38話 公爵夫人の悪いうわさ ~ VS ファルディス家 ~
皇后主催のデビュタントパーティ、今年は例年に見ないほどの豪華さである。
宮殿の大広間は豪華絢爛で大輪の花がこれでもかと飾られる。皇后イザベラが音頭を取り、「もっとお花!!もっと飾り!!」とはっちゃけたためだ。
知的でクールな皇后の発狂に一部の侍女たちは困惑したがリカルダを目の当たりにした侍女侍従たちはもっとやれと援護射撃をする。ちなみに追加予算は皇后の実家、ベルバーレ公爵家から出ている。
大フィーバーの皇后と違い、列席者は混乱を極めていた。
「皇后さままで誑し込むなんて本当に恐ろしいわ!」
「なんとしてもリカルダの邪悪さを暴きましょう!!」
リカルダの悪評は盛りに盛られ、若い貴族令嬢たちは敵意マンマンだった。ここまで悪意が盛られた理由はもちろん秘密結社の暗躍のせいだ。
「大丈夫よレニア、あなたの身分はかならず私たちが回復させてあげるわ!!」
勝気そうな令嬢マベルがレニアと呼ばれた少女の手を握る。
「……ありがとう。皆様」
か細い声、うるうると震える大きな瞳。
レニアは絶世の美少女だった。
触れれば折れそうな華奢な体、小さい声に愛らしい顔つき、人々は一瞬でレニアの虜になった。
某貴族のご落胤としてナルティーヤ伯爵に連れられてここに来た彼女をみたとき、人々はハっとしたものだ。
ファルディス侯爵家の特徴ともいえる太陽のきらめきのような金髪、そして澄んだ青い目……。
その見た目と、ナルティーヤ伯爵の、
「レニア様こそ正当なファルディス家の血縁なのです。ファルディス家の捜索隊が来たとき、リカルダはレニア様を物置に閉じ込めて自分がファルディス家の血縁だと嘘を言ったのです……!!どうかレニア様が本来の立場に戻れるよう皆様のお力添えをお願いします」
の言葉に人々はころっと騙された。
ちなみに、秘密結社の魔法師で得意魔法は魅了の魔法である。
(よしゃああああ!!! 作戦成功っ!!!! 社交界の連中はすべて私の味方よ!!! リカルダとやらには悪いけど私のために追放されてもわうわ!!!)
見た目の可憐さとは裏腹に、中身は下町育ちのばりばり粗暴な少女である。
ちなみにファルディス一家はびっくり仰天して腰を抜かせていた。
「お、お父様!!リカルダは他人なの!?」
「そんなわけないだろ!! しっかり調査したんだぞ!!イケメン男子のはずがないからと念入りに調査したからな!!」
「そうよそうよ!!リカルダの美しさはわたくしに似ているのだから家族に間違いはないわ!!」
ナディールが豪語する。普通に考えてサロニス侯爵家から嫁いできた彼女に似ているわけないのだが、そんなのどうでもいい。ナディールにとってリカルダは娘である。
「そうですわよね!」
「だよな!!」
三人はスクラム組んで抱き合った。
リカルダの一大事、ヘルムントも許してくれる!!
三人はズカズカとホール中央に行った。
「私は当主フレナンド!! 我が娘リカルダへの無礼なふるまいはここまでにしてもらおうか!!」
マシュマロボディを超一流テイラーで仕立てたジャケットにしまい込んだフレナンドが先陣を切った。
「わたくしはファルディス侯爵家夫人ナディール!! 娘を持つような年齢に見えないでしょうけど!! 我が娘に対する根も葉もないうわさ、許しておけないわ!!」
扇をまるで剣のように構え、フレナンドのそばに立つ。ナルシストは健在である。
そして社交界の華、元祖悪役令嬢ガルディアが腕を組んで出てくる。
「オーホホホッホ!! わたくしが社交界を留守にしていた間、とんでもないことになっていたようねっ!!!」
まるで満開のバラが咲き誇ったような超美女ガルディアの登場にホールは歓声が上がる。傲慢で苛烈、トゲどころかクギ並みの性格のキツさだが、それを補って余りある美女なのだ。老若男女ファンも多い。
「きゃああ!!ガルディア様よおお!!!」
「今日もおきれいだわああ!!!」
レニア派の貴族令嬢まで黄色い歓声を上げる始末である。
しかしレニアは平然としている。勝算はあるからだ。
「お姉さま。お会いできてうれしいです。いきなりで驚かれましたでしょうが、すべて事実なのです……」
堂々としたレニアの態度に周囲はドキドキハラハラが止まらない。固唾をのんで見守る。
「オーホホホ!! 証拠はあるのかしら?」
ガルディアの青い目がレニアを見つめる。フフンと勝気な顔のガルディアはまさしく可憐な美少女をいじめる悪役令嬢そのものだ。
「はい。これが父セドリックが残してくれた印章の指輪です」
