影花
謎の進化を遂げた薬草を引っこ抜いて冒険者ギルドにやってきた。さっさと渡して昼飯にしたいのに、鑑定のおじさんが来なくて待たされている。
でっかい薬草を抱えているのは目立つのでせめて預かってくれんものか。
薬草は灰珠で大きく成長し、青珠で謎の花を咲かせた。もっと進めると少女が生えてきたりしそうで怖い。高く売れるならここで止めておこう。
「あの、すごくお腹空きました」
「ん?あぁもう昼だしな。話が終わったら飯にしよう」
「倒れそうです」
「んお?」
よく見ると顔が青いか?妹もかなりきつそうだ。朝は少なめだったけどちゃんと肉食ったのにな。
「うぅっ……」
「仕方ない、こっそり食えよ」
比較的匂いが抑えられると考えてビーフジャーキーを渡すと、二人共植えた獣のように貪りついた。
「そんなに腹減ってたのか、朝も足りなかったならちゃんと言え」
「ふぅっふぅっ、さっきまで平気だったんです。薬草を抜いてここまでの間に急にお腹が空いちゃって」
ふむ、燃費が悪いな。これって埋め込んだ文珠の影響か?人に埋め込んだ文珠は人のエネルギーを使って効果が維持される。となると、そのエネルギーの源は食事になるよな。力を発揮したことでエネルギーが奪われ、飢餓感として現れたのか。
あまり健全な事ではないな。無意識で使わせるのは危険か?こいつらが逃げないなら【縛】だけでも抜いておくべきかもしれない。
「ポールさ~ん!窓口までお願いしま~す」
「いくぞ、食ってていいから」
「今回は更にすごそうですね」
「凄いなんてものじゃない!とんでもないエネルギーを持っています!これがもっと手に入ればっ!」
「それについて話がある。どこかで話せないか」
「相談用の部屋がありますよ。奥にどうぞ」
通されたのは何とか10人ほどが座れそうな部屋。会議室かな。俺は受けたことが無いが、ダンジョン外の依頼だと打ち合わせに使うらしい。
「それでは早速鑑定を!」
「さっさと頼む。トトリさん、悪いけど水かお茶貰えますか」
「トトナです。少々お待ちを」
よし、おっさんは鑑定に集中してるし今だな。一応懐から出すふりをしてホットドッグを出して渡してやる。懐からホットドッグなんて完全に変人だが仕方ない。
肉の塊であるフランクフルトの方が効率がいいんだが、栄養が偏るからなぁ。ガキにはまともな物を食わさなきゃならん。俺もまだガキだし。
「ありがとうございます!」
「ざす」
落ち着いて食えよ。
結局がっついていたので、トトリさんが戻ってくる前に食い終わっていた。おっさんに気づいた気配もない。ちゃんと使える金を作って飯の事も考えないとな。
「鑑定が出来ました。品種自体はやはりあのダンジョンで自生している普通の薬草です。とても大きく薬効も高い。しかしこの花は違います!この花は影花!森のエルフ族から極少量しか譲られない希少な花薬です!」
「ほーん、それでいくらで買うんだ?」
「金貨1枚出しましょう。それだけの価値があるんです」
「あぁ?お前俺が薬師なの忘れてるだろ?」
「……金貨2枚。それが限界です。価値が高くても買い手がいません」
「まぁ、仕方ないか」
まじ?こんな育ち過ぎた雑草みたいなのに金貨2枚?前世の価値観で言えば200万円相当だぞ!
うひょぉぉぉ!やったぜ!これはチートですわ!大商人ポール様誕生の瞬間ですわ!
「そ、それで!これはいったいどこで!?」
「あぁ、ダンジョンで生えている薬草を石で包んで光が入らない状態で育成するんだ。勿論肥料や包み方には繊細な管理が必要だが、それは自分で調べろ」
「な、なるほど!光を当てずに育てるのか!これを発表すれば私も……!」
トトリの姉ちゃんがまたアチャーって顔してるよ。簡単に教えるって事はこれだけ知ってもどうにもならないんだよ。核心情報をタダで教える馬鹿がいるか。
「そっちはもういいな。トトリさん、相談があるんですよ。町で家を買うか借りるかしたいんですけど、この情報と引き換えにギルドの紹介状とか貰えませんか」
「えぇ、問題ないと思います。薬師としての収入も安定しそうですしね。ちょうどギルドで抱えている物件もあるのでよかったら見てください。どういう物件をお探しですか?」
「畑に出来る広い庭は絶対に欲しいです。後は作業が出来る様な場所があるといいですね。アトリエみたいな、トトリさんのアトリエみたいな」
「トトナです」