肉と奴隷
ダンジョン二層目。特に階段とかがあるわけじゃないが魔物の分布が大きく異なるのでそう呼ばれている。
1層はただの入口、スライムとネズミくらいしか出ない。だが2層になると噛みついてくるコウモリ、転がってくるダンゴムシ、壁を這うデカいムカデの魔物が出てくる。後ゴブリンもだな。戦闘を生業とする者の登竜門なわけだが。
「スターライトシュート!」
『ヂュウゥ!』
指先から発射された光線が大鼠の体を容易く貫通する!
「スターライトシュート・ダブル!」
『ミュウ!』
飛んでくるコウモリ達にもバシバシ当たる。照準はイメージなのでブレ無し、弾速は光速なので避けられることもない。マジで最強だぜ!
「スターライトShoooooooooot!!」
俺はノリノリで魔物を倒していた。
なんたって指を向けて適当に技名を叫べばバタバタ倒れているんだもの、今まで苦労してたのとは大違いだぜ!
しかし2層にしたのは失敗だな、もっと奥に行くべきだった。
遠距離から一撃で倒せるのに、倒した魔物から魔石をほじくり出すのに時間がかかってしまってる。もっと大きな魔石を狙って荷物持ち兼雑用係を使った方が効率的だろう。強大な魔物ほど魔石も大きいし、体の部位も売れるので給料分も稼げる。
「でもなぁ、手の内は見せたくないんだよなぁ」
現れた魔物を撃ち抜きながら考える。この攻撃を見ても魔法使いとしか思われないだろうけど、一緒に行動していれば新しい文珠を握り込む所を見られるのは避けられない。なにより毎回技名を口にする必要があるのが分かってしまうだろう。
信頼出来る仲間か。それってどこに売ってるんですかね?
まぁ明日考えよう、明日は装備を整えるのと何処か宿屋に拠点を移すつもりだ。ついでに冒険者ギルドで斡旋されてるのを確認してみるかな。
この日の稼ぎは2層の小さな魔石が130個で終わった。文珠は残ってるんだが魔石を出すのに時間がかかりすぎるよ。
「え~んやこら!おっこいしょ~!」
クッソ育っている薬草を頑張って引き抜いて持ってきた。周りの連中も何やってんだって目で見てやがる。
ただの草なんだが肉厚で重いんだよ、これで買取不可とか言われたら夜中に壁に穴空けてやる。
ダンジョンでの収穫物は入口近くにある冒険者ギルドの買取所で売るのが基本だ。他所で売ってもいいって事にはなってるんだが、目をつけられて碌な事にならないって噂。
ギルドの館内は人でいっぱいだった。採集物用の買取窓口に並んだがでっかい草を抱えているせいでジロジロ見られて困るぜ。
「次の方どうぞ~」
やっと順番が回ってきた。受付の姉ちゃんが俺を呼んでいるが、その目はうぜぇ客を見る目だ。まぁ気持ちは分からんでもない。
「薬草買い取りお願いしま~す」
「えぇぇ?あの、薬草というのはもっと小さい物ですよ?こんなの見たこと無いです。適当に持ってこられても困ります」
「ちゃんと薬効のあるやつですよ。俺は薬師なので保証します」
「はぁそうですか。それじゃあ登録証の提示をお願いします、一応調べますね」
薬師を騙ったら窓口のねえちゃんは一応対応する気になったのか奥に引っ込んでいった。この素晴らしい薬効が分かんねぇのかよ、俺には分かんねぇけど【癒】がいっぱい出るんだからきっと何かに使えるはずだ。知らんけど。
姉ちゃんはおっさんを連れてすぐに戻ってきた。
「トトナさんこれですか。確かに随分大きいですね」
「はい、ただの草だと思いますけど一応鑑定をお願いします」
失礼な姉ちゃんだ、おっさんだったら文句の一つも言ってやるんだが姉ちゃんは苦手である。ふん、命拾いしたな。
「こ、これは!君がこれを持ってきたのか!?どこでこれを!?」
「ダンジョン内に普通に生えてたよ。1層の人が通らないトコ」
ナチュラルに嘘をついた。限界生活してる孤児を舐めるなよ。
「そ、そんな所に!?とにかくこれは買い取ろう。君、そこに案内できるかい?」
「もう全部取っちゃったので残ってない。でも今まで何度か見かけたから探せばあるかも?」
嘘である。だが人には希望は必要だろう?探せ!そこには何も置いてきてないが!後ろで聞き耳を立てていた男がすっ飛んで行ったのが笑える。まぁ気が向いたらまた土を撒いておくか。
おっさんは色々と聞き出そうとしてくるが全部適当に答えた。そんなに興奮するほどの物か?んじゃ高く買い取ってくれよな。
「こちらが買取金です。それと、新種の発見が認められたら冒険者ランクが上がりますので明日また来てもらえますか。私、トトナの窓口にお願いします」
渡されたのは小さな袋だ。高額買取の場合には金を見せないように袋で渡されると聞いた事がある、これってそゆこと?期待していいの?
