36話 公爵夫人がかっこよすぎてタウンハウスの使用人が迷走する 後編
デビュタントとは貴族の令嬢にとって大事なものである。
社交界で名前と顔を知ってもらい、そこでどのような縁を結べたかで人生が左右されるのだ。もちろん、どこでデビュタントするかも重要である。上流貴族になるにつれパーティの規模も大きく、招待客のグレードも跳ね上がる。
皇后主催ならばそのグレードは最上級だ。
もちろん、出席する令嬢たちはドレスやアクセサリーをこれでもかとゴージャスにする。何年も前から用意する家もあるくらいなのだ。
しかし、ロトランダの財力があれば数か月の準備期間でも最高級のモノが作れる。珍しい宝石、美しく滑らかな糸を使い、目が飛び出るほど高い上にゴージャスなドレスがリカルダのために用意されていた。
「ダメですううう!!! リカルダさまは絶対に騎士服!! もしくはクラバットと金糸銀糸を縫い込んだジャケット!!! そうじゃないとリカルダ様の麗しさ!!気高さ!!凛々しさを見せつけられないじゃないですかあ!!!!」
ナンシーはロトランダから持ち込まれたドレスを見て発狂した。
「貴様はデビュタントをなんだと思っているんだ! 女性のお披露目だぞ!!ドレス姿に決まっているだろうが!!」
エレディンが負けじと反論する。
ドレスの生地、宝石などはエレディンが直々に生産地までこだわって用意させたものだ。初めて見たリカルダのドレス姿はまるで幻想の国の姫君のように美しかった。
リカルダの美しさを他の人間に見せるのはライバルが増えそうで癪だが、それでもエレディンの伴侶だと見せつけたい。騎士服だとただのイケメンだし、男性の礼装だとエレディンがただの付き人になり下がる。
「ダメですダメです!!ドレス姿なんて神をも恐れぬ所業です!!この圧倒的美形を余すところなく演出しないなんて人類の罪です!!」
「リカルダはドレス姿も神々しい位に美しくて綺麗で気高いんだ!!!!」
「ダメですうううううう!!!!!」
ナンシーとエレディンは舌戦を繰り広げている。
ちなみに、その様を感動してみているのはベネディクトだ。
「ああ、エレディン様が生き生きとなさっている……!!本当に良かった!!」
ハンカチで顔を覆ってむせび泣いた。
「ドレス……ドレス??」
マーガレットは相変わらず頭が追いついておらず、どちらかというとナンシー派である。圧倒的イケメンには騎士服か男性の礼装を着て欲しい。
当のリカルダはというと、貴族の習慣は門外漢ゆえに大人しく成り行きを見守っている。
(生兵法は大怪我の基だ。ド素人は専門家に任せるに限る)
なお、本音を言えば慣れている男装の方がいいなあ。とちょっとだけ思っているのであった。
決着は案外早くついた。
エレディンがリカルダの肖像画(ドレス姿)を見せたからだ。タウンハウスの私室に飾ろうと持ってきたのである。
「うつくし……!!神の芸術!!女神が裸足で逃げ出すレベル……!!!」
恍惚の瞳で肖像画を見つめるナンシーにエレディンは満足げである。
そもそも当主命令を下せばナンシーごときの意見などねじ伏せられるのだが、リカルダを愛しすぎたエレディンはなんとかしてナンシーに妻の美しさを認めさせたかったのである。
こうして当初の予定通り、リカルダはドレス姿で参加することになった。
ちょっと残念そうなリカルダであるが、楽しそうなエレディンを見るとまあいいかと思う。なんだかんだでリカルダもエレディンが好きなのである。
質素倹約を好むエレディンも今回だけはパートナーとして礼装を身にまとう。
とてもかっこいいだろうなとリカルダは心を弾ませるのだった。
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なお、ファルディス一家が暴走して作ったフリル地獄ドレスはヘルムントによって売却され、年間予算に組み込まれている。いくら愛と金がつぎ込まれていようと仮装大会レベルのデザインはさすがに許可できなかったのである。
「あいつらに美的感覚はないのか……!!?? 美術の教師でもつけるか!?」
今日も今日とて頭を悩ませるヘルムントだった。




