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【連載版】義姉の身代わりで恐怖の公爵に嫁いだ娘が男前すぎる~身代わり娘の英雄譚~  作者: りったん
第二章 男前すぎる公爵夫人(超鈍感) VS 妻を守りたいけどさせてもらえない公爵(常識人) ファイッ!!
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32話 公爵夫人が凛々しすぎて争奪戦が起こる

 とある森の昼下がり。

 金髪巻き毛の美女エミリアは初めて会った王子様に一目ぼれした。

 

「お助け下さってありがとうございます!! わたくしはエミリア、ドヴォール領主の娘ですわ!! こっちは弟のレオンですの!!」

 興奮したエミリアが紅潮した顔でまくしたてる。

 いつもは知的な美女なのだが、モンスターに襲われたところをリカルダに救われ、一目ぼれした。吊り橋効果も相まってメガトン級の破壊力である。


「ご無事で何よりです。ご領主のご息女でしたか。ちょうど我々は通行許可証の印を貰いに参るところでした。ご案内願えますか?」

 リカルダは丁寧にあいさつをする。

 お辞儀をし、胸に手を当てる仕草は騎士のようにカッコいい。


「もちろんですわあああああ!!!! あの、お名前を伺ってもよろしくてええ?!!」

 興奮しすぎたエミリアの声は甲高い。

 いつもはこんなんじゃなく、普通の知的なクールビューティーである。

 その証拠に弟、レオンは姉の変わり果てた姿に若干怯えている。


「ああ、申し遅れました。リカルダと申します。こちらはロトランダ公爵エレディン。帝都まで旅の途中です」

 リカルダの答えにうっとりしていたエミリアは、きょとんとした。


「ロトランダ……? ロトランダ公爵と言いますと毒蛇の?」

 リカルダは苦笑し、エレディンは無表情でこくんと頷いた。


 王子様の後ろに立つ黒髪赤い瞳のイケメンにエミリアは首を傾げる。噂とは大違いのミステリアスな美形だ。

(まああ!! 従姉妹のセリーヌが涎を垂らしそうなイケメンだわ!!! 引き合わせたら絶対喜ぶわね)

 

「まあおほっほ!! 失礼しましたわ!! 公爵様、お会いできて光栄ですわ!!どこかの悪者が公爵様に嫉妬して陥れようとしたのでしょう!! とんだ極悪人もいたものですわっ!!」

 その悪い噂を流したのがエレディン本人とは知らずにエミリアは必死でフォローする。


「ははは。お気遣いありがとう。エレディンはどうも誤解されやすくてね。社交界で訂正して頂けると助かるのだけど」

 リカルダが言うとエミリアはうっとりした顔でこくこく頷いた。

「も、も、もちろんですわ!!!! パーティでお茶会でお店で広めまくりますわ!!」

 力強いエミリアの言葉に気圧されながらも、強力な助っ人ができたとリカルダとエレディンはひとまずほっとした。

 彼女のこのパワーなら帝都に着くころまでにエレディンの株は上がっていそうだ。


 エミリアの馬車に同乗して堂々と城に入るが、怯えられることも怖がられることもなくエレディンの精神上大変良かった。


 領主も満面笑顔で出迎える。

「娘を助けて下さってありがとうございました!! 通行許可の押印はすぐにでもいたしますが、夕食をぜひご一緒させていただけませんかな!!」

 ドヴォール領主ダグラスの圧はエミリアに似てすごかった。


「どうするエレディン」

「断る理由もないからな。受けるとするか」

 社交の第一歩だとエレディンは意気込む。

 はやく汚名を返上してリカルダと釣り合う男になりたいのだが、後にエレディンは後悔する。妻のモテ具合を失念していたと。


 夕食会では終わらず、お泊り会も開催されたのである。


 ■


 エミリア、そしてダクラスのキャラは濃い。

 そして同じ血を持つ、セリーヌも濃かった。

 亜麻色の髪で穏やかな感じの美女だったのだがリカルダを見たとたん猛獣に変化した。


「セリーヌでございます!!!! 喜んでお世話をさせていただきますわ!!!!!」

 エミリアが気を利かせて従姉妹の彼女を呼んできたのである。彼女をエレディンに侍らせ、そして自分は王子様と……という壮大な計画だったのだが、やってきた彼女はリカルダに詰め寄った。


