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どっちもどっち

「こちらで間違い無いようですね。ポール様、いかがでしょうか」

 いかがも何もねぇ、ギャン萎えですよ。

 しかしまぁ、アリサお姉さんの大切な人なんだろうよ。食堂でちょっと羽振りがよかっただけの俺に声をかけるほどだ、必死だったんだろう。もしかしたら今日ここで最後に会う事が目的だったのかもしれん。


「問題ないようだ。それで?」

「はっ、こちらの奴隷は金貨8枚となっております」

「8枚?随分高くないか?」

「はい、主人の値付けでございます」

 おちょくってんのか?男一人が金貨8枚?前世で言うハイクラスの高級外車じゃねぇか。


「予算を超えているな、取り置きは可能か?」

「こちらは既に数件のお声がけがありまして、今決めていただかなければ約束出来かねます」

 嘘くせぇ、高すぎんだろうがよ。他に買う奴がいるなら一見の客に見せねぇはずだ。

 アリサお姉さんはノアって奴に抱きついてるし、商人はボッてくるし、イライラしてきたんだが?こいつこっそり奴隷解放してやろうか。



 アリサお姉さんの方に目をやると、奥に立っている店の男が俺の動きに合わせて顔を逸らした。

 んー?こいつノアって奴の後ろについて入ってきたやつだよな?なんで顔を逸らす?ノアに近付く振りをして男を観察する、必死に床を凝視しているがそこには何もないぜ?俺の方が身長が低いので近づくと顔が見えた。

 あ、こいつあれだ、俺に奴隷紋刻んだやつだ。間違いねぇ。

 男の顔に冷やせが浮かびだした、俺が気づいた事に気づいたな。馬鹿なやつだ、そんな態度じゃマズイ事をやりましたと自白してるようなもんだぜ。


「後ろのあの男も奴隷なのか?」

「はい。ですがあの者は内で働かせております」

「ふぅん」

 あの時には既に奴隷だったのか?とにかくこいつはいい所に居てくれたもんだぜ。

 顔を寄せて小声で伝える。

(晩飯時に抜け出して小熊のアトリエという店に来い。奴隷だからって来れなかったら、死なせてくださいと懇願するようにしてやるぜ。だが話し次第では開放してやる)

 これだけ伝えりゃいい。ダメ元だしな。



「分かった買おう、だが支払いは明日だ。今日は購入までするつもりは無かったんでな」

「ありがとうございます」

「ポール!ありがとう!ありがとう!」

 他の男に抱き着きながらお礼を言うのは違うくね?やるせねぇよ。


「手付も無いんだが、明日の昼までなら小遣いの銀貨5枚で抑えてもらえるか」

「手付金は1割と決まっているのですが…」

「明日の昼までだ。どうせそれまでにもっと高く買う客など現れないだろう。返却しなくていいのでこれで収めろ」

「……かしこまりました」

「では覚書を」

 商人は一旦退出した。この店構えでは銀貨5枚なんてあいつが懐に入れて一晩で使っちまいそうだな。



「ポール、本当にお金持ちのお坊ちゃんだったんだ。それが冒険者をやってるとはね」

「そうですね。冒険者なんてやってたら色々ありますけど楽しいですよ。本当にいろいろね」

 チラ…チラ…、男に視線をやるとアタフタしてて面白い。もっと遊んだろ。


「ところでノアさんは借金で奴隷になったそうですが、拐ったり騙して無理やり奴隷にしたらどうなるんでしたっけ?」

「え?そりゃあ首を落とされると思うけど」

「ふむふむ。やっぱりその前には拷問とかもあるんでしょうね」

「そうだねぇ。集められて処刑を見に行った事があるけど、みんな痩せ細ってボロボロの体だったよ」

「なぁるほどぉ」

 汗を垂らしてビクンビクンと震えだす男。大人の癖にちょっとは我慢できねぇのか。



「お待たせしました。簡易な覚書ですがサインをお願いします」

 契約書ではなく、少ないけど手付を受け取ったので明日の正午までは取り置きますよという覚書だ。ちゃんとした紙にその内容が書かれている。二枚あるそれをしっかりと確認して両方にお互いをサインをして終わり。

「じゃあアリサさん、俺は金を作って来ないと駄目なんで帰りましょう」

「うん。ノア、明日には開放されるからね」

 だからそれやめれ。




 店を出たところでアリサお姉さんとは別れた。


 明日の為の金?そんなもんあるわけが無い、後は行き当たりばったりだ。

 あの男は違法に奴隷化をしていたんだろうから、そこから突けばきっと奴隷商の闇の部分が聞けるんじゃね?そしたら後は簡単だ、悪いやつからは掻っ払う!

