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【連載版】義姉の身代わりで恐怖の公爵に嫁いだ娘が男前すぎる~身代わり娘の英雄譚~  作者: りったん
第二章 男前すぎる公爵夫人(超鈍感) VS 妻を守りたいけどさせてもらえない公爵(常識人) ファイッ!!
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30話 公爵夫人が強すぎて誤解が加速していく  中編



 バルバンテ領を見下ろす小高い丘のてっぺんが領主の住まう城だ。急な斜面は外敵排除のためであるが、圧倒的強者の前では無力である。

「覚悟はいいか皆の者、あと少しで毒蛇公爵がいらっしゃる。ご不興を買わないようにな!!」

 行政官オルドが強張った顔で言う。

「もちろんでございます」

「お茶もお菓子もワインも肉も魚も一級品を揃えておるわい!!」

 執事や補佐官が言った。


 ここにいるのは少数精鋭、皆が犠牲になることを望んだ者たちだ。

「マリーベル、やはり君も避難した方がいい!!」

 領主の代行として礼服に身を包んだルシアンが幼馴染に言う。彼の病はひどいものだが、今の状況でそんなことは言っていられない。自分の首一つで皆が助かるならくれてやる。そんな気概で彼は精神力だけで立っていた。



「いええ、もう準備はできておりますわ。それにルシアンさまこそ寝ていなければ……」

 祈るように手を胸の前で組み合わせたマリーベルが言った。黄色の花柄のドレスは彼女の亜麻色の髪によく映える。

 着飾った彼女はとても美しい。

 

 侍女やメイドたちは別邸に避難し、残っている女性は彼女只一人だ。

 生贄になる覚悟でマリーベルはここにいる。



 マリーベルはふと借金のカタに毒蛇公爵に売られた薄幸の令嬢を思った。


(ファルディス侯爵家のリカルダお嬢様……。会ったことはないけれど、その方の気持ちを一番理解できるのは私だわ……)


 ちなみにそのリカルダ嬢は元気に迷宮探索をしてバッタバッタとモンスターを倒している最中である。

(楽しすぎて肩に力が入りすぎているな。エレディンを連れて来なくて正解だった!! こんなカッコ悪い所を見られたくないからな)

 後ろでは護衛(追っかけ)たちが喝采を送る。

「さすがリカルダさま!!カッコイイ!!!」

「そこにしびれる憧れるう!!!」

「ああ、瘴気に気を付けて。このタイプは吸うと体内に蓄積されて寝たきりになるからね。解毒薬はあるから必要なら言ってくれ」

 リカルダは護衛に声をかける。

 もはやただの引率である。

 なお、ルシアンの病は迷宮からもれた瘴気が原因なのだが、パルパンテの誰一人知らない。


 リカルダがパルパンテの不治の病の原因を何の気なしに突き止めている一方で、エレディンは、愛する伴侶のリカルダが傍に居ないことに落ち着かず、

(……俺もついていけばよかったな。印を貰うのは明日でもできるだろうし)

 と考えているので、二人の温度差は広がるばかりである。


 寂寥感を胸に秘めながら時間通りにエレディンは城の中に入った。




 こちらは緊張感マックスのオルドたち。

 強張った顔つきでじっと大扉を見つめていた。

「どんな恐ろしい男が来るのだろうか……」

「皆さん、気絶などなさらないように!!ご不興を買ってしまいますからな……」


 身の丈三メートルの大男、モンスターのような凶悪顔……皆はそれぞれ想像力を働かせて怖がった。


 皆が固唾をのむ中、大扉から現れたのはとても綺麗な青年だった。

 艶やかな黒い髪と赤い瞳、端正な顔立ちはまるで人形のように美しいのだ。

 

 一同、あんぐりと口を開ける。

 しばしの沈黙の後、オルドはハっとした。

「そ、そのどうやら行き違いがあったようでございます!! てっきり、毒蛇公爵の来訪だと思っていたのですが、あなた様の御逗留だったのですね!!!」

 毒蛇公爵の恐怖から解放された彼はニッコニッコである。


 

「ああなるほど!!」

「人違い!!」

「いやはや驚きました!! それであれば大歓迎!!」

 執事や補佐官が大喜びする。




 マリーベルは呆気にとられ、ルシアンは喜びから彼女を抱きしめた。

 緊張していた雰囲気が一転、和やかになる。



 これが本当に人違いなら問題ないのだが、正真正銘毒蛇公爵である。

 エレディンは非常にきまずかった。

 このまま別人のフリをしたいところだが、通行許可証に身分の確認があるのでそれも無理だ。


 観念して自分の身分を言う。

「……ご領主が病気とのこと、心よりお見舞い申し上げる。旅の途中ゆえ、後日改めてロトランダより見舞の品をお贈りしよう」

 エレディンの言葉に彼らはポカーンとしていた。

 そしてだんだんと意味を理解するうちに顔が引きつる。


「ロ、ロトランダ?」

「ロトランダってあの? 北の僻地?」

「毒蛇の森の!?」

 動揺するおじさんたちにエレディンはなかばヤケになって言う。


「ロトランダ公爵当主、エレディンだ」


「……毒蛇公爵?」

 堂々と悪名で呼ぶあたり、オルドは相当混乱しているようである。


「ああ、そうだ。毒蛇の森を治める毒蛇公爵だ。身分の確認が終わったらこちらに印をお願いしたい」

 エレディンは家紋の印章を見せ、通行許可証に印を求めた。



「えええええええ!!!!! 毒蛇公爵?! ほんっとに毒蛇公爵!?」

「イケメンじゃん!!ただの憂いを帯びた耽美な美青年じゃん!!!」

「誰だ恐怖の毒蛇公爵とか罵詈雑言流したやつは!!!!」

 おじさんたちは大パニックだ。言葉も態度も崩れまくる。

 ちなみに罵詈雑言を流したのはエレディン本人である。


「落ち着いてお父様!! 火のないところに煙は立ちませんわ!! 見た目は麗しくても中身はサディスティックでバイオレンスかもしれません!! 気を許してはダメです!!」

「マリーベルの言う通りだ。どんなに気品があってイケメンで知的でちょっと影があるところが素敵でも、中味が重要だ!!」

 ルシアンとマリーベルがコソコソとそれでも鬼気迫る勢いでオルドたちに注進する。

 


 基本的には賢い彼らだが平和ボケして権謀術数など無縁であるため、立ち回りがドへたくそだった。ゼルフォリオン帝国以外であればとっくの昔に没落しているだろう。


(聞こえているんだがな……)

 エレディンは聞こえないフリをしながら思う。


 領内引きこもり生活時は特に困らなかったが、そろそろ汚名返上した方がいい気がしてきたエレディンであった。



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― 新着の感想 ―
オルドおじさん、もう閣下推してるじゃないですかwww スター夫人が瘴気根絶したらほのぼのしかない国にwww
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