「ちょっと!! あなたがお世話するのは毒蛇公爵様よ!! 黒髪で色白で文学青年風でちょっと影のあるイケメンがあなたの好みでしょ!!」

「そう思っていた時期が私にもありました……!!! 好きになった人がタイプだって今気づいた!!!! 金髪イケメンサイコー!!!!」

 二人は舌戦を繰り広げ、しかし、決着がなかなかつかず、結局は二人で王子様リカルダに侍ることにした。


 そしてポツンと一軒家……じゃない余ったエレディンはというと、同じくポツンと突っ立っていたレオンがあてがわれた。


 そしてエミリアとセリーヌの暗躍のせいでエレディンとリカルダは別室である。

 二人の気迫に気圧されて了承したのだが、エレディンはまさか幼気な少年が自分の世話をするとは思わず、居心地が悪い。



(どうしろというんだ。俺を怖がって硬直しているじゃないか……!!)

 エレディンは頭を抱える。


 巷を騒がす恐怖の公爵と二人っきり……怯えるなと言う方が無理だ。

 レオンは真っ青である。


 だが別に怖がっているわけではない。

 姉たちの豹変ぶりの方が怖かった。

『レオン、いいこと?毒蛇公爵様にをその部屋から一歩も出さないようにね。今夜、王子様を射止めるから』

 もはや狩人となった二人の姉は毒蛇公爵の噂など消し飛ぶくらい怖かったのである。


 そしてそんなこととは知らず、自分のせいだと落ち込むエレディンはなんとかしてレオンを落ち着かせようと、勇気を出して声をかける。


「少年……急に押しかけてすまなかったな。通行証に印を貰えばすぐに城を出るから、そう気構えなくていい」


 優しい声である。


 姉と従姉妹から雑に扱われたレオンはその優しさが身に染みた。

 ポロポロといつのまにか涙をこぼすレオンにエレディンはぎょっとした。


「だ、大丈夫か? 俺が何かしてしまったようだな……」

 労わるように延ばされた手だが、エレディンはそれ以上前に出すことはなかった。


(……俺が触れば余計に怯えさせるだけだ)

 エレディンは手を引っ込めて安心させるように言った。

「姉君のもとへ帰るといい。ご領主には君がきちんと仕事をこなしていたと伝えるから心配するな」

 エレディンは気を利かして言った。

 しかし、その優しさにレオンは泣く。


(違うんです違うんです!!一歩も出るなと言われているんです!!!)


 無言で泣き続ける少年にエレディンは内心パニックになる。

「お菓子でも食べるか? ああ、えっと……なんでも好きなものを買ってやるぞ」


(ああ、くそっ。子供はどう扱えばいいんだ!! こんなことならリカルダと離れるんじゃなかった……!!)

リカルダと同室が良かったと後悔する。



 一方、リカルダは別室でエミリアとセリーヌに甲斐甲斐しくお世話を焼かれていた。


「ワインはいかがですか?!」

「こちらのクッキーも美味しいですわよ!!」


 色々と勘違いされているのはわかるが、これまでの経験上反論してもムダなことをはよく知っている。

(エレディンも一人の方がゆっくり休めるだろうしこれでいいか。長旅で疲れているだろうし)


 疲れた様子など一切見せないエレディンだが、リカルダと違って深窓のご令嬢……ならぬ公爵様だ。徒歩で長距離を移動することなどなく、今頃足を痛めているかもしれない。


「ああ、連れの世話役に脚のマッサージと湿布をして欲しいと伝えてもらえますか? 長旅ゆえ疲労がたまっていると思うので」

 

 リカルダが言うとエミリアとセリーヌは感動し切った顔でリカルダを見つめる。


「「わ、わかりましたわ!!」」

 二人は同時に立ち上がって部屋を出た。



「今の見た?エミリア」

「見たわセリーヌ」


 リカルダが連れ……毒蛇公爵の事を話す口ぶりはとんでもなく甘い。目が優しいなんてもんじゃない。口元も柔らかく微笑み、室内いっぱいに薔薇の甘い匂いが立ち込めたような気分だ。


