おまけ デビュタント直前
黒い礼装を纏ったエレディンはリカルダの部屋まで迎えに行った。デビュタントが始まればゆっくり二人で過ごすことはできないだろう。話しかけるチャンスだと勇気を振り絞って扉をノックする。
開いた扉からは月の女神かと思うほど美しい女性がいた。金色の髪を真珠の髪留めでアップにまとめ、ほっそりとした首元が灯に照らされる。
「……美しいな。そのドレス、よく似合っている」
思わず零れる言葉にリカルダの白い頬がうっすらと染まる。
「ありがとうございます。エレディン様」
ほほえむリカルダは芸術のすべてが詰まった人形のようだった。仕草、言葉、声……まさに貴婦人中の貴婦人だ。
しかし……。
「……様?」
「ははっ。やはり似合わないか。皇后陛下主催のパーティだから貴婦人らしく言葉遣いを改めてみようとおもったんだがな」
エレディンが聞き返すとリカルダは照れたように笑った。そう、この顔だ。人間味のあるこの笑顔が好きなのだ。
いつもの口調にエレディンはほっとする。
なんだか旧友が戻ってきた気分だ。
(俺にとってリカルダはたぶん、親友でもあるんだろうな)
「いや、似合ってるぞ。だが、俺はお前に様と呼ばれたくはないな」
「なら公爵閣下は?」
「ふむ。ロトランダの英雄殿としてならアリだが、公爵夫人には名前で呼ばれたい」
きっぱりとエレディンが答えるとリカルダはおかしそうに笑った。
「わかった。エレディン」
二人は笑いあう。
美しく装った二人だが、まるで下町で安酒を酌み交わすような気安さで他愛ない話をする。
友人であり恋人。
とても居心地がいいものである。
■
和やかなロトランダのタウンハウスとは逆にファルディス家はピリピリしていた。
ヘルムントの前にずらっとファルディスの三人が神妙な顔つきで並ぶ。
「本日はリカルダ嬢のデビュタントです。楽しみなのはわかりますが、くれぐれも品位を保って下さいね」
「わかっているさ」
「もちろんですわ」
「ええ、変な真似はしませんわ」
フレナンド、ガルディス、ナディールが答える。
場所は数ある居間の一つ、三人はソファに腰を掛けてヘルムントのお小言を一時間みっちり聞いていた後だ。浪費がいかにダメか三人はきちんと反省した。
「甲冑など着て行きませんように、いいですねフレナンド様」
「え、ダメなの!? ご先祖様の品だから金はかからんぞ?!」
フレナンドがキョトンとする。
「ナディール様、シュミーズドレスなど言語道断ですよ」
「ええええええ!!!!!! 装飾品も最低限でわたくしが刺繍してますのよおおお?!」
ナディールが呆然とする。
「ガルディア様。ミラーボールは没収です……」
「出入り商品から不要になった型落ちを貰ったのよ!!お金はかかってないわ!!」
ガルディアが反論する。
超イケメンハイスペックのリカルダのデビュタントだ。華々しく演出してあげたいという家族心であった。ちなみにガルディアのデビュタントは縁続きのファルガー公爵家でやった。身内なのでやりたいほーだいである。それを指摘するような野暮な奴はいなかった。
「私が用意した衣装で出席してください。いいですね。おもちゃの持ち込みもなしです」
にっこり笑うヘルムントはイケメンだが目が笑っていない。どんな厳しい家庭教師もヘルムントには敵わないだろう。
フレナンドとナディール、ガルディアは半べそをかきながらコクンと頷くのであった。
ちなみに、エレディンはファルディス家にあいさつしに行こうとしたのだが、ヘルムントに止められた。「デビュタントパーティまでにはしつけしなおすので!!」と必死の形相のヘルムントに言われ、エレディンは何のことかわからないまま頷いたのだった。




