18話 身代わり娘の婚約解消が影響力在りすぎる
当事者なのにすっかり蚊帳の外、借金をした張本人フレナンドが知らない間にすべてが終わっていた。
「ということで、ロトランダへの借金は全て返済し終わりました。ロトランダで支度が整い次第、リカルダ嬢が帰還なされます」
疲れ切っているが心ハレバレ、輝く顔のヘルムントが報告する。
「なんと!!」
「まあ!!」
「すごいわ!!」
深い所を突っ込まないのは家系らしい。
三人は良かった良かったと喜ぶだけだった。
「盛大にお祝いするぞ!! ……してもいいかヘルムント」
「問題ございませんフレナンド様」
「舞踏会で社交界にリカルダをお披露目しましょう!! ……構わないかしらヘルムント」
「どうぞお好きなようになさって下さいナディール様」
「リカルダの部屋を豪華にしたいわ!! ……いいかしらヘルムント」
「なんなりと発注して下さいガルディア様」
もはやヘルムントに伺いを立てるのが定着した一家はママに確認する子供のような目でヘルムントを見る。ロトランダ一の秀才が今やプロのお守りになっていた。
そしてキャンセル不可の商品(ドレスとか羽根とか)はそのままそれぞれの部屋へ置かれることになった。
「リカルダが戻ってくるなら必要ないなぁ。どこかに寄贈しよう」
「私もそうしますわ」
わりとあっさりしている父子である。
これまでの奮闘は全てリカルダのためだったんだなあとヘルムントはちょっと見直し、家族愛にホロリとくる。
「お母さまは?」
「えっ? わ、ワタクシ? オホホホッ!! そのうち寄贈しますわそのうちネッ!!」
声が裏返っているナディールにヘルムントだけは何かを察した。これは突っ込んだら負けである。ちなみにガルディアとフレナンドは特に気にせず、お祝いパーティの準備にキャッキャとはしゃいぐのであった。
■
そしてこちらはロトランダ。
エレディンの顔はヘルムントのように晴れ晴れである。
「これでようやく!! ようやく!! リカルダと婚約が解消できる!!なんとか間に合った!!!」
いきいきと輝くエレディンとは対照的に、モーリスとアデライドは下を向く。
「イヤアア!!! リカルダ様がいなくなるなんてイヤアア!!」
「うっ……、うううう……!! リカルダさまああ……!!!」
傲慢令嬢ズのエレナとマルテは発狂した。
「俺は認めねえ!! リカルダがロトランダからいなくなるなんて!!」
「団長、なんとかならないんですか。次の騎士団長はアイツしかいませんよ!!」
「……だよなぁ」
騎士団は大騒ぎでヴォルフは大暴れ、そしてそれを宥めるはずのエリオットも同調してホフドンはさらにやつれた。
「どうしましょうか各々方」
「リカルダ殿が殿方だったら娘婿にしているんですがなあ」
「さようさよう……実に勿体ない」
古だぬき……もとい臣下たちはしょんぼりする。
誰も息子の嫁にと言わないあたり、リカルダを女性扱いしていない古だぬき集団だった。
ちなみに嘆き悲しんでいるのは人間だけではなく、厩舎の馬たちや牛型モンスター、はてはドラゴンまで泣きわめいている。
珍獣すぎて帝都に行けないため、リカルダを乗せる馬車の馬を羨ましがるレベルだ。
「ギャオンオン!!」(訳:ドラゴンに生まれたことを悔やむ日が来ようとは……!!)
「ヒヒン、ブヒヒヒンヒンヒヒーンヒン」(訳:フッ。来世に期待するんだなあばよドラゴン野郎)
エレディンただ一人だけ、リカルダとの婚約解消を喜んでいるのだった。
ちなみに、リカルダは盗賊に攫われたレディを助けに山奥へ行っており、
「お助けいただいてありがとうございます。わたくし、リガアン子爵令嬢、ミエルと申しますわ」
「ご令嬢に怪我がなくて何よりです。美しいあなたをお助けできて光栄ですよ」
と騎士よりも騎士らしく、気品に溢れて優しく凛々しくお姫様抱っこするリカルダ。
盗賊から助け出されたミエルはハートをがっつりリカルダに盗まれたのだった。