「王子様……絶対に公爵様のこと好きよね」

「ええ、そうね」

 女の勘はよく当たる。

 とくに恋の匂いに敏感だ。まあ、性別の方は勘づかなかったが。とにかく二人は王子様(公爵夫人だが)の愛の矢印に気づき、自分たちの恋の終わりを知った。


 だが、悲壮感はない。

「公爵様も美しい方だしね」

「そうね。ロトランダ公爵家がお金持ちになったのはあの方の尽力ゆえって話だし、努力家なんでしょうね」

 顔良し頭良し身分良し。

 超スーパーイケメン王子様を射止めるのもわかる。イケメン二人が勿体ないけど。


 そして、二人はエレディンの客室に行って弟が毒蛇公爵に縋りついてワンワン泣く風景を見たのであった。

 公爵様から離れないから!!と泣き叫ぶ弟を見て二人はまァと口に手を当てた。


 レオンは反抗期が芽生えたゆえの態度なのだが、さきほどリカルダの甘い甘い顔を見てきた二人はにまぁと口元が緩む。


「毒蛇公爵って名前間違っていると思うわ」

「そうね。魔性の公爵でいいんじゃないかしら。なにしろ王子様を射止めたんですもの」

 ケツの青いレオンが堕ちてもしょうがないわよね。

 と。



 自分たちの出る幕はないと潔く諦めたエミリアとセリーヌはそそくさと退散した。

 リカルダは一人部屋でぐっすりと休み、エレディンはレオンを抱っこして寝た。


 ■

 

 翌朝、普段の知的ビューティーと穏やかビューティーに戻ったエミリアとセリーヌは淑女として接した。

 劇的な変化に驚くリカルダとエレディンだが、

(誤解が解けたのかな)

