26話 公爵夫人が男前すぎて強盗団がひれ伏すしかない 前編
王都へと旅を続けるエレディンとリカルダだが、身なりの良い二人はいいカモである。
ヘリンズ峠を根城とする大盗賊団が早速目を付けた。護衛もつけないボンボン二人、人質にすれば身代金ががっぽり入るだろう。
まさか狙ったのが一騎当千どころか人外の強さとは思っておらず、彼らは呑気に戦利品の山分けの相談をしていた。気が早い奴らである。
一方、狙われているエレディンたちは峠の茶屋で女将に忠告されていた。
「お客さん、やっぱり護衛を雇った方がいいですよ。見るからにお金もちそうなんだもの、狙われちゃうわ」
「教えてくれてありがとうございます。どうするエレディン?」
「リカルダが必要とするなら雇え。そこらへんの采配は俺にわからん」
エレディンがお茶を飲みながら答える。
自分が世間知らずなことを自覚しているのだ。
「魔王とかが100体出るんじゃなければ大丈夫だ。……まあ、それはそれで楽しいかな?」
「待て待て!! 魔王がそうポンポン出てこられてたまるか。平和なゼルフォリオン帝国を修羅の国にしないでくれ」
リカルダの軽口に真面目なエレディンが突っ込む。
二人旅をして思ったことだが、割とリカルダはバトルジャンキーの節がある。元いた傭兵団の影響かわからんが、最初出会った時のワイルドイケメンの顔が覗くのだ。
普段見ないギャップに素敵……となるほどエレディンは単純じゃない。
これ以上俺を嫁ポジションにしないでくれ。
エレディンはそっと嘆くのだった。
■
護衛を雇わないことを決めた二人だが、世間的に見てリカルダとエレディンの二人旅は心配だったらしい。
誰が呼んだか憲兵が護衛に来た。
「ヘリンズ領の憲兵隊長と以下、五名です!!お見知りおきを!!」
「お忍びの王子様ですよね! 大丈夫です!! 秘密は守ります!!」
「サインください!!」
「アホ! 今はそんなこと言っている場合じゃないだろ!後だ後!!」
憲兵といっても帝都から離れた田舎町のこと、『王子様の護衛』という華々しい職務に色めき立っている。
(確実に誤解されてるな)
(誤解されているなあ。ま、いっか)
エレディンとリカルダはそのままにすることにした。
なぜなら、彼らを納得させる労力が惜しいからである。
ロトランダの名前を出すのもありかもしれないが、『毒蛇公爵』の名前に腰を抜かされても困る。
エレディンは至って穏便に一般人として旅をしたいのだ。
「お気遣いありがとう。だが護衛はついているので大丈夫だよ」
にっこりとリカルダが笑って帰るよう促す。
「ですよね!!王子が単身で旅するわけないですもんね!!」
「でもでも俺らもなかなかやるんです!!」
「せめて荷物持ちだけでも!!」
「山を越えたところまででも!!」
めったにお目にかかれない貴人は彼らにとって大スターである。
食い下がる憲兵たちに折れ、護衛というか親衛隊というか荷物持ちがエレディンとリカルダの後をついていく。
なお、ロトランダから来た護衛は木々の影で
「羨ましいいい!!!! 俺たちが正真正銘の護衛なのにいい!!!」
と無音で悔しがっていた。
ただの追っかけだがそこはプロ、隠密部隊なので嫉妬するときも静かである。