 悪の奴隷商人に金を払ってどうするんだよ、その金でもっと悪いことをするに決まってんだろ。俺はもっと真っ直ぐ行くよ、掻っぱいでやる。


 もしも奴隷商が悪いやつじゃなかったら?その時はしょうがねぇ、俺が悪いやつになるだけだ。

 世の中は理不尽に満ちている。奴隷になった連中の中にも誰かに騙されたり運が悪くて持ち崩した者がいるだろう。その不幸が奴隷商にも降り掛かるだけさ。

 いつか俺のトコにも降り掛かるだろうから先に振り掛けておいて帳尻を合わせよう。俺はスラム出身の孤児だ、綺麗事を抜かす趣味は無い。






 そっちは放っておいてギルドへ行こう。昨日の薬草の調査次第でランクを上げてくれるって言ってたな。

 今は見習いのGランクだからなぁ、ここはFを飛ばしてEにしてもらいたいぜ。


 Gランクってのは15歳未満で戦闘能力が無い登録者のクラスだ。特筆する特技も無い見習い。


 Fランクが正会員。年齢を満たすかそれと同等の能力が認められた者のクラス。まぁ駆け出しだな。


 Eランクがちゃんとした冒険者の底辺。兼業でお使い稼ぎをやってたりするのがここに多い。


 Dランクまで来てやっと戦闘能力もしくは特筆する特技あり。仕事もそれなりにある。若手だな。


 Cランクは一番多いベテランクラス。仕事に慣れてそれなりの成果は期待できるがそれ以上には成れずに停滞している奴が多い。


 Bランクは一流。この町では結構見かけるけど、ダンジョンが無い他所だと頼られる存在らしい。


 Aランクは超一流。危険な仕事をこなして成り上がった成功者。インポッシブルなミッションをこなす英雄的存在だ。



 現在はG級である俺だが、Fは年齢制限を超えるか少し仕事をすれば到達できる。功績として認めるなら最低でもEだよな。



 ギルドの建物入って受付の姉ちゃんを探す。名前なんだっけ?ト、ト、、トトリだよな?

「あ、ポールさん!お待ちしていましたこちらへ!」

 こちらを見つけたトトリさんが慌てて駆け寄ってきて手を引かれる。随分積極的ですね。嫌いじゃあない。

 受付の奥へと連れていかれて、小さな部屋に入ると中には昨日鑑定していたおっさんがいた。


「よく来てくれましたポールさん。詳しく調べたのですが、あの薬草はダンジョン内で多数見つかっている既存の薬草でした。しかし!それとは大きさも効果も段違いです!従来と同じ手法で大量のポーションが作れるのに効果は上級ポーション並なんですよ!」

「ふぅん」

「これは凄いことです!あの薬草があれば沢山の人が救われるんです!しかしダンジョンの一層を何人も使って調べたのに見つかりませんでした。どこで手に入れたのか詳しく教えて下さい!」


 受付のトトリの姉ちゃんがアチャーって顔してるよ。当たり前だ、有用な品だと力説した上で入手方法を教えろだと?馬鹿なのか?

「探して見つからないならもう無いんじゃないか?また偶然見つけたら持ってくるよ」

「ふっ!ポールさんアナタ嘘をついていますね?事態が全く分かっていないようだ。これは人道の問題なんです!隠すのは為になりませんよ!」

「そうなのか。じゃあ見つかったらまた持ってくる。そんなにいい物なら買取額も高くしたら集まりやすいかもな」

 時間を無駄にしたがこの様子を見るに今後も稼げそうだな。だが面倒も多そうだ、どこかに隠し畑でも作るかな。


「トトリさん、俺の昇格は?」

「トトナです。特別な発見ということでCランクまで認められたんですが、実績が無いのと戦闘能力が未知数という事で一旦Eランク昇格となります。魔物を討伐する依頼をいくつか熟せばすぐにCランクに昇格できますよ。自分の命の為に無茶をしない範囲をおすすめします」


 おぉ、いいじゃないか。これは本当に価値のある物だったんだな。

「こちらが新しいEクラスの登録証です」

 ピカピカ光る鉄のプレート。悪くない、だがさっさとランクを上げてしまおう。

「明日には依頼を達成してきますよ。おすすめのはありますか?」

「そうですね。常設依頼の5層オーク肉調達を達成出来たら確実だと思います」

「あぁ、まぁ、そうですか」

 5層のオーク肉調達。それは百キロ以上の肉または本体そのままを5層から引きずりあげるクソ常設依頼。報酬も大したことはなく、人を使うと赤字もあり得る不人気依頼だ。




 方やお姉さんの男を買うミッション、方や赤字覚悟のボランティアか。ストレスが溜まるぜ。

 どっちもまともにはやらないと心に誓った。まずはさっきの男でストレス解消だ。

 奴隷商は大体悪いやつだから大丈夫だろ!ううん、知らないけどきっとそう。

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