ただの強盗です
「奴隷が居るのは地下だったな。見張りはいるのか?」
「うん。地下は牢屋になってて、常に二人が番をしてるんだ」
うーん、やっちまうか。攻撃手段が限られていて手加減が難しい、静かに無力化する手段がないんだ。
スターライトシュートで肺を撃ち抜いて、【縛】を入れてから【癒】を使ってやればいいだろう。
【眠】なんて物があったらよかったなと今更考えてしまう。【隠】とか、【奪】とか、必要になってからいろんな物が浮かぶんだ。きっとそれらも日常のどこかで手に入ったんじゃないか?
この能力を活かすためには自由な発想で沢山の文珠を集める必要がある。戻ったらもっと開発を進めよう。
「ここから地下に降りるんだ。降りたらすぐに見張りがいるはず、僕が先行しようか?」
「いいから後ろにいろ、今は俺が必ず守ってやる。お前は速やかに違法な奴隷を説得するんだ、それ以外の奴隷は放置するからその綺麗な顔を隠せ」
「う、うん。頼りにしてるよ」
目を伏せて顔を赤らめるな!気色悪い、ぶん殴るぞてめぇ!
足音を殺してゆっくりと階段を降りていった。下からはランプの光が漏れて、影が揺れているのが見える。
(なんだ?ここでもお楽しみか?)
(また子供たちが殴られているのかもしれない!)
子供?あぁ孤児や狩った獣人は表では売れないと言っていたな。特別なルートに流して、売れ残りはストレス発散と見せしめってわけか。
気を張って降りたのに拍子抜けだな。二人だけのようだし、さっさと進めよう。
「おい」
「なっ!なんだてめぇは!」
「捕まえろ!」
「おせぇよ。スターライトシュート」
チュン!
両手に構えた指鉄砲から光が奔り、男たちは声も上げられずに腹を抑えて倒れ込んだ。やはり人間相手なら圧倒的だな。
「す、すごい……、何の魔法なの?」
「言っただろ、奴隷と話をつけろ」
倒れた男達に【縛】青珠を二個ずつ埋め込んだ。これで無力化は成功だ。
肺に穴が空いたのでかなり苦しそうだが、スターライトシュートの貫通跡は小さくて焼かれているので出血は少ない。脱出前に治療すればいいだろう。
「ガキは平気か?」
「なんとか生きてはいるけど……」
なんだ、ボロボロじゃないか。だが意識がないのは楽でいい。
「運ぶのが面倒だな、二人担げるか?」
「1人なら何とか」
うぅむ、これだから線の細いイケメンは。そうだ、思いついた事があるのでこいつで実験してやろう。
「ちょっと後ろ向いてろ」
「いやし」
二人の見張りを癒やしてやる。【縛】の効果で声の出せない二人は目を見開いて自分の状態を確認していた。慈悲をくれやるわけじゃなくて、怪我を放置したら実験の途中に死なれそうでな。
「まずは知だ」
ぽこぽこと生まれる【知】の文珠。こいつらは元から少なそうなので青珠3個で止めておいた。
「次は力」
こちらは全く加減がわからない。魔物で試せばいいし、青珠一つ分にしておこうかな。
知と力を抜かれた男は虚ろな目で床に転がっている。それを見て震える男の腕に【力】の青珠を埋めてやった。
「この男を持ち上げてみろ、片手でいけるか?」
「そ、そんなこと……、ええっ!?」
「よさそうだな。よし、ご苦労」
こっちの男にも同じ処置をして【縛】も抜き出しておいた。
「何をしてるの?」
「後で問題にならないようにちょっと仕掛けをな、それより肩に触るぞ」
ノアの肩に触れて【力】を一つ埋めてやった。ぷにぷにじゃねぇか、もっと筋肉をつけろ。いや力は付いたか。
「脱出するぞ、二人を抱えてこい」
「ま、まってよ、二人は流石に…えぇ!?軽ぅ!」
ノアに二人を抱えさせて脱出だ。俺?俺は金貨袋を持ってるからな、絶対離さねぇからなぁ!
「待ってくれ!俺達も助けてくれよ!」
「ほらよ」
見張りの持っていた鍵束をくれてやった。これ以上は知らねぇ。
俺は正義の使者でも奴隷解放運動家でもねぇんだ。欲しいものを掻っ払いに来ただけのこと。まだ騒ぎにはなってないし、脱出出来る可能性もあるんじゃね?
「行くぞ、早く治療しないと手遅れになるかもしれない」
「わ、わかったよ」
階段を上がり、適当な石壁を崩して外に出た。
「あ~終わった終わった」
「だ、大丈夫なのかな?」
大丈夫なわけあるか。奴隷たちの始末もしてないんだから真面目に捜査すれば俺達に行き付く可能性はある。だが知らね、俺は河原で暮らす孤児だぜ、危なくなれば他に流れていくだけだ。
「僕、これからどうしよう……」
「とりあえず俺の家に来い。お前は俺の奴隷って事になってるし、そいつらも治療しないとな」
「う、うん」
だから顔を赤らめるんじゃねぇよ!
河原にひっそりと佇む我が家に案内されたノアの顔は、今日唯一の腹から笑える面白いものだった。