「わかりました。夕方くらいに来ます」
顔がニヤけるのを堪えてクールに退出した。途中で転んだがそれくらいよくあることさ。
建物を出てから急いで袋を確認すると中には大きな銀貨が5枚。これって大銀貨だよな?初めて見たぁ。
大銀貨1枚は銀貨10枚相当、つまり銅貨1000枚分でありパン1000個分だ!
「大金持ちキタァァァ!!!」
思わず叫んでしまったのは仕方ない。ルンルン気分でスキップしながら小熊のアトリエに向かった。
「おやじぃ!飯だ!肉を焼いてくれ!」
「誰が親父だ馬鹿野郎!」
今日も威勢のいいおっさんだ、気分がいいね。
「お客さんまた来てくれたんだね。もしかしてお金持ち?」
「いやぁそうでもないんスけど、最近冒険が上手く行っててですねハイ」
「へぇ、まだ若いのに冒険者なんだ。それで成功してるなんて凄いネ!」
バチィン!!ウィンクご馳走様です!
料理が来るまでの間、チップってどうやって渡せばいいんだろうかと悩んでいた。だって渡したことがないんだもの。こういうのをスマートに決めるかっこいい大人になりたい。
「おまちぃ!今日はベーコンのスープとパン、チリビーンズ、ハーブティーね。それとご注文の肉、燻製ソーセージのグリルね。大銅貨3枚だよ」
大きなソーセージが焼かれたアチアチのプレート!もうたまらねぇぜ!
「うぉぉぉ!うまそォォ!ありがとうございます!」
「お客さん、まだ行けるならベリーを絞ったジュースとミートパイでもどう?」
「あ、はい!お願いします!」
「かしこまり~」
お姉さんは料理を置いて下がっていった。しまったチップを渡せなかったな、やっぱ難しい。
「いた~だき~ます!」
迷いなくメインのソーセージに齧り付く!パリパリに焼けた皮を裂いて飛び出す肉汁!あっつぁぁぁ!!でもうみゃぁぁい!
数日前まで硬いパン一つで喜んでたのに今じゃこんな美味いものが食える!これも文珠のお陰だ、俺はこいつを大事に育てていくぜ。
「いい食べっぷりだねぇ。はいミートパイとベリージュース、大銅貨一枚ね」
よし今だ!チップを渡すぞ!
「ありがとうございます。あ、これチップです」
大銅貨1枚を支払い、チップとしてもう一枚つけた。多いのか少ないのか適正な額が分からん。
「あらありがとう。ホントに羽振りがいいんだね」
「仲間がいたらもっと稼げるんですけどね、知り合いが少なくて信頼できる相手がいないんですよ」
「ふーん、だったら奴隷とかいいんじゃない?」
「奴隷……奴隷か」
自分が奴隷にされた時はすぐに自力開放したが、普通は無理なんだろうな。ずっとあの状態というのは流石に可哀想だが、命令したら行動が縛れるというのは俺にとって物凄く大事な事だ。
「もしその気があるならさ、私の知り合いにしない?きっと真面目に働くよ」
「え?」
お姉さんは少し笑いながら、でも真剣な目で提案してきた。
それよりお姉さんがいいですとは流石に言えなかった。