 とポジティブに考えた。

 まさか『魔性の公爵』なんていう属性がプラスされたなんて思いもよらない。


「公爵様。また来てくださいね」

 すっかり懐いたレオンはエレディンをハグして見送ったのが誤解を後押しさせる。

 そして気が付いていないエレディンとリカルダは良い気分のまま出発だ。 



「まさかここまで打ち解けてくれるなんて思わなかった。この調子で毒蛇公爵の汚名を晴らしていければいいが」

 嬉しそうに顔を綻ばせるエレディンにリカルダもついつい破顔する。

「来て良かったな」

「ああ、帰りもまた寄ろう」

 二人仲良く森の中を進む。








 それを遠くから見ていたのがルヴァリエ王国の密偵である。

「おお、あれが王子と例の漆黒の貴族だ。たしかにイケメンだな」

「ドヴォール領主と過ごしていたらしい。聞き込みをすれば正体がわかるぞ」


 二人は早速、城の外に出ていたエミリアたちに声をかける。

 警戒心を抱かせないよう、姿かたちは巡礼中の聖職者の格好である。


「もし、そこのお嬢さん方。あちらの黒い髪の貴族様はどなたかね。この前、ご親切にしてもらったのだがついお礼をしそびれてな」


「あらそうなのですね。あの方はロトランダ公爵様よ」

 エミリアがすんなり答える。

 パルバンテしかり、ゼルフォリオン帝国の貴族は平和ボケしているのである。


「ろ、ロトランダ!!?」

 密偵の一人の声を裏返る。

「ロトランダって……あの!?」

 もう一人が慌てながら聞き返す。


「ふふ。ええそうね。毒蛇公爵様と言った方がわかりやすいかしら」

「でも毒蛇と言うよりは魔性よね。王子様もゾッコンですもの」

 エミリアとセリーヌがくすくす笑いあう。

 色々間違っているがそれを正してくれる人はいない。


 密偵二人は大慌てでダルグレーブ公爵に報告した。


 ■


「漆黒の貴族とは毒蛇公爵の事だったのか!!?」

「そのようです。」


「ロトランダ公爵と同盟を結んだと思いきや、まさかそれが漆黒の貴族だったとはな……」

 美しい黒髪の貴族とロトランダ公爵が全く結びつかず、ダルグレーブ公爵はううんと唸った。

「……本当に本当か? 毒蛇公爵といえば異形の化け物とか悪魔の申し子だとか美貌どころかモンスター扱いの男だぞ? 何か間違っているんじゃないのか?」

 ダルグレーブ公爵は真実に触れた。

 しかし、補佐官のフォローがすべてを台無しにする。

「カ、カイラス殿下の好みが特殊なのかもしれません。あばたもエクボと言いますし」

「うーむ、確かに数いる美姫に目もくれないし、浮いた話も出てこないからなあ。好みが特殊となると納得できる」

 ダルグレーブ公爵は納得した。


 ターゲットさえ決まれば話は早い。さっそく計画を練った。

 化け物ぞろいの護衛に恐怖の公爵、中々の強敵だがダルグレーブ公爵には秘策があった。


 甥っ子のカーライルだ。

カイラスと同世代、士官学校時代はほぼ互角だが、カーライルは東大陸で修業を積んだ猛者だ。そして部下たちも精鋭ぞろいである。


 赤髪の美丈夫だが、『紅のならず者』と呼ばれるほどの暴れん坊である。

 これならカイラスたちにひけは取らない。


「カーライル、我が甥よ。お前ならどんな強者も怖るに足らん!!その毒蛇公爵を誘拐しろ!! 」


 

「わかった叔父上。最近獲物がいなくて退屈してたんだ。腕が鳴るぜ!!」

 カーライルは嬉しそうに口角の端をあげた。顔良しスタイル良し、家柄良しなのだが、ガラと頭が悪いのが玉の瑕、黙っていたら美形なのに勿体ない。



 一方、ダルグレーヴ公爵の動きをカイラス側も察知していた。

「王子殿下!! 公爵が動きました!! ロトランダ公爵の誘拐です!!」


「ロトランダ公爵……というとあの毒蛇公爵か!?」


「さようです!!」


「なぜ?!!!! 仲間割れか!? 悪党同士結託していたとか?!」


「いえ、その漆黒の貴族の正体がロトランダ公爵だった模様です!!」

「……う、美しいのか? 噂によると美しさとは無縁だが」

 魔王だの魔獣だの異形の化け物だの、とにかくバラエティーに溢れている。


「人の好みは千差万別と言いますし……ダルグレーブ公爵にとっては美しいのではないでしょうか」

「そ、そうか。ダルグレーヴ公爵がロトランダ公爵を美しいと思おうが別に構わんが、なぜ私にメッセージカードをよこしたのだ?」


「そそうですね。えっと、ロトランダ公爵と同盟を結ぶという予告をしていたのかも……?」

 エドリックは必死に答えを見つけた。


「予告状……ダルグレーヴ公爵はそんな律儀な奴だったか?」

「えーと、恋をすると人は変わると言いますから……。もしかしたら婚約発表なのかも?」

 苦し紛れの答えを出すエドリックにカイラスは複雑な顔をした。


「お、お祝いを送るべきか?」

 カイラス王子は混乱していた。


「いや、まだ大丈夫です。こういうのは正式な婚約式があってからでいいので!!」

 エドリックも混乱している。



「そ、そうだな……いや、そもそもロトランダ公爵とダルグレーヴが手を組んで何を企んでいるかが重要だな」

 カイラスが落ち着きを取り戻した。


「そ、そうですね。考えられるとすればロトランダの武力を使った圧力でしょうか。引き続き調査させます」


「ああ、頼む」

 そういいつつカイラスはモヤモヤがとれないままだった。

 奥方一筋、亡くなった後も後妻を娶らないダルグレーヴの春……。

 奥方は美しかったはずだが、何をトチ狂って悪魔の申し子、異形の化け物に走ったのだろう。


 ルヴァリエにちょっかいを出さなければ、ロトランダ公爵と茶飲み友達でもなんでもやってくれればいいのに。


 カイラスは疲れた顔でそう思った。




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― 新着の感想 ―
笑いが止まらない…!! なろうでこんなに笑ったのは初めてです。 まだまだ続いてほしい!
誤解のローリングスパイラルはどこまで続くwww カイラス王子お疲れ様です!!
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