15話 身代わりに嫁がせた娘を助けるために 中編1
怒り心頭、怒髪天……とにかく怒り狂ったスーパーエリート改めカムチャッカファイヤーヘルムントはロトランダに協力要請をした。
黒幕を調べるには金も人手もいる。
ファルディスの財政は空っぽだし、スタッフは優秀だが、馬鹿正直で嘘が付けない真っすぐな人間たちなので諜報活動に向いていないのである。
「ヘルムントさんすみません!!俺、いまから演技の勉強して来ます!!」
「私も!」
「頑張って聞き込みできるようにします!!」
やる気はあるだけに惜しい。
真面目でいい子たちの心を折るのもなんだから、ヘルムントは自由にやらせることにした。どこぞの何某のせいでどうせヒマだし。
一方、ヘルムントからの知らせを受けたロトランダ城はエレディンが激高していた。
「なるほど……なるほどな。どこぞの何某のせいでロトランダ城にB級モンスターが住みついてランドリーサービスが充実して謎の技術で縫製房が効率アップして騎士団の士気が高まって……」
だんだんとエレディンの語尾が弱くなる。言っている最中でアレっとなった。ちなみに、ランドリーサービスは一大事業となり、冒険者や他領の騎士団からの依頼が舞い込んで笑いが止まらないくらいの儲けを叩き出している。
考えれば考えるほど、いいことづくめになっているのが怖い。
「……とにかく!! そいつのせいで俺は連日連夜、家臣たちから結婚コールを受けているんだな!!」
エレディンは言い直した。
一致団結した家臣たちの古だぬき連合から矢の催促を受け、エレディンは必死に抵抗している最中である。
「密偵をヘルムントに貸してやれ、資金も無制限にな!! どこぞの何某とやらにファルディス家に手を出したことを骨の髄まで反省させてやれ!!!!」
エレディンの怒りは半端ではなかった。まさに恐怖の公爵と呼ばれるにふさわしい冷たい瞳と低い声である。結婚を迫られているからの怒りにしては濃度が濃い。まるで『ファルディス侯爵家』のために怒っているようだなあとモーリスは思うのだが、本人は自覚がなさそうである。
また、この話はロトランダ城を駆け巡り、使用人たちはおろか、ロトランダ城に寝泊まりしている家臣たちの耳にも入った。
古だぬき連合は老獪であるが義理と人情を持っている。
「人を陥れるとは畜生道にも劣る振る舞い。断じて許せん!!」
「リカルダ殿は我々の救世主!!ご生家の危機を見て見ぬふりをするのは男が廃る!!」
「皆さん、我々もファルディスのために立ち上がりましょう!!」
ファルディスが借金を返済すればリカルダは戻ってしまうのだが、それはそれ、これはこれである。恩人家族のためならエンヤコラ、義理と人情、愛と正義の古だぬきたちだった。
そして今回の事件の黒幕……(自称)社交界の貴公子ダリオン・バーレング侯爵は虎の尾を踏んだとも知らず、豪華な屋敷で祝杯を挙げている。
紫の髪にチャームポイントは下まつげ、雰囲気イケメンの彼はファーテル商会の資料をにんまりとして見ていた。
「ふふ。ファーテル商会もそろそろ終わりだな。ロトランダの毒蛇が横やりを入れなければもっと早くに俺のものにできたものを。ハーハハハッ!!」
そう高笑いするダリオンであるが、彼の天下の終焉はすぐそこ、徒歩一分のところまで迫っていた。