37話 公爵夫人が王子様過ぎて皇帝と皇后が腰を抜かす
ゼルフォリオン帝国の皇帝と皇后はまだ30歳だ。
エレディンの従兄セリオスと同世代で親友同士だった。
そのため、皇帝グランディスとイザベラはエレディンの事を可愛い弟のように思っている。彼も執事ベネディクトと同様にエレディン=可愛い美少年なのである。
「エレディンが来るのが楽しみだなあ。会ったのは一回っきりだったけど可愛くていい子だった」
「ウフフ、わたくしも楽しみですわあ。……でも、噂の花嫁がもしエレディンを騙しているのであれば看過できませんわね」
イザベラが懸念しているのは平民出身の悪女、リカルダ嬢のことである。
ファルディス家に潜り込み、ガルディス嬢とエレディンの仲を引き裂いた出自不明の悪女……。
社交界がザワついているのもそのせいだ。ファルディス家は相変わらず沈黙を貫き、様子を見に行った貴族たちも面通しすること叶わずである。
「何か理由があるかもしれない。あのエレディンが選んだ伴侶なんだからうがった目で見るのはやめよう」
皇帝グランディスは楽天家である。
「……杞憂だといいのですけれど」
半面、イザベラは慎重なタイプ。二人でちょうどいい塩梅になるのだ。
「そんなに心配ならデビュタント前に会ってみようか? 人となりを見れば君も安心できるだろう?」
「それがいいわ!!さすがアナタ!!!!」
皇帝グランディスの提案に皇后イザベラは食いつき、さっそくエレディンとリカルダを招聘した。
私的な場ということで、ナンシーがセレクトした衣装でエレディンとリカルダは宮殿に行ったわけだが、門番がまずリカルダの王子様っぷりに驚き、侍女たちがイケメンっぷりににうっとりしたのである。
「陛下あああ!! ロトランダ公爵閣下と、この世の美を集めたような超イケメン王子様がいらっしゃってますううう!!!」
侍従が大慌てで謁見の間にやってくる。
「イケメン王子?! なぜそんな者が共に!? 花嫁と同行している筈だが!?」
「はっ!!もしかして花嫁を取り合っている仲なのでは? ほら、よくありますでしょ。一人の平民をイケメンが取り合うお話!恋愛小説で定番ですわ!!」
イザベラが言った。そして自分でも言っててどうしてこうなったと内心突っ込む。
(平民リカルダが魔性の女で次々にハイスペックイケメンを虜にしているのかしら……?! このままではエレディンが魔性の女に骨抜きにされてしまう!!もしかしてうちのダーリンまで毒牙にかかるかもっ!!カッコイイし地位も権力も名誉もあるし優しいし!!)
ダーリン大好きイザベラが危機感をMAXにした。
そして謁見の間でエレディンとそのイケメン王子が皇帝と皇后の前に姿を現した。言うまでもなくイケメン王子はリカルダである。金髪の髪を一つにまとめ、ゆるくリボンで結んでいる。衣服はエレディンと対になるように明るい色でまとめられていてリカルダの王子っぷりを最高にまで引き上げている。ナンシーの力作だ。
(イケメン王子だ……!!)
(イケメン王子だわ……!!)
皇帝と皇后の意見は一致した。
成長したエレディンも凛々しくて超絶美形なのだが、イケメン王子が隣にいると付き人に見えてくる不思議だ。
「おおお、お友達かな? 失礼だが、お国はどちらだろう?」
「両陛下にお初にお目にかかります。ゼルフォリオン帝国がファルディス侯爵家次女にして、ロトランダ公爵の妻、リカルダでございます」
リカルダが見事に拝礼した。
上体を傾け、さらりと金の髪が揺れる。超美しい。
周囲にキラキラしたものが見える気がする。背景に薔薇とか牡丹とか豪華な花が見える。……気がする。
超イケメンだった。声も凛々しい。
娘がいたら速攻で婿にしたいレベルだ。
しかし、ここで理性が待ったをかける。
「すまない。もう一度お願いできるか。その説明だと貴殿がファルディス家の次女のように聞こえてしまうのでな。ハッハッハ」
「その通りでございます。ファルディス家の次女がわたくしです。といっても、遠縁にあたり、最近養子にしていただいた身ですが」
リカルダがはっきりと答える。
堂々とした言いっぷりは男前だった。傍に控える侍従は惚れ惚れしているし、侍女はうっとりしている。そして護衛兵は超イケメンから感じる強者のオーラにめっちゃ興奮していた。
(あの気!! 騎士団長オーランド様以上と見た!!)
