11話 身代わりに来た娘が最高すぎる 前編
ヘルムントがドレスや羽でギリギリ言っているころ、ロトランダ領ではリカルダが正式な騎士になっていた。類まれな才能を目の当たりにしたホフドンが暴走したためだ。
「あの才能!! あの剛腕!!そしてアイドル級の美貌!!ただの見習いで終わらせるには惜しい逸材です。どうか騎士として磨かせやって下さいませ!!!」
「アイドル級の美貌と騎士がどう関係あるのかわからんが、お前の熱意に免じて許可しよう」
特に断る理由も追いつかず、エレディンは承諾した。どうせロトランダ城から離れた場所であるし自分に関係ない。そう軽く考えていたのだが現実は甘くない。唐辛子のように激辛だった。
「公爵様!! ラバドー地方でモンスターの暴走が起こりました!!」
「至急、騎士団を向かわせろ! 住民の避難を怠るな!!」
エレディンが命令を下す。ここまでは今まで通りだ。
しかし、そこからが違った。
また一人、補佐官が駆け込んで来るのだ。
「続報でございます!! リカルダ騎士が一人で食い止め、住民を保護しました。被害はパニックになってずっこけた鶏一羽です」
エレディンは何とも言えない顔になった。人的被害がないのは喜ばしい。しかし、素直に喜べない自分がいる。
「おかしいだろ……!!報告を受けてすぐあとに鎮圧ってどう考えても人間業じゃないだろ……!!」
エレディンは理解不能な状況に頭を抱える。
「あ、それはですね。リカルダ殿の騎馬がドラゴンだからですよ。しかも早さと強さを兼ね添えるスピナレイ・ドラゴン!! 東大陸ではその偉大さから神龍と呼ばれるドラゴンでございます!!」
補佐官が答える。
「B級モンスターはまだしもS級モンスターがなんで馬になり下がるんだ!!!ドラゴンの矜持はないのか!!!!!!!」
エレディンはダンダンと拳で机を叩いた。公爵家の机としてセレブ生活を謳歌していたはずだが、最近は太鼓なみにダンダン叩かれている。机に自我があったらジョブチェンジしていたかもしれない。
「ドラゴンと言っても動物ですから強い奴になびくのではないでしょうか」
「モンスターは動物じゃないだろ!!!!!!人間を嫌い、蹂躙しまくる邪悪なものどもだろうが!!!」
「ところがですね、等級がどうだろうが生物学上では動物なのですよ。昔は分かれていたそうですが爬虫類が濃い魔素で進化したものというのが最近の論調ですね」
雑学知識は嫌いではないがこんなときに仕入れたくなかった。
エレディンは補佐官を追い出しぐったりと項垂れた。
病的に白かった肌は健康的に、目の下のクマはなくなっている。リカルダに翻弄されている今の方が健康になっているなあと執事モーリスは思うのである。