14話 身代わりに嫁がせた娘を助けるために 前編
ところ変わってファルディス侯爵家。
ヘルムントが実権を握り、当主を差し置いてすべてを支配していた。
まるで乗っ取り行為だが実情は違う。ヘルムントだって仕事を増やしたくない。
それなのにハンコを手にしたのは、当主フレナンドは世間知らずのお坊ちゃま過ぎて、悪徳商人の最高のカモになってしまうのだ。鴨ネギどころか鍋とマロニーも背負っているフレナンドを守るため、ヘルムントが目を光らせているのである。
「その……新しいコルセットを買おうと思うのだが。商人が格安で売ってくれるといっていて!!」
「ダメです」
「あの……新しいヘッドドレスを買おうと思ってますの。私にぴったりでこれを着れば20年若返るって」
「ダメです」
「ねえ、新しいボディブレードを買おうと思っているのですけれど」
「……フレナンド様が使うなら許可しましょう」
世間知らず三人の監督の傍ら、ヘルムントはその傍らファーテル商会にも顔を出していた。ここさえ建て直せば借金は完済できてヘルムントはロトランダに戻れる。まさしく希望の光だ。
「ヘルムントさん、資料を作ってきました!!」
「ありがとう」
「バリー船団と交渉して来ました!!」
「すまないな」
ファーテル商会のスタッフは皆、真面目で気立ての良い働き者だった。
大声でツッコミを入れる必要もなく、理解不能の行動に胃がキリキリさせられることもない。まさに喉と胃、メンタルのオアシスである。
今まではトップが鴨ネギマロニーだったために彼らの本領が発揮できなかったに違いない。優秀な私とスタッフが揃えばすぐに業績の立て直しが可能だ。ヘルムントはガッツポーズを取った。
しかし、そううまくいかない。
「ヘルムントさん。運送事故でリガール商会に送った荷物がパァになりました……」
「レバス領へ送った荷物は海の底です……」
「……そういうときあるからな!!大丈夫大丈夫、保険に入っているから!!!」
ヘルムントの石橋を叩く性格が幸いして損はなんとか取り戻した。
だが、不運はそれにとどまらなかった。
「ヘルムントさん、バレール商会から取引解消の連絡が」
「クルンス船団からもです」
「デレンガ商会もです……」
さすがにこれは計算外である。
大口顧客が一斉にキャンセルとはかなりの打撃だ。
ここまで来ると何かがおかしい。
ヘルムントは資料を集めさせ、徹夜で読破した。
頻発する運送事故、連続する取引中止、粗悪な模倣品の流通に事実無根のデマ……。
ここまで揃うと偶然にしては出来過ぎている。
「誰かが背後にいるな」
ヘルムントの顔が険しくなる。
正義感もあるがそのうちの何割かは鬱憤である。どこぞの何某が余計なまねをしなければ今頃はロトランダで公爵様の右腕として優秀な頭脳を使っていたハズなのだ!!
ヘルムントは決めた。必ず真犯人を見つけ出してオーダードレス(フレナンドのサイズ。キャンセル不可)を纏わせ、ゆるふわロリロリヘッドドレスをつけさせ(ナディールが注文した一点もの、キャンセル不可)、豪華な羽(ガルディアが注文した30キロの羽、キャンセル不可)をつけさせようと心に決めた。もはや私怨である。
「待っていろ、どこぞの何某……!!今まで私が味わった苦渋、喉と胃の痛みを思い知らせてやるからな……!!」
のど飴を握り締めながら、ヘルムントはこの国のどこかにいる黒幕に向けて怒鳴った。