24話 公爵夫人が男前すぎてただのイケメン二人組になっている
ゼルフォリオン帝国では貴族の結婚に皇帝の許可がいる。
ロトランダも例外ではなく、許可を受けて結婚式を挙げた。
そしてもう一つ慣例なのが、帝都で社交界デビューをすることである。
年頃になれば地元でデビュタントパーティをするものだが、結婚して地位を得ると帝都の社交界に面通しする必要がある。そうやって人脈を作るのだが、あらゆる特権を持つロトランダはそんなものは必要ない。
そもそも帝都の社交界デビューもロトランダに限り免除されているくらいである。
エレディンは人前に出るのが嫌なタイプで面倒くさがりだ。
出席するつもりはなく、いつも通り書面で終わらせる気でいた。
しかし、
「リカルダ様のデビュタント!!!!絶対やりたい!!帝都の奴らに自慢したい!!」
「アレとかコレとか着て欲しい!!!」
「エレディン様も着飾りたい!!」
と使用人どころか家臣総出でお願いされた。
「嫌だ断る断固拒否だ!!」
仏頂面で一蹴するエレディンにちょっと残念そうなリカルダが呟く。
「そうか、残念だな。エレディンの正装をもう見たかった」
とても凛々しくてステキだから、と超絶イケメンフェイスで言われても複雑である。
きっとたぶん絶対リカルダの方が凛々しくてステキだ。
「……行くか」
エレディンが折れた。
惚れた弱みである。
「エレディンはそれでいいのか?」
気遣うリカルダは男前だ。
だが、エレディンにもかっこつけさせて欲しい。頼む。
リカルダがかっこよすぎて下手したら自分が嫁ポジションなんじゃないかと思ってしまうのだ。これはヤバイ。
「構わん。折角だから新婚旅行を兼ねて帝都に行こう」
エレディンは言った。
端正な顔、凛々しい目元。
エレディンもしっかりとした美男子である。
このシーンだけ切り取れば、クールで気高い孤高の公爵が愛妻にだけ見せる甘い顔である。
しかし、当の愛妻は彼よりイケメンだった。
「エレディンと旅行をしたいと思っていたからとても嬉しいよ。すぐに部下たちに仕事を割り振る。皆優秀だから問題ない」
テキパキ采配し、混乱させることなく進めていく。
超シゴデキのスーパーエリートである。負けた。
■
気になる出発メンバーはエレディンとリカルダ。そして遠くから見守る三十人の護衛である。護衛の必要性があるのかと聞かれればもちろんないが、
「リカルダ様の鍛練するところを見たい!!」
という隠密部隊の精鋭たちが立候補したのでつくことになった。
護衛という名の追っかけである。
貴族の旅は派手めの馬車で大層な行列になりがちだが、今回、徒歩とときどき辻馬車での旅だ。
リカルダが見てきた景色を見たいというエレディンのオーダーでこうなったのだが、一番驚いているのはエレディンである。
「まさか許諾されるとは思わなかった……!! 絶対反対されると思ってた!!」
公爵家当主がぶらり旅など許されるものなのかと言い出しっぺのエレディンの顔が引きつる。
しかし、モーリスや家臣たちはむしろイイ笑顔である。
「エレディン様がわがまま言って下さるのが嬉しいんです!!」
「それにリカルダ様がいらっしゃるなら世界で一番安全ですから!!何も心配してません!!」
極めつけは公爵夫人の一言、
「エレディン、何かあってもあなたは私が守るから安心してくれ」
男としてなんとも複雑な気分のエレディンである。
エレディンの魔力も相当なもなのだが、リカルダに色んな意味で勝てる気がしないので反論できない。
こうして二人の出発準備が進められ、ロトランダの端、バーリデンの町から発つことになった。
茶色のマント、大きな革袋。
普通の旅人の装いだが、騎士風の美青年と姿勢正しい細身の美青年、どこからどうみてもクールイケメンな大貴族と正統派イケメンの騎士に扮した王子様にしか見えない。
「エレディンは気品があるから服装を変えても貴族らしさは消えないな」
「……その言葉そっくり返す」
せっかくの旅だし夫婦として歩きたいのだが、女装したリカルダの美しさはまさに傾国だ。道行く男がリカルダを懸想することを思うとこれが最善だ。
モテすぎる伴侶を持つゆえの苦労である。
そしてこの二人を陰から見つめる男たちがいた。
「あれか」
「ああ、変装しているようだが間違いない。醸し出す雰囲気が王族のそれだ」
「たしかに。身分を隠して旅をする王子がカイラス殿下の他に居るはずないからな。もう一人は補佐官か? 殿下と並んでもそん色ないほど美形だな」
彼らはとある国の刺客である。
標的のカイラス王子は武術を極めるため身分を隠して諸国を旅している最中だった。そしてこの王子、『美形』で『武術の達人』なのである。キーワードだけ見ればリカルダとモロ被りだ。
そもそもリカルダは王子ではなく公爵夫人なのだが、常識人である彼らにわかるはずもなかった。
ちなみに彼らの気配はリカルダと護衛に気づかれていた。
(リカルダ様がどう料理するか楽しみだ!!)
護衛というか追っかけになった護衛達はわくわくする。
リカルダはというと、
(暗殺部隊かな? お行儀のいい所を見るとどこかの国のお抱えか。人違いだろうし、とりあえず放置でいいか)
と特に気にしない。
全員が一度にかかってきても瞬殺できる自信がある。
なお、魔力は高いが武術はてんでダメなエレディンは何も知らないのだった。




