【土】の可能性
「家っていうけどさ、冒険者の住宅事情は厳しいんだよ?」
「それは借りる場合だろ、それに俺は冒険者でもあり薬師でもあるんだ」
「え?薬師?魔法使いで冒険者で薬師なの?」
「まぁな。とりあえず金をやるから三人でなんか食って帰っとけ」
考えが浮かんだので再度ダンジョンへ、1層を歩き回って人目につかない所に生えた薬草を見つけた。
そこに【土】青珠を使って柔らかく栄養豊富で薬草の育成にピッタリな土を出して撒いておく。前回は灰珠でも異常生育したからな、青珠なら目ん玉飛び出すんじゃないか?
更に【石】を使って見つからない様に偽装しておいた。これで明日には超促成薬草が誕生するというわけだ。
にんまりと笑顔を浮かべて帰った。笑顔って人を幸せにするんだぜ。
「おかえり、今日もここで寝るの?」
「他にどこで寝るんだよ」
「あのさ、すごく申し訳ないんだけど、少し分けてくれない?体を洗って着替えたくて」
「あぁ、そう言えば脱出してからずっとそのままだな。そこの川に行ってきていいぞ」
「えぇ?流石にそれは……。今日は結構歩いたしさ」
これだからイケメン様はよぉ!モグラ兄弟は文句も言わずに寝てるぞ?
「わかったよ、銀貨3枚でいいな。明日は昼頃にギルドにいればいい。嫌なら来なくてもいいぞ」
「行くよ!ごめんねありがとう、また明日」
その日の深夜。
「う、うわぁぁ!ママァ!」
「どうした!落ち着け」
「いやぁぁぁ!パパァ!ママァ!いやぁぁぁぁぁ!」
「大丈夫だ、落ち着け。俺が守ってやる」
「………」
「………」
「これでいいですか?」
「なんか違うな。妹の方は出来ないのか?」
「ちょっと無理そうです」
「……寝るか」
「はい」
今度はもっと精神的に弱った奴隷を見つけようと思う。
翌朝。
「ふあぁぁぁ。朝はトーストとコーヒーが欲しいぜ」
「それはお肉みたいに出せないんですか?」
うーむ。コーヒーは豆から出せそうだな。焙煎済みで砕いやつなら簡単なのか?本格的なコーヒーの作り方なんて知らないな。
トーストは絶望的だ。トーストに近い文字ってあるか?食で食糧全般と解釈するくらいなら行けるかも?大分ロスが大きそうだな。
「まぁ、とにかく今朝は肉だ、肉しか無い。晩には何か美味い物を食おうな」
「肉で十分美味しいです」
「まぁな」
【肉】からフランクフルトを作って2人に渡した。青珠を利用しているが、出す物のエネルギーが小さい場合にはエネルギーが減って色が変わるだけに自動調整されるので便利だ。俺も食べよう、俺はアメリカンドッグにしとこうかな、アメリカンドッグ……。
びしゃぁぁん!
俺に天啓が走る!フランクフルトが出るならアメリカンドッグが出てもいいしホットドッグが出てもいいだろう!いやきっと出るはずだ!
「ホットドッグだ!刻んだレタスと新鮮玉ねぎがミチミチに詰まったやつ!ケチャップとマスタードもな!来ぉぉい!」
握りしめた文珠が形を変える!一瞬の後に現れたそれは!
「ホットドッグだ!パン!野菜!ソース!グッド!」
うみゃ~~!肉から野菜が出たぞぉ!!
食べ終わって落ち着いた。
ホットドッグは青珠一つを使い切ってやっと1人前しか出なかった。
考えてみると過去の結果と大差無いな。足りない物を別のエネルギーで補った感じだ。肉のスパイスに変化させているのと同じだろう。
寝ぼけてテンションが上っていたようだ。モグラ兄弟の視線が今日も痛いぜ。
「ビーフジャーキーよ出ろ。ほら、これでもオヤツにしとけ。ダンジョン行くぞ」
「わーい!」
今日も朝からダンジョン。主に肉の確保と魔石集めだ。そろそろ文珠さん成長してもいいんじゃないですか。
昼頃まで粘ったが変化はなかった。
そして今、俺達の目の前には狭い岩の間に押し込められた謎の薬草がある。
成長を阻害され、逃げ場を求めた末に球体と化した薬草の束。その隙間から見える中心には白い花が咲いているのが見える。
「え~んやこら!どっこいせ~!頑張れ二人共!引っこ抜けー!」
「ふおぉぉぉぉぉ!」
「……!……!」
【土】は生産チート、俺は初めて見た時から確信していたぜ。