ファルディス家の家紋、獅子をかたどった指輪がレニアの手に光る。印章……すなわちハンコ。それだけでいろんな契約ができるスーパーアイテムだ。
周囲の貴族たちはレニアの正当性を確信した。
しかし、そういまくいかない。
フレナンドは手に取るまでもなく断言した。
「よくできているが偽物だ。そもそも家出した従兄弟のセドリックは直系じゃないから持っていない」
レニアは一瞬、頭が真っ白になるがすぐに気を取り直した。できる女レニア。
「……そ、そうなんですね。すみません。母からこれがお父様の形見だと聞かされていたので……ぐすぐすっ」
レニアは大粒の涙を流した。
フレナンドはほろっとくる。
「いや、まあ。それはなんとも……かわいそうだな……」
どこまでもお人好しな男である。レニアはチャンスだと思った。
「母がどうして指輪を持っていたのか知りませんが、それでも私は母と父セドリックの娘です。ですが、もう二人はいません……私は貴族になりたいのではなく、家族が欲しいだけなんですっ!!」
その言葉にお人好しなフレナンドは号泣した。そしてナディールもホロっときた。この夫にしてこの妻ありである。
「そ、そうか。それは苦労したな。よし、我が家で引き取ろう!!」
「そうねえあなた!!」
あっさり引き取る宣言をした。
レニアはといえば、内心でイライラしている。
(ちげええええ!!! お前たちに引きとってほしいんじゃないんだよ!! ロトランダ公爵夫人の座が欲しいんだ!!!! それにはリカルダを偽物と断罪する必要があるんだよ!!)
しかし表に出さないのはさすがである。
「まあ……うれしいです。ありがとうございます。ですが、私はロトランダ公爵様がリカルダに騙されているのがかわいそうで……」
レニアはしくしくと悲しそうな顔で言う。
「いや、騙されるも何もリカルダは私の娘だし問題ない」
「ええ、わたくしの娘ですもの。若く見えるから信じられないでしょうけど」
「そうよ。リカルダは私の妹よ」
三人がきっぱり言った。
「いえ、ですから……リカルダは私を物置にかくしてですね。捜索隊に嘘を言って私の身分を奪ったのです……。偽物が公爵夫人になるのは公爵様がお可哀そうでは?」
レニアの言葉がついつい説明口調になる。可憐な演技にだいぶ疲れてきた。
「うん? リカルダは私の娘なのだから問題なくないか?」
「ええ、問題ありませんわあなた」
「そうよ問題ないわ」
三人がまたきっぱり言った。
レニアは顔が引きつった。
「で、ですから……」
レニアは根気よく説明した。
リカルダが偽物であること、レニアが本物であること。そして公爵夫人の妻はレニアが相応しいと一生懸命わかりやすいよう説明した。なんなら、最後の方は
「AさんとBさんがいて、Aさんが本物です。Bさんは偽物です」と子供向け算数教室なみのレベルまで落ちた。
それでもこいつらは理解しなかった。彼らの頭の中でリカルダは娘なので偽物と言われてもピンとこないし、物置にレニアを隠す人物像と一致しない。
レニアはもう堪忍袋の緒が切れかけていた。いや、切れた。
「だから!! 私を!! ロトランダ公爵夫人にしなさいって言ってるの!!」
ゼーゼーハーハーと肩で息をしながらぶちまけたレニア。
(ああ、くそっ!!ここまで言い切ったら狙いはバレバレ……これで計画もパアだ……)
やっちまった感はあるが気分はすっきりしている。
しかし、レニアの後悔とは裏腹にファルディス家三人衆は感動のまなざしで見ている。レニアは知らなかった。この三人組が何度もロトランダ公爵夫人になろうと画策していたことを。
「……素晴らしい!! 君こそ我が従兄弟の娘だ!!」
「感動したわ感動したわ!! 遠く離れていても心は同じなのね!!」
「わかるわ!!わかるわその気持ち!!!わたくしも何度もロトランダ公爵夫人になろうとしたわ!!リカルダのために!!」
三人はレニアをぎゅぎゅっと抱きしめた。感動の涙を流す三人にレニアは混乱する。何がどうなってそうなった。
「これからよろしくな!!我が娘!!」
「うふふ。うら若き乙女にしか見えないけどこれからはあなたのママよ!!」
「同志が増えてうれしいわ!!」
キャッキャと喜ぶ三人と呆然としたレニアの温度差は激しい。
ちなみに周囲にいる貴族たちは
「何かわからないがうまくまとまったようだ!!」
「リカルダは結局悪女なの?どうなの?」
「ガルディア様がリカルダを妹と言っているならもうそれが事実なのよ」
混乱しつつも貴族たちは拍手をした。
雰囲気に流れやすいやつらである。これでよく没落しないものだがブレーンが優秀なのだ。神輿は軽い方がいい。
レニアの計画第一段階、ファルディス家に入り込む……成功。




