おまけ ファルディス侯爵家の花嫁支度
ファルディス家の穴だらけの企みとエレディンの本音がうまい具合にかみ合い、ついにリカルダがロトランダに行くことになった。
「よしゃああああ!!!作戦成功したぞ!!!」
「オホホ!!これでリカルダは思いを遂げられますわね!!!」
「思い人が誰か知らないけれど、ロトランダに行けばこっちのものよ。リカルダに陥落しない人はいないわ!!」
絶大な自信である。
この時点で、リカルダの相手が誰か知らない。
契約書では毒蛇公爵と結婚とあるが、リカルダならうまいことやって見事思い人とゴールインするだろうという、行き当たりばったりの計画なのだ。
「お父さま、お母さま。衣装はどうしましょう?今ならどんな贅沢も思いのままですわ!!」
「そうだな。わたしがこの間作らせたドレスはどうだ? 贅を凝らして流行の最先端を行くぞ」
「まあオホホ。アナタのサイズはリカルダに合いませんことよ」
「リカルダに直接聞いてみればいいのでは?お相手のことも知れると思いますし」
ちなみにそれぞれのイメージ像は、
(清楚で理知的な女性かなあ。リカルダが見初めたなら平民でも素晴らしい女性に違いない)とフレナンド。
(フリルが似合う可愛いお嬢さんだったら嬉しいわあ)とナディール。
(可憐な方かしら?それとも華やかな方? どっちにしても着飾り甲斐はあるわね)とガルディア。
そしてそのイメージは現実にぶち壊される。
「口にすると恥ずかしいのですが、公爵閣下を好ましく思っています」
照れるリカルダというのも新鮮だ。
ジャケットにスラックス、貴公子リカルダが頬を染める姿に侍女が感極まって顔を覆ったほどである。
「な、なんだってー!!」
もちろん驚くフレナンド。
「そんなそんな!!悪名高い毒蛇公爵なのでしょう!!!?」
ガルディアが血相を変える。
「イヤアア!!! 絶対フリルが似合わないわっ!!!!」
とナディール。一人だけツッコミ所が違うが、律儀なリカルダはそれにちゃんと答える。
「フリルは似合うと思いますよ。人形のような美貌のお方ですし。黒髪と赤い瞳がエキゾチックですね」
リカルダはエレディンを思い浮かべて答える。
線が細く、中性的な容姿だ。本人の自覚がないだろうが、フリルで着飾ればそれこそ幻想的な美しい人形のようになるだろう。
「まあ!!」
ナディールのテンションが上がった。
「そ、そんなに綺麗な方なの?」
ガルディアは半信半疑で聞いた。
「ええ。とても綺麗な方です」
姿だけではなく心もだ。
気高く、清らかで美しい。
領民を守るためにすべてを捧げる彼をリカルダは尊敬している。
「ふーむ。リカルダがそこまで言うならそうなんだろうなあ」
あっさり認めるフレナンド。割と素直である。
「ですわね」
納得するガルディア。
切り替えの早い父娘である。
「黒髪!!赤い瞳!!どんなフリルが似合うかしらああ!!!」
一人テンション高いのはナディールである。さっそくエレディンに似合うドレスを仕立てにデザイナーを呼びつけた。
話はそこで終わらない。
ナディールはもう一人のモデル、リカルダに目を付けた。
凛々しい爽やかイケメン、間違いなくフリルが似合う。
「リカルダ!!あなたも着飾りましょう!!貴公子姿も最高に素敵だけど、絶対にフリルが似合うわ!!オホホホ!!」
「そ、そうね。お母さま!!毒蛇公爵を惚れさせましょう!完膚なきまでに!!!そうときまれば出し惜しみせずにドンドン買うわよ!! 豪華なドレス!! 貴重な宝石!! 毒蛇公爵をあっと驚かせるのよ!! ねえ、お父様!!」
「え、あ、うん」
フレナンドは流された。
娘と妻のテンションにまだついていけていいない。
そしてリカルダもガルディアの迫力に流されて着せ替え人形となった。
ガルディア、そして熟練の腕を持つリカルダ大好き侍女たちが目をギラギラさせながらリカルダを飾り立てる。
デザイナーは
「筆が止まらないわああ!!!あれも着せたいこれも着せたい!!!」
と感涙しながら何枚も書き続けるのだった。
なお、後に請求書を見てヘルムントが卒倒するのだった。




