝ったと思わないことだね」


「・・・・・・?」


「私の持つ武器は剣が二振り。しかし私にはその剣を無数に増やすことだって出来るんだよ」


山本はそう言って二振りの剣を構えると・・・・・・それを目にも止まらぬ速さで振り下ろしナイフを次々と溶かし落とし始めた。


「な・・・・・・!」


振り下ろす剣は、速すぎて残像が見え、剣が何十何百にも分裂して山本の周りにあるように見える。


「これが私の奥義・・・・・・!『熱剣舞結界』さ!」


『あ、あいつまさかあの大量のナイフを全部打ち落とすつもりか・・・・・・!?』


『そんな脳筋な・・・・・・』


『いやでもすごい速さだぞ!?剣が無数に分裂したみたいに見える!!』


『あれをかいくぐってナイフを当てることが出来るのか!?』


『頑張れラピスちゃん!がんばれー!!』


瑠璃は次々と溶かし落とされていくナイフを見て焦っていた。ナイフを操ってどうにか隙を見て死角からナイフを首筋や心臓の辺りへ突きつけようとするのだが、山本はそれをすぐに見つけて的確に落としていく。回転しながらそうしていくので、背中から狙うということもなかなか出来ない。


(クソッ、まさか魔法に物理で対抗するとはね・・・・・・ファンタジー世界の住人じゃないんだから、そんな超人的なことは勘弁して欲しいぜ)


しかし、瑠璃は少し焦りを感じながらも、余裕があった。それは、目の前の山本がまだ『あのこと』に気づいていないという確信があったからであった。瑠璃はほくそ笑んだ。


(だが、山本さんはあのことに気づいていない・・・・・・そのことが命取りになる。確実に)


一方、山本は勝利を確信していた。


(これは私の勝利かな?まあ仕方ないか。次の時に合格してもらおう)


と、無数にあるナイフの内の一つに剣を当てた時だった。


「なっ・・・・・・!?」


山本は驚いた。溶けなかった。そう、それは溶けなかったのだ。そのナイフは溶けなかった。


ありえなかった。これは確かに空中に浮かび、そして山本の方に飛んできた。つまり操作できているのだ。それなのに─────溶けなかった。


山本は驚いて一瞬固まった。それが命取りだった。その隙を見逃す瑠璃ではない。すぐさまナイフは山本の剣を掻い潜って飛んでいき─────山本の首筋に突きつけられた。ちょうど頸動脈の辺りである。


(山本さん、人間は成長するものなんですよ)


そう、瑠璃は自分の作戦の弱点に気づいていた。水晶製ナイフは操れないという、その弱点に。あの炎野郎は馬鹿だから気づかなかったが、相手がもし馬鹿ではなく戦闘のプロだったらどうだ?瑠璃は自分の弱点に薄々気づいていながら、深く考えずに放置していたのだ。今回は良かったが、次にそういうプロと戦うことになったらどうするんだ。瑠璃は自分の見通しの甘さを反省した。


だから、水晶製ナイフを操る方法を考えた。そして、発明したのである。


(水晶製ナイフの内部に空洞を作って、そこに水を封入できるようにすれば、その内部の水を操ることで間接的に水晶製ナイフをも操ることが出来る。人は弱点を克服し、成長するものなんだ・・・・・・まあ、口に出しては言わないけどね。企業秘密だから)


瑠璃はチラッと審判の方を見た。審判は頷くと手を上げてこう宣言した。


「勝者────ラピス!!これでラピスの免許更新実技試験は合格とする!!」


『うおおおおおおすげえ!!』


『あの猛攻を掻い潜ったんだ!!』


『あれだけの猛速撃に、山本相手に隙を見出すとか、魔法少女ラピスってスゲーんだな・・・・・・俺、正直言って見た目だけかわいいからチヤホヤされてるだけで、実力はあんまりなのかと思ってた』


『強くてかわいくてかっこいいとか、ラピスちゃんもう無敵じゃん』


『一生推すわ』


こうして、瑠璃は無事合格したのだが、このことが原因で学校は魔法少女ラピスの話題で持ちきりとなった。それで瑠璃は辟易することになるのだが、それはまた別の話である。

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