(細身ながらも鍛えられた筋肉……!!強い。強いぞこの御仁!!)
ハアハアと脳筋たちは目を輝かせる。
ここが謁見の間でなければ近くに行きたい。なんなら指南して欲しい。
そしてそんな状況で、皇帝はふるふると首を振った。
「ふう。やれやれ……貴殿がリカルダ嬢を庇っているということか。この皇帝グランディスを侮ってもらっては困る。いくら貴殿の顔が麗しいと言えど女性と男性を見間違うことはないさ」
フッとかっこつけてグランディスは言う。
この時点で節穴と自白しているようなものなのだが、謁見の間にいる人間、誰一人突っ込まないどころか、ウンウンと頷く。
頭脳担当皇后イザベラもそうだ。
(この超麗しいイケメン王子すらも虜にするなんてリカルダ嬢、恐ろしい子……!!)
と真っ青になっている。
そしてその中でエレディンが動いた。
まったくもって予想通り過ぎて無表情になっていたのだが、自分が動かないとこの事態に終止符が打てない。
「陛下。私からも紹介させてください。私の妻です。自慢の妻です!!!」
エレディンが大声で言った。
黒い礼装に金糸銀糸の刺繍が美しい。陶器のような滑らかな肌、長いまつ毛に縁どられた目、まるで人形のようである。小さい頃は可愛い美少年だったが、その面影を持ちつつ、超絶美青年になっていた。
帝国一の美青年と言いたいところだが、その隣にいる超ハイスペックイケメン王子のせいでただの側近、付き人、侍従……お供だ。
エレディンが一歩前に出て大声でリカルダを紹介するが、この場で誰一人信じた者はいない。
そのため妙な静粛がその場を支配した。
「……陛下、さては信じていませんね?」
エレディンがじとっとした目で皇帝グランディスを見る。従兄セリオスの親友ということもあって気安い。
「いやだってさあ」
「ねえ」
皇帝と皇后が阿吽の呼吸で言う。
光り輝く超絶イケメンなのに妻とか公爵夫人とかいわれても、月をお盆、雲を泥と言われているようなものだ。
誰からも信じてもらえない孤独にエレディンは後悔していた。
ナンシーとかマーガレットに押し切られようともやはりドレスにすればよかったのだ。
しかし、ここまでは想定内、ドレスも用意しているのだ。
リカルダに着替えてもらい、再度謁見の場に登場した。
「聖女!? 女神!? なんて言っていいかわからないくらい美しい!!」
「キャアアアア!!!すてきいいいいい!!!!! 地上に降りた天使いいいいい!!!!女神いいいいい!!!!」
皇帝グランディスが涙を流し皇帝イザベラが発狂した。
エレディンはご満悦である。
リカルダはやや照れていて、
「女装はあまり慣れないな……」
と恥じらって見せる。そしてそれがさらに皇后イザベラの心臓を撃ち抜く。氷の薔薇と呼ばれ知的でクールな女傑であるのだが、芸術を愛でる彼女のハートを鷲掴みにしたのであった。
「ぜひぜひ私の話し相手として宮中に出仕して頂けませんこと!?なにもしなくていいですの!!ただ傍にいていただくだけで!!!!」
ぜひお話し相手に宮廷に上がって欲しいとせっつっくイザベラにエレディンがNOを突き付けた。大好きな皇后を取られると焦った皇帝が取りなしてようやくその場はお開きになった。
「素敵な人だったわぁ……」
目をハートマークにした皇后イザベラに皇帝グランディスは複雑な心境である。
「まあ、素敵な御仁だったのは確かだな。だが、デビュタントは大荒れしそうだ……」
皇帝グランディスの予想通り、デビュンタントパーティは大荒れする。
それも、最悪の形で。
「私が本物のファルディス家の娘です。リカルダは偽物なのです」
ファルディス家の血筋を表す黄金の髪、青い瞳の少女が社交界に現れたのだ。
秘密結社の暗躍は止まらない。




