正義と悪
待ち合わせの為に小熊のアトリエに来た。が、今日は懐がスカスカなのだ。
「ちょっと待ち合わせに使わせてくれ、悪いな」
真面目な顔をして腕組して待つ。まるで真剣な話合いの前に集中しているので何も口にしないという態度を醸し出して誤魔化すんだ。本当はすごくお腹減ってます。
早く来いぶちのめすぞ。
客も入れ替わり、占有しているのが気まずい感じになってきた所でようやく男が参上した。
「遅い。ペナルティ1だ」
「くっ!俺は奴隷なんだ!多少の要望は出来るが勝手に出歩く事はできない」
ふ~ん。今からお話しをするのに制限は邪魔だな。
「お前ちょっと動くなよ」
後ろに回って背中に手を当てて【縛】を抜き出していく。前回と同じく青珠2個分が出たところで止まった。
「開放したぞ、試してみろ」
「は?そんな簡単に出来るわけが……出来てる!?」
ちょろいちょろい、何かを作るより抜き出す方がずっと簡単だ。
不思議だよな、【縛】は俺がイメージしただけなのに奴隷化の魔法自体が解除される。たぶん【呪】とかでも同じ効果が出ると思う。
「どうして俺が自由なのか分かっただろう。嬉しいか?俺は優しいだろう?そしてこれはあの時の落とし前だ。『傀儡の術』」
抜き出した【縛】をそのまま体に埋め込んでやる。イメージするのは『行動を縛る。俺の命令に逆らえない』だ。
「な、なにをした!」
「口を閉じて静かに座れ」
命令通りに静かになる男。いいね、ちゃんと効いてるじゃないか。
「心配するな、お前には興味が無いんだ。話を聞いたら開放してやるよ」
文珠の効果がどれだけ続くか分からないからな。最初から開放する気でしたよという事にしておこう。
「それでお前、なぜあんな仕事をした。あいつらは大して金も持ってなかっただろう」
「そ、それは……」
「今すぐ死にたいか?さっさと喋れ、嘘は言うな」
「くっ、わかった。あいつらは奴隷商の仕事を受けていた連中だ。孤児や旅人を攫って奴隷にしている。俺は借金奴隷で断れなくて、何人も違法な奴隷紋を刻んだんだ。それで、なし崩しに断れなくなって……」
「あいつらが連れてきた俺にも同じことをした訳か」
「………」
ふむ。……………イエーーイ!やっぱり悪い奴隷商だったぜ!そうだよなぁ!大体奴隷商なんて悪いやつなんだよ!いやそれでこそ奴隷商だな。正しい悪の奴隷商!
「それで、他にはどんな悪さをしてるんだ?洗いざらい吐いて楽になれ。な?新しい人生の為に吐き捨てていくんだよ」
「あぁ。違法な奴隷なんてまともに売れないから、罠を使って借金を作らせて奴隷にするんだ。お前たちが呼びつけていた奴隷もそうだ、高額な契約をした上で失敗させて借金を負わせる。みんなグルさ」
ありそうな話だな、大きな儲け話に乗らせてからハシゴを外すんだよ。ナ◯ワ金◯道で見た。
「あとは、期限付きの奴隷を適当な理由で期限を延ばしたりさ。警備兵とはベッタリだからやりたい放題、それで随分溜め込んでるみたいだ」
これはもう何をやっても許されるな。てってれー!ポールは免罪符を手に入れた!
「そうかそうか充分だ。それでお前の事だが、もう消えろ」
「は?」
「開放してやる。だが奴隷商のところには戻るな。このまま他の町に行くんだ」
「いいのか?わかった!恩に着る!」
「おっとその前に座って目を瞑って腕を組んでろ」
男の背中に手を当てて【縛】を吸い出していく。ぽこぽこで出てくる文珠を合成していくんだが、何故か青珠2個と黒珠2個が生まれた。ほわい?
「いいぞ、いけ」
「じゃあな!」
男は大喜びで去っていくが今はそれどころじゃない。
なぜ増えた?ここまでの経験を振り返ってみよう。
【石】から石槍とかただの石を作り出して再び【石】に戻す時は等価だ。
【光】は完全に使い捨て。いくらでも取れるし。
【癒】も効果を発揮して消えた。
【肉】の時はソーセージ→【肉】×3→小さいソーセージ→【肉】×1となった。
【熱】はボロ布に埋め込んで翌日には消えた。
あぁそれと【木】は生み出してからすぐ元に戻したがアレから変化ないな。
これらから考えると、【石】などは状態が変化するだけでそのまま増減しない。【光】【熱】はエネルギーを消費して消えてしまう。【肉】は純粋に肉だけでは無いのが問題なんだろう、焼かれて熱いやつをイメージしたからな。
【縛】は効果を発していた。だから減るはずだ。だが増えた、何が足されたんだ?縛りが残ってた?別の力が?
そうかエネルギーだ!アイツ自身のエネルギーを消費して【縛】の効果が発揮された。奴隷紋もきっと同じはずだ、だから一度刻むだけで効果が続くんだ。布に付与された文珠はエネルギーを使い果たしたが、生物に刻めば生物自身のエネルギーで動き続ける。
生物に刻む文珠!これは新しい使い方を練習しないとなぁ!
待ってろよ悪徳奴隷商!正義の文珠使い様がお前たちに本物の悪じゃなかった正義を見せてやるぜ。